100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
中継地点の町で過ごし、一夜を明かした朝。
出発にはまだ時間があるという事で、俺はその町を散策していた。
賑わいで首都に勝るものではないだろうが、木造建築が建ち並ぶ景色を眺めるだけでも、なかなか
石造りの町を見慣れた俺にとって、その景色はとても新鮮なのである。
おまけに、俺の名が広まっているラビリンシアと違って、意図せず注目を集めたり、頻繁に呼び止められたりしない。
おかげで静かに景色を見て回れる。
そうして一夜を明かした宿屋の近辺を回って戻ってきたのだが、俺の足はその宿屋の入り口で縫い留められる。
(彼女は、ミギチカだったか)
クミホの護衛とだけ紹介された女性ファーリー、ミギチカ。
彼女が別の女性ファーリーと宿屋の広間で話していたのだ。
何やら事務的なやり取りを済ませ、名の知らぬ女性ファーリーが俺の横を通り過ぎる。
しっかり俺にお辞儀した辺り、この女性ファーリーも俺が国賓だと知らされている官僚なのだろう。
俺も笑顔でお辞儀を返し、自然とその背を見送る。
女性ファーリーは指笛を鳴らしたかと思えば、巨大な
そのサンダーバードの着地も待たずに女性ファーリーが跳び乗れば、サンダーバードはその女性ファーリーを背に乗せて、どこぞへと飛んでいく。
女性ファーリーは武官の方だったのかもしれない。
「何かご用でしょうか?」
鳥に乗って飛んでいくという光景に驚愕と感激で目を奪われていると、知らずの内にミギチカが寄ってきていた。
彼女は俺が用事のあるものと、考えたのだろう。
注視とまで行かずとも、短くない時間で会話しているのを見ていたから、そう考えるのも無理はない。
本当は用事などなかったのだが、彼女の名誉のために、何か用事を急遽作ろう。
それで、俺は丁度良い話題を思い付く。
「2・3質問を。個人的な興味ですので、無理にお付き合いいただけなくても構いません」
まずは相手の都合を尋ねる。
これができてこその紳士だ。
「勇者様のご用件を最優先にするよう、クミホ様より仰せつかっております。何なりと質問を」
ミギチカは好むでも嫌がるでもなく、まるで手引きでもあるような固い応対をかました。
固い応対はケイヴェやトリス、ランテと様々な相手にされているので、無駄に経験豊富である。
それに、ミギチカの固さはケイヴェの無機質な固さに似ているから、未経験ではない。
そのため耐性があり、気にする事はない。
強いて気にする事があるとすれば、クミホがまだ俺を狙っていそうだという事。
部下たちに度が過ぎるくらい丁重に扱えと指令を出しているのが、その証拠である。
情に
その事を頭の片隅に置きつつ、ミギチカらと交流しよう。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。……サコンさんが、強い者との婚姻をクミホさんの手によって決められる家系にあると、俺は窺いました。その事について、ミギチカさんはどう思いますか」
俺は、この国の常識、慣習についてのミギチカに問った。
俺の違和感に共感を求めている訳ではない。
誰も疑問を抱いていないのかという確認と、彼女の性格を推し量る試しだ。
「大変光栄な事と存じます。クミホ様に今世代最強を認められ、その血を広く残せるのは、ジパング国民にとって名誉な事です」
これまた手引き通りであるように、ミギチカは固く返した。
ほんの少し口角が上がった事から、感情が全くない類ではない。努めて冷静に振る舞っている類だ。
ケイヴェとはまた違う類になる。普段は感情を押し殺しているとなると、トリスに近いか。
まぁ、ミギチカの人格は追々把握していこう。
それより、聞き捨てならない言葉があったのだ。
「『血を広く残せる』とは?」
「サコンは多くの女性と結婚、ないし交配するでしょう。次世代が今世代の才能を受け継ぐ可能性を上げ、さらには多様性を得るため、そうする習わしです」
「……つまり、帝王公認で多くの女性と子作りするって事ですか?」
「その認識で間違いありません。『交配』という遠回しな表現をしてしまい、申し訳ありませんでした」
なんという事だろうか。
あのサコンという男、一夫多妻制を認められているのだ。それも、その国で一番偉い人物から。
なんと羨ま―――けしからん事だ。
(羨ましいって言いかけたよな、お前)
きっと幻聴だろう。
「捕捉すると、私もサコンの婚約及び交配候補になっています」
ミギチカは己がほぼ確定でサコンと子作りする事実を、多少頬を赤く染めはするものの、言い淀む事なく明かした。
俺が内心で受けた衝撃は、とても大きい。
クミホと同等とまではいかないが、ミギチカもかなり美しい女性だ。
そんな美しい女性が、知り合いの男性と婚約じみた状態になっていると聞かされたのである。
例え恋愛感情のない女性から告げられたとしても、衝撃を受けない男は居ないだろう。
あまつさえ、女性を多く囲いこもうとしている奴との婚約だ。
何も感じない奴は薄情者である。
(お前はその物申されかねねぇ、多くの女性の囲い込みを計画してるがな)
煩い。俺の事は後だ。
(その言葉、使い方間違ってねぇか)
知るか。俺は言語学者ではないんだ。
ともかく、エクスカリバーは無視である。
「あ、貴女はそれで良いんですか……?」
できる限り自身を落ち着け、そう慎重に述べた。
ミギチカたちにとっての常識を糾弾しないように。さりとて、俺が異常と捉えている事が伝わるように。
「クミホ様に優秀な血であると認められているのです。私は、とても嬉しく思います」
ミギチカの答えは、想定通りだった。
それが彼女らにとっての常識なのだ。
余所者が何言おうが、染みついた固定観念はそう簡単に変わらない。
「そう、ですよね……」
俺は形容しがたい、とにかく晴れやかではない感情を覚えた。
そうして、俺はそれ以上何も言えなくなったのだった。