100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「クミホ様、ご報告いたします。現状、魔王軍の影はないとの事。国を離れた間も、船すら見かける事はなかったようです」
「ふぅん……。ウチの留守に一回くらい襲撃してくるやないかと睨んどったけど。絶好の機会をあえて逃したっちゅう事は、お相手さん、なんや準備してはるな」
クミホの泊まる一等高い一室。
そこで、ミギチカはクミホへと受け取った情報を開示していた。
予想が外れた結果となっている事が示された情報に、クミホは魔王軍の状態を推測する。
最大戦力たるクミホ、サコン、ミギチカの不在に攻めてこなかった魔王軍。
確かにまだまだ戦力はジパングに残っていた。戦力を残すために、3人という少数で国を空けたのだ。
だが、その単体戦力上位3名が不在、それ以上の好機を望める訳がない。
そんな好機を魔王軍は逃した。何か裏があると推測してしかるべきである。
故に、クミホは相手が準備している事を推測した。
その好機を逃しても良い、最大限の準備を。
「次の襲撃、本腰入れてくるやもしれんね」
「……如何されますか」
「さすがに魔王本人は出て来んやろ。魔王が万全やったら、ウチの国はとうの昔に攻め落とされとる」
クミホには、まだ余裕があった。
魔王が万全でないと判断できる材料がいくらでもあるのだ。
1つが、去年のラビリンシア建国記念祭で起こった事件。
精鋭があの祭に紛れ込んでいたが、魔王軍幹部が紛れていたという話は聞かない。
良いところ、ロスの分身くらいだろう。
そんなお世辞にも全力とはいえない部隊で、勇者アルトの血筋と聖剣エクスカリバーだけを標的にし、奇襲をかけた。
それはある意味で、時間稼ぎと窺える。
「魔王が万全やないから、幹部の幾人かは魔王を守らないかん。やから、魔王軍幹部も、出てきて2・3体ってとこやろな」
そう。魔王がまだ万全でないから、魔王軍はそこを狙われぬようにラビリンシアへ損害を与えた。
あわよくば、最大の脅威となり得る勇者アルトからなる王家の根絶と、聖剣エクスカリバーの奪取を果たそうとしたのだ。
少なくとも、クミホはそう推測していた。
その推測を根拠にし、次の襲撃には来たとしても幹部2・3体と予測する。
「その程度やったら、未知数の幹部が出てこん限り、対処はできるやろ」
魔王軍幹部の多くはその特性が割れている。
だが、全てではない。新たに加わった幹部は、まだ謎が多いのだ。
例を上げれば、レヴィ・ガーンとエリー・ポナー・ドラクル。
第1次魔人戦争の後に魔王軍へ加わった者たちは、その特性を分析しきれていない。
種族がデビルとヴァンパイアである事はクミホも知っているが、どのような手を隠し持っているかは不明である。
面倒なのが、他にも新規加入が居るかもしれない事だ。
初見の魔王軍幹部など、特性を分析するまでに苦戦を強いられる事が目に見えている。
せめてもの慰めは、そんな奴らがクミホたちの不在に襲撃してこなかった事か。
クミホたちが居る現状、余程常軌を逸した相手でなければ、まだ対処可能な範囲だ。
「ま、最悪も想定するんやったら、しばらくテノールはんとリカルドはんに駐留してもらおうか。その方が確実や」
未知数な幹部が2・3体来た場合と、魔王が来た場合。
その2つを想定し、勇者と英雄をどうにかジパングに留める事をクミホは決定した。
元々の予定通り、彼らを最大限に持て成す姿勢を取る。
「持て成しの準備でしたら、すでに首都の官僚たちへ指示を出しています」
「おおきに。ミギチカが優秀で助かるわぁ」
「光栄です」
主の望むところを先んじて行った事に対するお褒めの言葉。
ミギチカはその言葉に確かな喜びを覚えた。
だが、同時にミギチカはとある事を頭に過らせる。
この喜びは、常識的なモノなのかと。もしかしたら、ジパングの外では異常なモノなのではないかと。
「……どないしたん?」
「な、何がでございましょう」
「いや、なんや浮かない顔しとるやん」
クミホは、その疑問に
仮にも我が子のように可愛がる自身の創造物、その中でも長く傍に置いているのがミギチカだ。
そんなミギチカの機微を、クミホが見過ごすはずもない。
「い、いえ……。クミホ様にお伝えするような事では……」
「っ……」
「ど、どうされましたか?クミホ様」
ミギチカが己の疑問に口を閉ざせば、クミホは我が子に嫌われた親のような、絶望した様子で息を呑んだのだ。
「み、ミギチカが……反抗期になってしもうた……」
『ような』ではなく、ほぼそのものだった。
可愛がっているミギチカに目を背けられ、クミホは傷心している。
「クミホ様に反抗など、誓ってしておりません!し、しかし、クミホ様にお伝えできるような、言語化できるようなものではなく……。その、話しづらいのです」
「も、もしや……!思春期……?思春期なん!?」
ミギチカが何かに悩む姿に、クミホはさっきまでの傷心も忘れて感動していた。
クミホにとってミギチカのその姿は、成長の兆しに映っているのだ。
「お戯れを。ただ、私の学が足りていないだけです」
「学が足りてへんなんて、そんなんありえへん。やから、分からんのやったらウチに相談してや。主とか帝王陛下とか抜きにして、ウチはミギチカの思いが聞きたいねん」
珍しいどころか、初めて何かに思い悩むミギチカへ、クミホは暖かく諭した。
ファーリーの生みの親として、生み出した子をクミホは慈しんでいる。
「……機会が訪れましたら、その時に」
「いつでも待ってるで」
今はその時ではないと先送りにするミギチカへ、クミホは優しく微笑むのだった。