100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第八節 煙に巻く

 ジパングの温泉宿に1泊し、ジパングに来て2日目となる日。

 クミホ用の馬車、と言うより牛車とその御者及び護衛が港町に来たのもあって、それからジパング首都、キョーへと向けて出発となった。

 俺とリカルドはパースの馬車に乗り、クミホの護衛たちが乗る馬車に囲まれて、その帰路を同行する。

 そんな中、俺は客車ではなく、パースの隣、御者台に腰かけていた。

 

「……何か御用があるんですね?テノールさん」

「……ええ、確認しておきたい事があって」

 

 パースは俺の雰囲気で察していたのだろう。彼は周りへ聞こえづらいよう、小声で用件を窺ってきた。

 これ幸いにと、俺は用件に移らせてもらう。

 

「……パースさんはファーリーの事、どこまで聞き出しましたか?」

 

 俺はパースとファーリーについての情報に差がないか、確認しておきたかったのだ。

 俺の方が持つ情報が多かった場合、その情報をうっかり口走ってしまうかもしれない。

 口走らないにしても、情報を伏せるかどうかは事前に決めておきたい。

 

「……クミホ帝王陛下がその創始者であり、協力者には偉大なお方が居た事。そんな辺りは聞かされていますねぇ」

 

 どうやら、情報にそれ程差はないようだ。

 パースが苦笑してるところを見るに、『邪神フィーネ』が関与していた事も、把握済みと考えて良いだろう。

 

「……テノールさんも同様に聞かされているようで」

 

 俺がパースの苦笑で読み取ったように、パースも俺の変わらぬ表情で読み取っていた。

 お互い様だ。情報量が同じなら、隠す事もない。

 

「……いつクミホ陛下とお話を?そんな時間はなかったように思いますが」

「……入浴後に捕まりまして」

 

 間違っても、入浴中に捕まったとは言わない。

 絶対揶揄われる。

 

「……なるほど、1人になったところを狙われたと。何か、仕掛けられましたか?」

「……仕掛けられたと言えば仕掛けられましたが、ご心配なく。この通りです」

 

 クミホの誘惑に負けなかった己を、誇るように見せ付ける。

 俺は俺の理性に誇りを抱いていた。

 美人の裸体に、厳密に言えば布一枚あったが、我ながらよく耐えたものだ。

 

(『美人の裸体』ってなんの話だ?)

 

 エクスカリバーに詮索されるが、パースとの会話中なので無視する。

 

「……さすがですね、テノールさん。あの方の謀りを退けるなんて。私なんて終始相手の手のひらの上で、そろそろ自信がなくなってきましたよぉ」

「……俺はただ、幼稚にも己の意思を貫いているだけです。話術で勝負したら、負けは必至でしょう」

 

 パースは話術勝負でクミホに負け続けているため、クミホに勝った俺を心より称賛していた。

 しかし、俺は勝負の卓に着かず、ひたすら意固地を張り続けていただけ。

 パースの称賛に値するような事は、していないだろう。

 

「……いやー。あの方の前で意思を貫くってだけでも、かなり忍耐力が必要でしょう」

「……そうでしょうね。お恥ずかしながら、俺も危ないところがありました。もう一押しされていたら、どうなっていたか分かりません」

 

 もしあの場でクミホが密着してきていたら、俺でも耐え切れたか怪しい。

 彼女がそこまでしてこなかったのは、彼女の気まぐれか、もしくは自尊心か。はたまた、良心か。

 

「……それにしても、意外ですねぇ」

「……何がですか?」

「……かの陛下の所業、気付いていないテノールさんではないでしょう?」

 

 クミホの所業。思い当たるのは、ファーリーを生み出す過程で犠牲を少なからず出している事。

 とすると、パースもクミホ同様、その悪行を裁くと思い違いをしているのだろう。

 

「……俺は盲目な正義も、行き過ぎた正義も、かざすつもりはありません」

「……クミホ陛下を裁くのは正義ではないと?」

「……正義では、あるでしょう。でも、俺の目指す正義ではない。俺は、もっとみんなが幸せになってほしいんです」

 

 クミホを裁く事、それも正義の執行ではある。

 だが、彼女を裁いた後、この国はどうなる。

 ファーリーを生み出したその日よりファーリーを守り続けてきた者を、このジパングという国は失ってしまう。

 そうなれば、いったい何が起こるか。

 まず、単純なところで俺が反感を買うだろう。

 長く国を治める者なのだ。多くの支持者が居るのは確定的である。

 そんな多くの者から反感を買うなど、人気商売たる勇者では、商売上がったりだ。

 また、当主交代などした事のないこの国では、当主の喪失は少なからず混乱を生じさせ得る。

 1つの国の混乱は、その国だけでは収まらないものだ。

 何かしら、他国に波及する問題が出てくる。

 そういう様々な要因があり、裁くより生かした方がみんな得をする、もとい、みんな幸せなのである。

 

「……御見それしました。2か国に勇者と認められたのは、伊達ではないですねぇ」

 

 パースは俺の意見に感心してくれた。

 多分、かなり都合の良い解釈をされている。

 都合が良いなら訂正する必要がないので、当然俺は詳細を述べないし、訂正もしない。

 

「……身に余る光栄ですけどね、2か国認可勇者なんて」

「……いやいやそんな。貴方以外ならなかったら誰がなるってくらい、身分相応の称号ですよ」

「……そうであるよう、努めていきます」

 

 念のため謙遜をしておいて、この会話を締める。

 無事、俺の用件は済んだ。

 

(で、『美人の裸体』ってなんだよ)

 

 後は、エクスカリバーの詮索をどう乗り切るかだけである。

 そうして俺は、中継地点に着くまで、言い逃れを試みるのだった。

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