100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第六章~狐が住まう国~
プロローグ 勇者の宿命


 ラビリンシア建国記念祭から1週間程過ぎ、都が祭の賑わいからも、事件の不安からも平穏なる日常に戻ろうとしていた。

 そんな日に、俺はバーニン王から執務室へと呼び出されたのだ。

 

(そろそろじゃないかとは、思ってたがな)

 

 過酷労働に対する抗議は、だいぶ前にそれとなくしたが、あの王様が俺に1週間を超える自由なんて与えないだろう。

 そのため、そろそろ何かしらの王命が降ると予想しており、王からの呼び出しに諦念を抱きながら応じた。

 身だしなみを軽く整えるに留め、王を待たせぬように執務室へ向かう。

 

「バーニン国王陛下。テノールです」

「入れ」

 

 執務室の扉を叩けば、入室の許可は滞りなく得られた。

 そのまま、俺は扉を潜る。

 そうすれば、バーニン王とは別に、見覚えのある人物が在室していた。

 

「クミホさん?」

「テノールはん、また会えて嬉しいわぁ」

 

 特徴的な言葉を使い、妖艶な美貌を持つ女性、クミホがラビリンシア国王の執務室でくつろいでいたのだ。

 従者であるサコンと、同じく従者であろう女性が彼女の座る椅子の後ろに控えている。

 サコンは得意げな笑みを、女性は値踏みするような視線を、俺にそれぞれ送っていた。

 サコンに比べ、女性の方はまさしく、クミホの護衛らしくある。

 

「バーニン国王陛下。今回降される王命は彼女、クミホさんに関連する事ですか?」

「そうだ」

 

 別件に割り込んでしまったか不安だったが、どうやら問題ないようだ。

 クミホ関連の何かが、俺の与る件らしい。

 とすると、気になる事が出てくる。

 

「国王陛下、失礼ながら。王命を賜る前に彼女の正体をお伺いしたいのですが」

 

 クミホ関連の王命が降るという事は、彼女が国王を動かせる身分であるという事。

 最低でも、他国の、それもその国の(おさ)に遣わされた者であると推測される。

 でもなんとなくだが、ラビリンシア国王の前でくつろげているのを鑑みるに、もっと上の身分である気がした。

 もしかしたら、どこぞの国の(おさ)本人とか。

 

「そんなら、ウチ自ら改めて自己紹介しよか」

 

 クミホはとても楽しそうに笑い、俺を正面に捉えた。

 嫌な予感がさらに掻き立てられる。

 

「ウチは極東の島国、ジパングを治める者。クミホ帝王。国民からは九尾帝(きゅうびてい)って呼ばれてたりもするなぁ」

「じ、ジパング!?1000年以上鎖国状態にあったあの!?」

 

 小国の王様くらいは予想範囲内だったが、現実はそんな範囲で収まるモノではなかった。

 謎に包まれた国の帝王なんて、予想できるはずもないが。

 

「じ、事実なのですか?国王陛下」

「事実だ。エクラタント教皇により、彼女が本物のジパング帝王である事が保証されている」

「そう、ですか……」

 

 俺はどこか疲れたような肯定をバーニン王から得るも、驚きが抜け切らなかった。

 むしろ、エクラタントがクミホの身柄を保証した事について、驚きが更新されている節もある。

 エクラタントは、クミホを保証するくらい親密な仲だったのか。

 

「そ、そんな大物が、何をしにラビリンシアへ?協定を結ぶのでしたら、パローナが先なのでは?」

「協定やらなんやらは、国が落ち着いてからしたいねん。やから、ラビリンシアに来たんは、国を落ち着かせる手伝いをしてほしゅうてな?」

 

 協定を結ぶ前に、クミホは懸念があった。

 国の不安定さが、協定に差し支えるのではないかという、そういう懸念だろう。

 しかし、国の不安定はその国の(おさ)、ジパングならばクミホが対処せねばならない事項。

 いったいどうして、ラビリンシアに手伝いを願い出ているのか。

 そして、そんな他国の内政干渉をバーニン王が請け負っているというのは、いったいどういう訳なのか。

 

「実はな、ウチの国、魔王軍にしょっちゅう襲われとんねん」

 

 クミホのその一言で、俺の疑問はすべて解消される。

 つまりは、人類の防波堤という大義を掲げるラビリンシアに、その大義を果たしてほしいと願ったのだ。

 人類の防波堤を自称するなら、魔王軍の侵略くらい撃退できるだろうと。

 それで、その大義を掲げる国の(おさ)たるバーニン王は、クミホの願いを聞き届けるしかなかった。

 もし拒絶しようものなら、掲げる大義が揺らいでしまう。

 ただ人気を得るためだけに、聞こえの良い大義を騙っている可能性を疑われてしまうのだ。

 疑いを晴らすには、態度で示さねばならない。口だけではないと、行動で示すほかない。

 ここまでくれば、もう俺に降るだろう王命は読めた。

 

「なるほど。では、俺が助けに行けば良いのですね?」

 

 疑いを晴らすのに最も効果的な行動。それは、大義の象徴である存在の派遣。

 ラビリンシアの勇者である俺が、ジパングへ侵攻する魔王軍を撃退する事だ。

 

「助けに来てくれるん?あんさんにとって、なんの益にもならへんよ?」

「救いを求める者が居る。しかも、こうして貴女は助けを求め、俺の前に現れた。ならば、ラビリンシアの勇者である俺は、救いの手を差し伸べるのです」

 

 帝王自身が来てしまっているこの状況。勇者である俺に、断るという選択肢はない。

 断ろうものなら、勇者の名声は呆気なく地に堕ちるだろう。

 本当に、人気商売はこれだから嫌だ。

 

「それに、なんの益もないなんて事はありません。救った分だけ、皆が俺を慕ってくれる。それが、俺にとっての利益です」

 

 勇者として活躍すれば、可愛い女の子が俺に憧れ、好意を抱いてくれる。

 厳格な勇者をやってて良かったと感じるのは、その時くらいだ。

 

「あんさん、ほんまもんの勇者やわぁ。思わず惚れてしまいそ」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

 

 取り繕った数々の言葉で、クミホが感嘆してくれた。

 こういう美人が喜んでくれる時が、こんな勇者やっていて良かったと感じる時である。

 

「勇者テノールよ。良いのだな」

「ええ」

 

 バーニン王に、俺は頷いた。

 覚悟はもうできている。

 

「では、正式に王命を降そう。勇者テノールよ、ジパングを攻め入る魔王軍を撃退せよ」

「謹んで、拝命いたします」

 

 今日この日、王命が降った瞬間。俺は、人生2度目となる外国行きが決定するのだった。




※今後の更新頻度について
 ストックの方が少なくなってきましたので、今後の更新は日に1度、毎日0時にのみ更新となります。
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