100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十一節 機械ではなく

「クミホ様、ご報告いたします。現状、魔王軍の影はないとの事。国を離れた間も、船すら見かける事はなかったようです」

「ふぅん……。ウチの留守に一回くらい襲撃してくるやないかと睨んどったけど。絶好の機会をあえて逃したっちゅう事は、お相手さん、なんや準備してはるな」

 

 クミホの泊まる一等高い一室。

 そこで、ミギチカはクミホへと受け取った情報を開示していた。

 予想が外れた結果となっている事が示された情報に、クミホは魔王軍の状態を推測する。

 最大戦力たるクミホ、サコン、ミギチカの不在に攻めてこなかった魔王軍。

 確かにまだまだ戦力はジパングに残っていた。戦力を残すために、3人という少数で国を空けたのだ。

 だが、その単体戦力上位3名が不在、それ以上の好機を望める訳がない。

 そんな好機を魔王軍は逃した。何か裏があると推測してしかるべきである。

 故に、クミホは相手が準備している事を推測した。

 その好機を逃しても良い、最大限の準備を。

 

「次の襲撃、本腰入れてくるやもしれんね」

「……如何されますか」

「さすがに魔王本人は出て来んやろ。魔王が万全やったら、ウチの国はとうの昔に攻め落とされとる」

 

 クミホには、まだ余裕があった。

 魔王が万全でないと判断できる材料がいくらでもあるのだ。

 1つが、去年のラビリンシア建国記念祭で起こった事件。

 精鋭があの祭に紛れ込んでいたが、魔王軍幹部が紛れていたという話は聞かない。

 良いところ、ロスの分身くらいだろう。

 そんなお世辞にも全力とはいえない部隊で、勇者アルトの血筋と聖剣エクスカリバーだけを標的にし、奇襲をかけた。

 それはある意味で、時間稼ぎと窺える。

 

「魔王が万全やないから、幹部の幾人かは魔王を守らないかん。やから、魔王軍幹部も、出てきて2・3体ってとこやろな」

 

 そう。魔王がまだ万全でないから、魔王軍はそこを狙われぬようにラビリンシアへ損害を与えた。

 あわよくば、最大の脅威となり得る勇者アルトからなる王家の根絶と、聖剣エクスカリバーの奪取を果たそうとしたのだ。

 少なくとも、クミホはそう推測していた。

 その推測を根拠にし、次の襲撃には来たとしても幹部2・3体と予測する。

 

「その程度やったら、未知数の幹部が出てこん限り、対処はできるやろ」

 

 魔王軍幹部の多くはその特性が割れている。

 だが、全てではない。新たに加わった幹部は、まだ謎が多いのだ。

 例を上げれば、レヴィ・ガーンとエリー・ポナー・ドラクル。

 第1次魔人戦争の後に魔王軍へ加わった者たちは、その特性を分析しきれていない。

 種族がデビルとヴァンパイアである事はクミホも知っているが、どのような手を隠し持っているかは不明である。

 面倒なのが、他にも新規加入が居るかもしれない事だ。

 初見の魔王軍幹部など、特性を分析するまでに苦戦を強いられる事が目に見えている。

 せめてもの慰めは、そんな奴らがクミホたちの不在に襲撃してこなかった事か。

 クミホたちが居る現状、余程常軌を逸した相手でなければ、まだ対処可能な範囲だ。

 

「ま、最悪も想定するんやったら、しばらくテノールはんとリカルドはんに駐留してもらおうか。その方が確実や」

 

 未知数な幹部が2・3体来た場合と、魔王が来た場合。

 その2つを想定し、勇者と英雄をどうにかジパングに留める事をクミホは決定した。

 元々の予定通り、彼らを最大限に持て成す姿勢を取る。

 

「持て成しの準備でしたら、すでに首都の官僚たちへ指示を出しています」

「おおきに。ミギチカが優秀で助かるわぁ」

「光栄です」

 

 主の望むところを先んじて行った事に対するお褒めの言葉。

 ミギチカはその言葉に確かな喜びを覚えた。

 だが、同時にミギチカはとある事を頭に過らせる。

 この喜びは、常識的なモノなのかと。もしかしたら、ジパングの外では異常なモノなのではないかと。

 

「……どないしたん?」

「な、何がでございましょう」

「いや、なんや浮かない顔しとるやん」

 

 クミホは、その疑問に(さいな)まれるミギチカを見過ごさなかった。

 仮にも我が子のように可愛がる自身の創造物、その中でも長く傍に置いているのがミギチカだ。

 そんなミギチカの機微を、クミホが見過ごすはずもない。

 

「い、いえ……。クミホ様にお伝えするような事では……」

「っ……」

「ど、どうされましたか?クミホ様」

 

 ミギチカが己の疑問に口を閉ざせば、クミホは我が子に嫌われた親のような、絶望した様子で息を呑んだのだ。

 

「み、ミギチカが……反抗期になってしもうた……」

 

 『ような』ではなく、ほぼそのものだった。

 可愛がっているミギチカに目を背けられ、クミホは傷心している。

 

「クミホ様に反抗など、誓ってしておりません!し、しかし、クミホ様にお伝えできるような、言語化できるようなものではなく……。その、話しづらいのです」

「も、もしや……!思春期……?思春期なん!?」

 

 ミギチカが何かに悩む姿に、クミホはさっきまでの傷心も忘れて感動していた。

 クミホにとってミギチカのその姿は、成長の兆しに映っているのだ。

 

「お戯れを。ただ、私の学が足りていないだけです」

「学が足りてへんなんて、そんなんありえへん。やから、分からんのやったらウチに相談してや。主とか帝王陛下とか抜きにして、ウチはミギチカの思いが聞きたいねん」

 

 珍しいどころか、初めて何かに思い悩むミギチカへ、クミホは暖かく諭した。

 ファーリーの生みの親として、生み出した子をクミホは慈しんでいる。

 

「……機会が訪れましたら、その時に」

「いつでも待ってるで」

 

 今はその時ではないと先送りにするミギチカへ、クミホは優しく微笑むのだった。

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