100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「セイッ」
「甘い!」
「なっ」
俺の振るっていた聖剣が、サコンの刀に弾き飛ばされた。
俺の手から離れた聖剣は、俺の後方で大地に突き立てられる。
取りに向かうべく後退を選んだのだが、実行する間は与えられなかった。
サコンの刃が俺の首に添えられ、詰めとなったのだ。
「こ、降参です」
この戦いがただの組手で良かったと心底思いながら、俺は両手を上げた。
そう。この戦いは中継地点、首都までの道中である町にて行われた暇潰しなのだ。
提案はサコンよりされ、クミホも後押ししたため、断りづらくなった故にこうして付き合っている。
「……。お噂は本当だったんですかい。あのエリーってのと戦ってた時とは、まるで別人で驚きやす」
手ごたえのなさに、サコンは苦笑していた。
『お噂』というのが、悪との戦いでなければ全力で戦えないというあの噂なのは、聞くまでもない。
武闘会の親善試合、エリーとの戦いで全力を出していたために、彼の中では半信半疑になっていたのか。
こうして実体験すれば噂は本当だったと彼は確信し、落胆している。
「組手の相手も十全に務められず、申し訳ない」
「いやいや、俺の我がままでしたんで、気にせんでくだせぇ。それに、剣から勇者様の優しさが伝わって来たもんでさぁ。無理させやしたね」
「単純な力負けですよ」
サコンは俺が振るった剣の軽さを、傷つけたくない躊躇、優しさと評した。
残念ながら、剣の軽さは優しさでもなんでもない。
我ながら情けなさ過ぎて、つい苦笑が零れる。
(相変わらず雑魚いなぁ)
俺が弱いのは認めるが、だからと言って罵倒を受け入れるつもりはない。
だから聞き流す。
エクスカリバーの相手をすれば罵倒が飛んでくる。抗議しても損をするのだ。
「一応ですが、そちらも肉体強化はしていないんですよね?」
「俺も男なもんで、約束は違えやせん」
お互い魔術で補助はしてないのに、俺は力負けしていた。
種族差故、仕方のない事だ。
ファーリーは、エクスカリバー曰くワーキャットやワーウルフにも近い魔力の質をしている。
ならば、ヒューマンとワーキャットやワーウルフを素材にしたキメラが、彼らファーリーなのではないか。
さすがに失礼になり得るので、そこを訊ねはしないが。
「悔しまんとってや、テノールはん。サコンはファーリーの中でも、戦闘に長けとる血筋やさかい、基礎の身体能力がファーリー随一なんや」
「なるほど。サコンさんは武家の者であると」
「ま、そう言う言い方も、できるかもしれへんな」
クミホは含みのある言い方で、妖しく微笑んでいた。
それに、できるかもしれないという事は、正確ではないという事だ。
察するに、サコンは武家の者ではないのか。
「サコンさんは、軍事を担う官職の家系ですか?」
「……違うなぁ」
妖しさが増すクミホの答えは、否だった。
武家で合っているなら、今の質問には是、ないし近しいと答えられるはずだ。
やはり、サコンは武家の者ではない。
では、いったいなんなのか。
手掛かりは、武家の者とも言えるかもしれない事。
そして――
(『あんさんの家系はかなり戦闘向きに調整したんやけど』、だったか)
――武闘会の2日目、クミホとサコンが人通りの少ない所でしていた会話。
あの時はまるで意味が分からなかったために聞き流していたが、現状においてその意味が分かってくる。
クミホがファーリーの創造者なのだから、調整というのは言い換えでもなければかけ離れた暗喩でもないのだろう。
しかし、サコンの体に直接的な処置を施した訳ではないように思える。
クミホが言及していたのも、『家系』についてだ。サコン個人にではない。
サコンの血筋全てに処置を施していたならば、そういう表現にはなる。
が、クミホが芸術家気質だとしても、かかる費用や時間を無視してまで、手を加えるだろうか。
クミホは、ファーリーというキメラを1体生み出すのではなく、生殖により自発的な繁栄を可能にさせたのだ。
クミホは魔道具を組み立てるような、1から10まで己の手でやるのではなく、家畜を育てるような、指向性は与えども、自然な流れに任せる方が好きなのではないか。
以上の手掛かりと推測から、俺は1つの仮説を導き出す。
「サコンさんの家系は、戦士として優秀な者たちを結婚させて、存続させた家系ですね?」
「お見事や。もうちょい手掛かりが必要やと予想しとったけど、テノールはんには必要なかったみたいやね」
今度の答えは是。
サコンの家系は、強者らを交配させ続けた家系。
つまり、戦う才能のある者が生まれやすいようにした、戦闘民族的な家系なのである。
「気持ち悪いですかい?勇者様」
俺が非常に微妙な顔をしていたため、サコンはその心情を読み取った。
俺はすぐに頭を横に振り、顔を取り繕いつつ、その心情が厳密には当たっていない事を示す。
「気持ち悪いなんて、全く思っていません。そういう文化がないので、少し違和感を覚えただけです」
「そうでやしたか。俺にとっては当たり前やしたからね。爺さんも親父もやってきた事なんで、違和感なんぞ全然」
陽気なサコン。
彼の口から、嘘が吐かれている様子はない。
彼にとっては、結婚相手が勝手に決められる事が、当たり前の事なのだ。
「……」
取り繕った顔を保てず、また微妙な顔になってしまう俺。
それでも、サコンやクミホに追求せず、口を閉じるのだった。