100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三節 戦いに魅せられて

「へぇ。ついに動いちゃったんだ、噂の勇者様」

「そうだ。どうにも、ジパングはラビリンシアと何かしらの協定を結んだらしい。それで、友好関係を確固とすべく、ラビリンシアはジパングに勇者テノールと英雄リカルドを派遣した」

 

 城の一角を思わせる部屋。

 その部屋には蝋燭だけを明かりとしているため、話す2人の全容を窺うのは難しい。

 ただ、声質からして、前者が女性、後者が男性である事は推測できる。

 女性は男性から報告を受け、特に勇者の動向に耳を傾けていた。

 男性が勇者の動向に関する背景を補足してはいるが、女性がしっかり聞いているか、少し怪しい。

 

「暢気な侵略してたからねぇ。やっぱり、侵略とか戦争は一気にやらなきゃ。戦力小出しにするなんて詰まんないでしょ?」

「詰まる詰まらないの話じゃない。あの国は平和的に我らの軍門へ降ってもらう計画だった。あの狐風情が付け上がらなければ、今時あの国は俺らの植民地だったんだ」

 

 女性が男性の失敗を嘲りつつ、己の愉悦を持ち出して語った。

 対し、男性は失敗の悔しさを噛みしめながら、失敗の原因とする人物に悪態を()く。

 

「結局どうするの?平和的な植民地化ができなかった上に、あの勇者様が来ちゃったけど」

「攻め落としてやれば良い。交渉の卓に着かないなら、暴力で言い聞かせるしかない」

「それで、あたしの出番って訳?」

 

 暢気な侵略に辟易していた女性は、『暴力』の単語でとても乗り気になった。

 同時に、その話をしているという事は、自分がその暴力の役回りを背負うのだろうと、心を躍らせている。

 

「ああ。好きだろ?戦い」

「もちろん、大好き。強い奴とか居るならなおさら」

 

 男性が呆れながらした質問に、女性は満面の笑みを浮かべた。

 彼女は、戦いをこよなく愛しているのだ。

 そして、弱者を甚振るのも好きだが、より好きなのは強者と矛を交える事なのである。

 そういう意味で、今回巡ってきた役回りに彼女は期待している。

 噂の勇者と矛を交えられる。

 つい舌なめずりをしてしまう程、女性はその瞬間を楽しみにしている。

 

「では、ジパングへの侵略はお前に一任するぞ、リョー。これは魔王様の命令と思え」

「ええ。謹んで承りましょう、ロス。全ては魔王様のために」

 

 男性、魔王軍幹部のロスが魔王に代わって命令を下せば、女性、魔王軍幹部のリョー・フーは喜んで任ぜられた。

 そう。彼らは魔王軍、人類への侵略を目論む魔物たちである。

 

「これを渡しておく。ヴァンの奴が勇者テノールたちと戦った時の映像記録だ」

「それならすでに持ってるわ」

 

 ロスが録画魔道具を差し出したのだが、リョーが同じ物を懐より取り出した。

 彼女は侵略の命が降る前から、ヴァンに強請って貰っていたのだ。(ひとえ)に、自身の好奇心を満たすために。

 

「準備が良いな。じゃあ、後は勝手にやれ。人形か分身が必要なら早めに言えよ。徹夜作業は御免だ」

「了解。ま、私の手勢だけで充分でしょうけどね」

「そうであってほしいもんだ」

 

 ロスはリョーの余裕が過信でない事を祈り、また、自身に緊急の案件が舞い込まない事も祈りつつ、部屋を後にした。

 己1人となったリョーは、思い立ったように手持ちの録画魔道具を、部屋に備え付けられていた投影魔道具に装填する。

 そうすれば、録画魔道具に記録された映像が、専用の銀幕に投影される。

 投影される映像は、ラビリンシアのナンタン領にあるヴァンの拠点で繰り広げられた、勇者テノールとの交戦。

 ヴァンの首をテノールが切り落としたところで、その映像は終わっている。

 リョーはそこに至る前、ヴァンの群体にテノールだけが奮戦している時間を何度も見返していた。

 テノールの戦闘に、彼女は惹かれているのだ。

 

「あの人の剣に似ている……。ただ1人で魔王軍に挑んだ、あの少女の剣に……」

 

 テノールの戦闘映像は、リョーにとある記憶を想起させていた。

 1000年以上も昔、勇者アルトとその仲間たちが攻め入ってきた時より昔。

 

 魔王軍は、たった1人の少女に、魔王の下まで辿り着かれた事がある。

 当時から魔王軍幹部だったリョーはその少女と戦った。

 だが、魔王の下まで辿り着かれている事から分かる通り、リョーは少女に負けたのだ。

 その時の戦いを、リョーは忘れられずにいる。

 

 敗北というだけなら、その少女以外にも経験がある。

 最初にして最古の敗北が『武神エフエフ』、最後にして最新の敗北が勇者アルトとその仲間たち。

 それ以外での敗北はないため、『武神エフエフ』、少女、勇者アルトたちで計3度がリューの敗北経験だ。

 それでも、最も鮮烈に記憶しているのが、少女との戦いなのである。

 『武神エフエフ』との戦いは、1対1ではあったが、存在の格からして違ったため、呆気なく捻り潰された。

 神との勝負だった事もあり、その敗北になんの感慨も抱けていない。

 勇者アルトたちとの戦いは、見事な連携に真っ正面から挑めて、リョー的に悪くない戦いではあった。

 しかし、1対多。数を負けた言い訳にするつもりはないが、心は満たされていない。

 

 少女だけが、同じ格でありながら、1対1でぶつかり合い、華麗にも切り捨てられた。

 その華麗な、ヒューマンの身でありながらどこまでも研ぎ澄まされた剣技が、リョーの目に焼き付いて離れない。

 

「うふふ……。また、貴女の剣と戦えるなんて……。楽しみねぇ、名前も訊けなかった貴女……。貴女の剣を継いだ、勇者テノール……。あたしと、心行くまで切り合って、心の底から楽しみましょう……?」

 

 リョーは蕩けたような表情で、テノールの戦う姿に噛り付く。

 その華麗な剣とまた戦える瞬間を、心待ちにしながら。

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