100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第七節 理性ある決断

「ほな、そっちの番や。ウチに何か訊きたい事があるんやろ?」

 

 俺からも用件がある事を、クミホは気付いていて、それを促した。

 会話の初めに俺が『ではまず、そちらの用件から』と言ったから、分かりやすいものだろう。

 別に隠す気はないので、分かりやすくても構わなかったのだ。

 

「では、お言葉に甘えて。……ファーリーという種族を生み出したのは、『邪神フィーネ』ですか?」

「……」

 

 促されるままに気になっていた事を訊いてみれば、クミホは虚を突かれたように、目を見開いて固まった。

 これは、正解を引いたか。

 

「答えづらい事でしたら、口を閉ざしていただいて構いません」

「いいや、単純にびっくりしただけや。まさか、その可能性になんも説明せんと至っとるとは。パースはんでも、順に説明して、ようやく納得してくれたんよ?」

 

 クミホからして、この可能性を考えられている事は称賛に値するようだ。

 彼女は感嘆しているように、その驚きを言葉にした。

 というか、パースにはもう説明済みなのか。まぁ、彼はかなりファーリーの起源を気にしていたからな。

 

「では、俺の推測は当たっていますか?」

「当たらずとも遠からず。『邪神フィーネ』は、ファーリー研究の協力者や」

「ま、まさか、発案者は他に居ると?」

 

 少なからず、俺は衝撃を受けた。

 新種族を生み出そうと考え出したのが、かの神ではなく別の存在であるとは、あまりにも予想外だ。

 新たな魔物の創造に着手する酔狂な人物が、『邪神フィーネ』以外に実在するなんて。

 いったいどんな狂人なのか。

 

「まぁ、他でもないウチなんやけど」

「…………は?」

「ウチがファーリーを生み出そう言い出した発案者や」

「…………」

 

 俺は、理解が追い付かなかった。

 だって、クミホもファーリーだ。

 俺はてっきり、クミホがその狂人の第一被害者だと思っていた。

 被害者どころか加害者だったとは、とても思えない。

 

「ああ、そうか!自分しかその種族が居なかったから、頑張って増やそうとしたんですね?」

 

 それ故、クミホが故あっての加害者である可能性を、俺は考慮した。

 寂しさを紛らわせるために仲間を作ろうとしたのならば、その行動を誰が非難できようか。

 

「なんや気を窺ってくれとるのに申し訳ないんやけど、そんなこったないんよ」

「……」

 

 クミホは苦笑を浮かべてまで否定してくれた。

 おかげで、俺の考えが間違っていると確信できたのだが、おかげで俺の中のクミホ像がかなり歪んできている。

 

「……では、どうして?」

「ウチは、美しいモンを作りたかったんや」

 

 恐る恐る追求すれば、返ってきたのはやはり理解の外にある思考。

 ただ、クミホが本来芸術家である事は、なんとなく理解した。

 芸術家とは、得てして群衆の発想を逸脱するものだ。

 

「ファーリーが、美しいモノであると?」

「そうや。人の姿に獣の耳と尾を生やす。こんな神秘的で幻想的な生き物が他に居るやろうか」

 

 俺からして、クミホは本心が読みづらい相手だったが、今はどうにも読みやすい。

 だって、彼女はこの瞬間こそ本心を語っている。

 そうとしか見えない程、彼女の語り口は楽しそうである。

 

「……キメラは生殖機能がないとされていますが、それはどうなっています?」

「その問題解決しとらんかったらこんな増えとらんし、種族なんて名乗りまへんよ」

 

 念のための確認であったが、ファーリーはしっかり種族としての(てい)を成しているらしい。

 クミホの芸術にかける執念は、素晴らしいと言うべきか、恐ろしいと言うべきか。

 でも、俺は恐ろしいと言おう。

 

「……新種族を生み出す、その過程にどれ程の犠牲を出しましたか」

 

 何故なら、そこまでやり遂げるのに、失敗がなかった訳はないからだ。

 絶対に、失敗作として打ち捨てられた命がある。

 

「……そうやな。犠牲がなかったとは、口が裂けても言えんわ。ウチが何人かを犠牲にしたんは、間違ぉてない」

 

 クミホは犠牲があった事実を濁さなかった。

 その事実を話す彼女には、哀愁が漂っている。

 

「技術の進歩には、犠牲が付き物です。ですが、だからと言ってそれを看過して良い訳ではない」

 

 クミホの芸術にかけた執念は理解しよう。

 夢を叶えるためには綺麗事だけで済まないのは重々承知だ。

 だが、それらは人殺しを無罪にする免罪符に、決してなり得ない。

 

「……なら、どうするん?ラビリンシアとミナ・ミヌエーラから独自裁量権を与えられとる君は、ウチをどないしたいん?」

 

 クミホは微笑んだ。妖し気に、楽しげに。

 相手は1つの国を治める(おさ)だが、俺は2つの国に認められた勇者だ。

 正当な理由がある以上、俺なら彼女を悪と断じて裁く事も可能だろう。

 しかし、俺は正しさに殉ずる勇者ではない。実利を取る者だ。

 ここで彼女を裁く事に、なんの理があるだろう。

 そも、素直に裁きを受けるとは限らない。

 それに、今手元に聖剣がないのだから、やるだけ無駄だ。

 ならば、盛大にそれっぽく纏めよう。

 

「罪の償いに努めてください。貴女には、その意思があるでしょう?貴女は、自身の子供たちを愛しているのだから」

「……。……ほんま、あんさんは勇者やね」

 

 意外感を顔に出して数瞬、クミホは穏やかな顔で、俺に賛辞を贈った。

 俺は上手く纏められたのだ。

 ファーリーたちの(おさ)となっている事を根拠に、彼女が自身の創作物を、例え失敗作だとしても愛する人格だと判断した上での、この纏め方だった。

 多少部の悪い賭けだったが、勝ちは勝ちである。

 

「それにしてもどないしよう。テノールはんに弱み握られてもうた。弱みを種に強請(ゆす)られたら、ウチは逆らえへん。それこそ、夜伽を強要されても従ってまうわ」

「では、俺の用件も済みましたので。俺はこの辺りで失礼します」

 

 揶揄いとして色仕掛けしてきたクミホを無視し、俺は温泉から上がる。

 これでも美人を目の前にして我慢してきたのだ。

 追い打ちされたら、俺でも理性が保てないかもしれない。

 のぼせてきてるのもあって、俺の理性は割と危なかった。

 クミホがそれをまさか狙っていたのかと頭に過らせつつ、背後から『あぁん、いけずぅ』というクミホの言葉を幻聴という事にしたのだった。

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