100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
プロローグ 勇者の宿命
ラビリンシア建国記念祭から1週間程過ぎ、都が祭の賑わいからも、事件の不安からも平穏なる日常に戻ろうとしていた。
そんな日に、俺はバーニン王から執務室へと呼び出されたのだ。
(そろそろじゃないかとは、思ってたがな)
過酷労働に対する抗議は、だいぶ前にそれとなくしたが、あの王様が俺に1週間を超える自由なんて与えないだろう。
そのため、そろそろ何かしらの王命が降ると予想しており、王からの呼び出しに諦念を抱きながら応じた。
身だしなみを軽く整えるに留め、王を待たせぬように執務室へ向かう。
「バーニン国王陛下。テノールです」
「入れ」
執務室の扉を叩けば、入室の許可は滞りなく得られた。
そのまま、俺は扉を潜る。
そうすれば、バーニン王とは別に、見覚えのある人物が在室していた。
「クミホさん?」
「テノールはん、また会えて嬉しいわぁ」
特徴的な言葉を使い、妖艶な美貌を持つ女性、クミホがラビリンシア国王の執務室でくつろいでいたのだ。
従者であるサコンと、同じく従者であろう女性が彼女の座る椅子の後ろに控えている。
サコンは得意げな笑みを、女性は値踏みするような視線を、俺にそれぞれ送っていた。
サコンに比べ、女性の方はまさしく、クミホの護衛らしくある。
「バーニン国王陛下。今回降される王命は彼女、クミホさんに関連する事ですか?」
「そうだ」
別件に割り込んでしまったか不安だったが、どうやら問題ないようだ。
クミホ関連の何かが、俺の与る件らしい。
とすると、気になる事が出てくる。
「国王陛下、失礼ながら。王命を賜る前に彼女の正体をお伺いしたいのですが」
クミホ関連の王命が降るという事は、彼女が国王を動かせる身分であるという事。
最低でも、他国の、それもその国の
でもなんとなくだが、ラビリンシア国王の前でくつろげているのを鑑みるに、もっと上の身分である気がした。
もしかしたら、どこぞの国の
「そんなら、ウチ自ら改めて自己紹介しよか」
クミホはとても楽しそうに笑い、俺を正面に捉えた。
嫌な予感がさらに掻き立てられる。
「ウチは極東の島国、ジパングを治める者。クミホ帝王。国民からは
「じ、ジパング!?1000年以上鎖国状態にあったあの!?」
小国の王様くらいは予想範囲内だったが、現実はそんな範囲で収まるモノではなかった。
謎に包まれた国の帝王なんて、予想できるはずもないが。
「じ、事実なのですか?国王陛下」
「事実だ。エクラタント教皇により、彼女が本物のジパング帝王である事が保証されている」
「そう、ですか……」
俺はどこか疲れたような肯定をバーニン王から得るも、驚きが抜け切らなかった。
むしろ、エクラタントがクミホの身柄を保証した事について、驚きが更新されている節もある。
エクラタントは、クミホを保証するくらい親密な仲だったのか。
「そ、そんな大物が、何をしにラビリンシアへ?協定を結ぶのでしたら、パローナが先なのでは?」
「協定やらなんやらは、国が落ち着いてからしたいねん。やから、ラビリンシアに来たんは、国を落ち着かせる手伝いをしてほしゅうてな?」
協定を結ぶ前に、クミホは懸念があった。
国の不安定さが、協定に差し支えるのではないかという、そういう懸念だろう。
しかし、国の不安定はその国の
いったいどうして、ラビリンシアに手伝いを願い出ているのか。
そして、そんな他国の内政干渉をバーニン王が請け負っているというのは、いったいどういう訳なのか。
「実はな、ウチの国、魔王軍にしょっちゅう襲われとんねん」
クミホのその一言で、俺の疑問はすべて解消される。
つまりは、人類の防波堤という大義を掲げるラビリンシアに、その大義を果たしてほしいと願ったのだ。
人類の防波堤を自称するなら、魔王軍の侵略くらい撃退できるだろうと。
それで、その大義を掲げる国の
もし拒絶しようものなら、掲げる大義が揺らいでしまう。
ただ人気を得るためだけに、聞こえの良い大義を騙っている可能性を疑われてしまうのだ。
疑いを晴らすには、態度で示さねばならない。口だけではないと、行動で示すほかない。
ここまでくれば、もう俺に降るだろう王命は読めた。
「なるほど。では、俺が助けに行けば良いのですね?」
疑いを晴らすのに最も効果的な行動。それは、大義の象徴である存在の派遣。
ラビリンシアの勇者である俺が、ジパングへ侵攻する魔王軍を撃退する事だ。
「助けに来てくれるん?あんさんにとって、なんの益にもならへんよ?」
「救いを求める者が居る。しかも、こうして貴女は助けを求め、俺の前に現れた。ならば、ラビリンシアの勇者である俺は、救いの手を差し伸べるのです」
帝王自身が来てしまっているこの状況。勇者である俺に、断るという選択肢はない。
断ろうものなら、勇者の名声は呆気なく地に堕ちるだろう。
本当に、人気商売はこれだから嫌だ。
「それに、なんの益もないなんて事はありません。救った分だけ、皆が俺を慕ってくれる。それが、俺にとっての利益です」
勇者として活躍すれば、可愛い女の子が俺に憧れ、好意を抱いてくれる。
厳格な勇者をやってて良かったと感じるのは、その時くらいだ。
「あんさん、ほんまもんの勇者やわぁ。思わず惚れてしまいそ」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
取り繕った数々の言葉で、クミホが感嘆してくれた。
こういう美人が喜んでくれる時が、こんな勇者やっていて良かったと感じる時である。
「勇者テノールよ。良いのだな」
「ええ」
バーニン王に、俺は頷いた。
覚悟はもうできている。
「では、正式に王命を降そう。勇者テノールよ、ジパングを攻め入る魔王軍を撃退せよ」
「謹んで、拝命いたします」
今日この日、王命が降った瞬間。俺は、人生2度目となる外国行きが決定するのだった。
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