100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二節 隣の芝は青いと思っておけ

「魔物が出たぞぉ!!!」

 

 船を操縦する乗組員の警告が響いた。

 

 ジパングへと向かって進む船。その船が辿る航路は、残念ながら安全とは言い難かった。

 元より、海は大部分が魔物の領域。沿岸までなら魔物もそう湧かないが、沖合まで出てしまえばそうもいかない。

 日に2・3度の遭遇は覚悟せねばならないだろう。

 ある意味で、これがジパングの鎖国を1000年も保てた一因か。

 こんなに向かうのが大変な島国なら、余程の理由がない限り向かわない。

 余程の理由がある俺たちは、何がなんでも向かうしかないのだが。

 

(とにかく、魔物を片付けないとな。と言っても、俺が出るまでもないか)

 

 近接戦主体の俺は、海を泳ぐ魔物への対処法がほとんどない。

 むしろ、エクスカリバーに『魔力斬撃』をしてもらうのが唯一の対処法だ。

 でも、俺は悠然と構えていた。

 海の上での襲撃に備えた戦力が、この船にはあるのだ。

 

「頼む、デュランダル。『セイクリッドブレイズ』!」

「『ライトニング』!」

「『エクスプロージョン』」

 

 リカルドが聖剣デュランダルから炎を(ほとばし)らせ、ミギチカが雷を落とし、パースが射貫いた個所を爆ぜさせた。

 このように、エクスカリバーが斬撃を飛ばして1体ずつ丹念に狩るより早く、魔物が片付く。

 ちなみに、ミギチカはクミホの護衛であるから同船していて当然だが、パースが同船しているのは俺の足兼ラビリンシアの使者としてだ。

 彼の馬車もしっかり船に積まれている。

 

 救援という事ならもっとラビリンシアから兵を派遣しそうなものだが、まずは視察という事で、近衛兵はパースだけである。

 他の船を操縦している乗組員も、近衛兵ではなくそういう依頼を受注した冒険者だ。

 本当に、冒険者は依頼されればだいたいの事をやる。

 専門家ではないから、仕事を雑にやられそうで心配だが、今回雇った冒険者は船の操縦と護衛の実績がある者たち。

 特に良い実績を持つ者が厳選されているので、そういう心配はしなくて良い。

 船を守る戦力としても、リカルドたち程ではないが頼りになる。

 

「手間取らせたって、すんまへん。少人数やったら、別の移動手段が使えるんやけど」

 

 度重なる魔物との遭遇に、さすがのクミホも罪悪感を抱いたらしい。

 魔物に対処してくれた者たちへ、謝罪の言葉を告げていた。

 眉も困り眉で、狐の尾も垂れ下がっているから、本心と捉えて良いだろう。

 

「別の移動手段ですか。もしかして、ラビリンシアにこっそり入ってきた時の移動手段ですかね?輸送を担っている部隊の隊長としては、とても気になりますねぇ」

「教えたっても良いけど、特殊なドラゴンが必須やから再現は無理やないかな?」

「な、なるほど。そうでしたか」

 

 パースはそんなクミホに対し、明け透けに探りを入れた。

 話を逸らすか、口を閉ざすかすると予想していたのだろうが、クミホが概要だけでもあっさり教えてくれたので、面食らっている。

 クミホがそうやって概要だけで、それ以上の詮索を封じたようにも見える。

 4番隊隊長と言えど、約1000年国を治める者では相手が悪いか。

 俺はその高度な会話に混ざれる自信がないので、クミホへの探りはパースに任せる。

 代わりに、リカルドの方は俺が探る。

 

「聖剣デュランダル、完全に修復できたんですね」

「ムラマサの奴、腕は確かでな。修復どころか、改良しやがったんだよ」

 

 聖剣デュランダルの状態を聞いてみれば、リカルドはその剣を掲げて披露してくれた。

 その剣は一目で以前と違うのが分かる。

 以前と刀身の文様が変わっているし、紅玉の他にも宝石のような物が埋め込まれていたのだ。

 剣の腹、その裏表に紅玉も含めて4つ。対称的に並べられている。

 こういう仕事は正確にやるんだな、ムラマサ。

 

「増えている宝玉は、魔力石ですか?」

「そうだ。デュランダルの魔術はどれも燃費が悪くてな。俺なんかの魔力保有量じゃすぐに底を突いちまう。……いや、デュランダルは悪くないんだ。魔法の性能だって、燃費に見合ったもんだろ?な?」

 

 どうやら、魔力の消費を補うべく、聖剣デュランダル自体に魔力を保有させる設計にしたようだ。

 歴代ムラマサを越えてきただけあって、今代ムラマサは問題点を解決したのである。

 ……と言うか、リカルド。今地味にデュランダルと話してたな。

 

「……リカルドさん?……聖剣に宿る魂とは思念会話できますので、あまり声に出さない方が」

「……わ、分かってるんだが。……デュランダルの泣きそうな顔に、ついな?」

 

 リカルドはデュランダルへの慰めを、つい声にしてしまったという事か。

 仲が良さそうで羨ましい。

 

(おい、何か失礼な事考えなかったか?)

 

 まだ何も言ってない、もとい考えてないのにこちらはこれである。

 やるせなくて構う気も起きない。

 

「『セイクリッドブレイズ』、でしたか?あれの多用でご機嫌が悪くなったりとか、するんでしょうか?」

「ん?いや、全然。むしろ、デュランダルは多用されたがってるよ。お役に立ちたいとか。健気なもんだよな」

 

 どこか恥ずかしげでありながら嬉しそうに微笑むリカルド。

 そんな彼に、俺は苦笑しそうになる。

 

(おい、絶対失礼な事考えただろ)

 

 こっちは健気の欠片もない。横暴で自己中心的な戦闘狂だ。

 だんだん俺は聖剣エクスカリバーを手放したくなってくる。

 

(お、なら手放すか?良いぜ?それでお前は農民に元通りだ。いや、親が金持ちなってっから、(ごく)潰しにはなれるか?)

(……これからも何卒、ご助力いただければ)

(ジパングにはジパング特有の酒があるらしいな)

(……樽で買ってやる)

(これからも助け合っていこうぜ、相棒)

 

 こんなのに頼るしかない俺。

 己の惨めさに涙が流れそうだが、俺は瞳を閉じてじっとこらえるのだった。

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