100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「ここがジパングか……」
船による長旅の末、俺たちはその国へと到着した。
長き鎖国で謎に包まれた国、建ち並ぶほとんどの建造物が木造である国。
そして――
「ようこそ。ウチの国、ファーリーの国へ」
――獣の耳と獣の尾を生やした者、ファーリーしか居ない国。
船より最初に下りたクミホが、俺たちの方へと振り返り、妖艶な笑みで歓待した。
ここが、クミホの治める国、ジパング。
木造建築ばかりが視界を埋め、今までクミホとその護衛以外見た事がない種族がそこかしこに行き交う光景。
その光景はとても幻想めいており、神秘的にすら映る。
「驚きですねぇ。絶海の孤島故に、魔物が独自の進化を果たしたんでしょうか……」
「むぅ、できる事ならウチらファーリーを人類に分類してほしいんやけど」
「おっと、失礼」
率直な疑問をパースが述べれば、それがクミホの機嫌を悪くする。
失言としてパースは即座に謝った。
正直、彼の失言は仕方ないと思う。確かに大部分はヒューマンと同じ姿だが、その分獣の耳と尾が際立っている。
ワーウルフやワーキャットなど、そういう魔物からの進化を俺も疑ってしまう。
(実際、魔力の質は魔物よりだな。しかも、感覚的に一番近いのはキメラか)
エクスカリバーの感覚も、ファーリーを魔物と感じ取っていた。
しかも、人工魔物たるキメラ。
そうすると、ファーリーの発生は自然でなく、人為的なモノである可能性が出てくる。
仮に人為的な発生だとすれば、誰が好き好んでヒューマンに獣要素を足したのか。
(そういえば、ヌエトラの奴もファーリーにそっくりだよな)
(……そういえば、そうだな)
言われて思い出したが、ヌエトラの思念体もファーリーに酷似していた。
ヌエトラの思念体は生前と違う姿を取っているらしい。
元は獣系の魔物と人間をいくつも掛け合わせたキメラ。その姿は酷く冒涜的であったという話。
そんな冒涜的な姿を真似るのも所有者の精神衛生上よろしくないし、魂が12分割されたからそもそも真似られないとの事だ。
(……獣系と人間が混じってるって点では、ファーリーと合致するんだな)
そんな事を思い出していれば、ヌエトラとファーリーに符合する点を見つけてしまった。
あくまで推測を重ねた仮説になるが、ヌエトラたちとファーリーたちは同じ要素を掛け合わせて生まれたキメラ。
ならば、創造主が同じである線が浮上する。
(ヌエトラの元のキメラを作ったってのは、『邪神フィーネ』だったか?)
そう。ヌエトラを生み出したのは、魔物研究家と悪名高い『邪神フィーネ』である。
そして、新種族を生み出す領域となると、『邪神フィーネ』が創造主であるというのは、非常に説得力があるのだ。
伝説でもさんざん魔物を生み出しているし、魔物研究の過程で人間と獣要素を掛け合わせるくらいはやりかねない。
「しかし、何と言いますか……。当人たちを目の前にして口にするのは無遠慮かもしれませんが、どうにもファーリーという種族の起源が気になりますねぇ。どことも地続きではないとはいえ、こんなどの種族からもかけ離れた生物が生まれるものでしょうか」
パースは立場を弁えていないと自覚しながら、ファーリーの起源について踏み込んだ。
ここまで強引に踏み込んでいるという事は、彼も『邪神フィーネ』の関与を疑っているのか。
「まぁ、特徴としてはヒューマンに似てますけど。ワーウルフとヒューマンの混血だって、どちらかの特徴が強く出るはずです。どちらの特徴も継承するという事例は、私でも聞き覚えがありませんねぇ」
おまけに、世界の常識も補足して追及していた。
これで、偶然生まれたという口上では言い逃れがしづらい。
「ウチらの事を怪しむんは分かるよ?パースはん。やから、そこについては誠実に開示させていただきますわ。でも、こんな公衆の面前では、勘弁したってな?」
クミホはやはりファーリーの起源について知っており、素直に教える事を約束した。
また意外にも抵抗がなかった事に、パースは面食らっている。
そんなパースを楽しむように微笑んでいるのだから、クミホは悪い人だ。
「船旅で疲れとるやろ?まずは、この港町でもてなさせてぇな。あんさんが気になってるんもそこで」
クミホはパースの追及を受け流しつつ、誰かを呼ぶように手を鳴らす。
そうすれば、綺麗な着物を纏った女性ファーリーたちが大挙してきた。
察するに、クミホは俺たちへの歓迎会を画策していたのだろう。
「準備できとる?」
「はい、整えてございます」
クミホが細かく訊ねずとも、大挙してきた女性たちの代表は意を汲み、肯定していた。
全ては、クミホの計画通りという訳か。
「ほな、ラビリンシアよりお越しくださった使者様方。船の操縦を行ってくれた冒険者はんらも、ジパングの温泉宿にごあんなぁい」
クミホのその言葉が合図となり、俺たちがそれぞれ女性に手を引かれる。
おもてなしを押し付けるように、俺たちを逃がそうとしない。
冒険者たちは美しい女性たちに惑わされてか、抵抗なく女性たちの引く手に従う。
俺は、パースとリカルドへ顔を向けた。
リカルドはとても不安げで、こちらに指示を仰いでいる。
対し、パースは、険しい表情で俺とリカルドに1つ頷き、女性に手を引かれていく。
罠かどうか、身を以て確かめようと、パースは決心したようだ。
ラビリンシアの使者、その代表者がそう決めたのであれば、俺とリカルドはパースに倣うしかない。
俺は笑顔を取り繕い、リカルドは不安げなまま、ファーリーたちに案内されるのだった。