100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
テノールとミギチカが話していたのと同じ時間。
クミホたちの泊まる宿近くの林で、鋼と鋼のぶつかり合う音が響いていた。
それも、たった1度ではなく、断続的に何度も。
「く、うぅっ……」
「力押しは、俺たちにはお勧めしやせんよっと!」
「忠告、ありがとさん!」
その音の発生源はリカルドとサコンの組手であった。
今しがた鍔迫り合いを演じ、リカルドがサコンに弾き飛ばされたところだ。
明確に言うなら、弾き飛ばされたと言うより、リカルドがサコンの力を利用して後方に跳んだのである。
距離を空ける意味もあるが、単純に基礎能力で押し負けると悟った故の離脱でもある。
数度の打ち合いと先程の鍔迫り合いで、リカルドは
だから、打ち合いを止めるためにも、一旦距離を空けたのだ。
「その程度の距離で、安心してちゃあいかんですぜ」
「分かってる!」
空けたはずの距離が、サコンの踏み込みで以って即座に埋められた。
ただ、一瞬の猶予までもなかった事にはできない。
時間にして数秒もないが、気構えを変える猶予はあった。
受け止める剣ではなく、逸らす剣に変える猶予を、リカルドは得ていたのだ。
よって、サコンの踏み込みに続く攻撃は、剣を添える事で逸らされる。
「器用なこって!」
「誉め言葉として受け取っとくよ!」
サコンは驚く事もなく、むしろ楽しげに攻撃を繰り出した。
テノールの時とは違い、歯ごたえがある組手。
その組手を、サコンは楽しんでいる。
対するリカルドは、繰り出された攻撃を苦しげに逸らしていた。
相手は格上。リカルドに組手を楽しむ余裕はない。
聖剣デュランダルの力を使えば、その力量差を覆す事はできるだろう。
だが、それでは意味がない。
それに、元よりこれは魔術禁止の組手。
約束を破るなど、男が廃る。
「じゃあ、こいつはどうですかい!」
押されているリカルドがではなく、押しているサコンの方から距離を取った。
同時に、サコンは刀を鞘に収める。
それで、リカルドも次の攻撃がなんであるかを直感した。
居合抜刀。武闘会でもサコンが決め手としてきた技だ。
受けるのは当然、逸らす事も望めない。
とすれば、残るのは避ける事だけである。
「フッ」
リカルドが選択を決定した瞬間、サコンの刀が鞘より解き放たれた。
リカルドは屈む事で、刀の軌跡より己を逃す事に成功。
しかし、サコンはリカルドなら避けるだろうと信じていた。
信じていたからこそ、サコンの次なる一手がリカルドに襲い掛かる。
「がっ」
屈んだところに合わせた蹴り。
サコンのそれが、リカルドの顎に見事的中した。
不意の衝撃で頭を揺さぶられたリカルドは、尻もちをついてろくに動けない。
そこへ刀を向けられれば、勝負は着いたも同然だ。
「俺の勝ちですぜ、リカルドさん」
サコンは己の勝利に不敵な笑みを浮かべた。
サコンにとって間違いなく、これは楽しい勝負だったのだ。
「……ああ、俺の負けだ」
リカルドは、痛みと悔しさを噛みしめ、苦笑していた。
リカルドにとっては、これは虚しい敗北なのだ。
勝てる見込みは薄かった。
ただ、それを言い訳にして良い身分ではないと、リカルドは自覚している。
「こんなんで、俺は英雄なんてやってけんのかな……」
そう。リカルドは英雄と、ミナ・ミヌエーラ双王より称されてしまったのだ。
その呼称に見合う男でなければならないと、精神的重圧を抱えている。
こんな剣頼りな英雄が居て良いのかと、己を責めている。
「んー、まぁ、難しいもんでやすね」
「そうだよなぁ……。俺に英雄なんて難しいよなぁ……」
「いや、そういう『難しい』ではなくて……」
精神的に追い込まれているから、リカルドはサコンの言葉を悪い意味で捉えてしまった。
サコンが弁明を挿んでいるのでお察しいただけるだろうが、もちろんサコンの言葉に悪い意味は含まれていない。
「英雄って、剣の腕だけでなれるもんですかい?それこそ、あんた方が良く知る建国王アルトだって、仲間の力を合わせたから魔王を撃退できやしたし、国を興す事もできたんやないですかい?」
「……それって、剣の力しか頼りにならない俺だと、英雄になんてなれやしないって話にならないか」
「いやいやいやいや」
相当落ち込んでるリカルドは、なかなかまたもや悪い意味で捉えてしまうが、サコンはそんな意味を込めて言いない。
「あー、ほら。剣の力もあんたの力って事で。テノールさんも、聖剣エクスカリバーがなかったただの農民で終わってやしたでしょうし。な?」
「……ありがとう」
サコンが必死に慰めてくれているのに気付き、リカルドは一旦どうにか気を持ち直した。
精神的重圧が払われた訳ではない。
いつかは改善しなくてはならない課題であると、リカルドは認識している。
でも、それは今ではないというだけだ。他人に弱った姿を見せてはいられない。
それこそ、英雄失格となる。
「なんついましょうか……。そういうのは抱え込まず、身近な人に相談した方が良いんじゃないでやしょうか?」
「身近な人、ね……」
サコンから一般的な助言を貰い、リカルドは聖剣を見つめる。
ある意味で己の身近に居てくれているデュランダルを、リカルドは見つめている。
(……)
そんなリカルドに、不安そうなデュランダルの意思が伝わってきた。
言語化されていないが、なんとなく心配してくれているのは感じられる。
後で、2人きりの時にでもしっかり話すべきかと、リカルドは考えさせられた。
「とりあえず、すまなかった。俺の訓練に付き合ってもらって」
「俺は構いやせんよ?またご用があれば喜んで」
とにかく、リカルドは組手をしてくれたサコンに謝意を告げた。
『すまなかった』と言ってしまうのは、リカルドの性分だろう。
サコンは何も気にする事なく、気前良く受け応えるのだった。