100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「ほな、そっちの番や。ウチに何か訊きたい事があるんやろ?」
俺からも用件がある事を、クミホは気付いていて、それを促した。
会話の初めに俺が『ではまず、そちらの用件から』と言ったから、分かりやすいものだろう。
別に隠す気はないので、分かりやすくても構わなかったのだ。
「では、お言葉に甘えて。……ファーリーという種族を生み出したのは、『邪神フィーネ』ですか?」
「……」
促されるままに気になっていた事を訊いてみれば、クミホは虚を突かれたように、目を見開いて固まった。
これは、正解を引いたか。
「答えづらい事でしたら、口を閉ざしていただいて構いません」
「いいや、単純にびっくりしただけや。まさか、その可能性になんも説明せんと至っとるとは。パースはんでも、順に説明して、ようやく納得してくれたんよ?」
クミホからして、この可能性を考えられている事は称賛に値するようだ。
彼女は感嘆しているように、その驚きを言葉にした。
というか、パースにはもう説明済みなのか。まぁ、彼はかなりファーリーの起源を気にしていたからな。
「では、俺の推測は当たっていますか?」
「当たらずとも遠からず。『邪神フィーネ』は、ファーリー研究の協力者や」
「ま、まさか、発案者は他に居ると?」
少なからず、俺は衝撃を受けた。
新種族を生み出そうと考え出したのが、かの神ではなく別の存在であるとは、あまりにも予想外だ。
新たな魔物の創造に着手する酔狂な人物が、『邪神フィーネ』以外に実在するなんて。
いったいどんな狂人なのか。
「まぁ、他でもないウチなんやけど」
「…………は?」
「ウチがファーリーを生み出そう言い出した発案者や」
「…………」
俺は、理解が追い付かなかった。
だって、クミホもファーリーだ。
俺はてっきり、クミホがその狂人の第一被害者だと思っていた。
被害者どころか加害者だったとは、とても思えない。
「ああ、そうか!自分しかその種族が居なかったから、頑張って増やそうとしたんですね?」
それ故、クミホが故あっての加害者である可能性を、俺は考慮した。
寂しさを紛らわせるために仲間を作ろうとしたのならば、その行動を誰が非難できようか。
「なんや気を窺ってくれとるのに申し訳ないんやけど、そんなこったないんよ」
「……」
クミホは苦笑を浮かべてまで否定してくれた。
おかげで、俺の考えが間違っていると確信できたのだが、おかげで俺の中のクミホ像がかなり歪んできている。
「……では、どうして?」
「ウチは、美しいモンを作りたかったんや」
恐る恐る追求すれば、返ってきたのはやはり理解の外にある思考。
ただ、クミホが本来芸術家である事は、なんとなく理解した。
芸術家とは、得てして群衆の発想を逸脱するものだ。
「ファーリーが、美しいモノであると?」
「そうや。人の姿に獣の耳と尾を生やす。こんな神秘的で幻想的な生き物が他に居るやろうか」
俺からして、クミホは本心が読みづらい相手だったが、今はどうにも読みやすい。
だって、彼女はこの瞬間こそ本心を語っている。
そうとしか見えない程、彼女の語り口は楽しそうである。
「……キメラは生殖機能がないとされていますが、それはどうなっています?」
「その問題解決しとらんかったらこんな増えとらんし、種族なんて名乗りまへんよ」
念のための確認であったが、ファーリーはしっかり種族としての
クミホの芸術にかける執念は、素晴らしいと言うべきか、恐ろしいと言うべきか。
でも、俺は恐ろしいと言おう。
「……新種族を生み出す、その過程にどれ程の犠牲を出しましたか」
何故なら、そこまでやり遂げるのに、失敗がなかった訳はないからだ。
絶対に、失敗作として打ち捨てられた命がある。
「……そうやな。犠牲がなかったとは、口が裂けても言えんわ。ウチが何人かを犠牲にしたんは、間違ぉてない」
クミホは犠牲があった事実を濁さなかった。
その事実を話す彼女には、哀愁が漂っている。
「技術の進歩には、犠牲が付き物です。ですが、だからと言ってそれを看過して良い訳ではない」
クミホの芸術にかけた執念は理解しよう。
夢を叶えるためには綺麗事だけで済まないのは重々承知だ。
だが、それらは人殺しを無罪にする免罪符に、決してなり得ない。
「……なら、どうするん?ラビリンシアとミナ・ミヌエーラから独自裁量権を与えられとる君は、ウチをどないしたいん?」
クミホは微笑んだ。妖し気に、楽しげに。
相手は1つの国を治める
正当な理由がある以上、俺なら彼女を悪と断じて裁く事も可能だろう。
しかし、俺は正しさに殉ずる勇者ではない。実利を取る者だ。
ここで彼女を裁く事に、なんの理があるだろう。
そも、素直に裁きを受けるとは限らない。
それに、今手元に聖剣がないのだから、やるだけ無駄だ。
ならば、盛大にそれっぽく纏めよう。
「罪の償いに努めてください。貴女には、その意思があるでしょう?貴女は、自身の子供たちを愛しているのだから」
「……。……ほんま、あんさんは勇者やね」
意外感を顔に出して数瞬、クミホは穏やかな顔で、俺に賛辞を贈った。
俺は上手く纏められたのだ。
ファーリーたちの
多少部の悪い賭けだったが、勝ちは勝ちである。
「それにしてもどないしよう。テノールはんに弱み握られてもうた。弱みを種に
「では、俺の用件も済みましたので。俺はこの辺りで失礼します」
揶揄いとして色仕掛けしてきたクミホを無視し、俺は温泉から上がる。
これでも美人を目の前にして我慢してきたのだ。
追い打ちされたら、俺でも理性が保てないかもしれない。
のぼせてきてるのもあって、俺の理性は割と危なかった。
クミホがそれをまさか狙っていたのかと頭に過らせつつ、背後から『あぁん、いけずぅ』というクミホの言葉を幻聴という事にしたのだった。