100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十二節 結実はまだ遠く

 テノールとミギチカが話していたのと同じ時間。

 クミホたちの泊まる宿近くの林で、鋼と鋼のぶつかり合う音が響いていた。

 それも、たった1度ではなく、断続的に何度も。

 

「く、うぅっ……」

「力押しは、俺たちにはお勧めしやせんよっと!」

「忠告、ありがとさん!」

 

 その音の発生源はリカルドとサコンの組手であった。

 今しがた鍔迫り合いを演じ、リカルドがサコンに弾き飛ばされたところだ。

 明確に言うなら、弾き飛ばされたと言うより、リカルドがサコンの力を利用して後方に跳んだのである。

 距離を空ける意味もあるが、単純に基礎能力で押し負けると悟った故の離脱でもある。

 数度の打ち合いと先程の鍔迫り合いで、リカルドは膂力(りょりょく)に種族的な差がある事をその身で味わった。

 だから、打ち合いを止めるためにも、一旦距離を空けたのだ。

 

「その程度の距離で、安心してちゃあいかんですぜ」

「分かってる!」

 

 空けたはずの距離が、サコンの踏み込みで以って即座に埋められた。

 ただ、一瞬の猶予までもなかった事にはできない。

 時間にして数秒もないが、気構えを変える猶予はあった。

 受け止める剣ではなく、逸らす剣に変える猶予を、リカルドは得ていたのだ。

 よって、サコンの踏み込みに続く攻撃は、剣を添える事で逸らされる。

 

「器用なこって!」

「誉め言葉として受け取っとくよ!」

 

 サコンは驚く事もなく、むしろ楽しげに攻撃を繰り出した。

 テノールの時とは違い、歯ごたえがある組手。

 その組手を、サコンは楽しんでいる。

 対するリカルドは、繰り出された攻撃を苦しげに逸らしていた。

 相手は格上。リカルドに組手を楽しむ余裕はない。

 聖剣デュランダルの力を使えば、その力量差を覆す事はできるだろう。

 だが、それでは意味がない。

 それに、元よりこれは魔術禁止の組手。

 約束を破るなど、男が廃る。

 

「じゃあ、こいつはどうですかい!」

 

 押されているリカルドがではなく、押しているサコンの方から距離を取った。

 同時に、サコンは刀を鞘に収める。

 それで、リカルドも次の攻撃がなんであるかを直感した。

 居合抜刀。武闘会でもサコンが決め手としてきた技だ。

 受けるのは当然、逸らす事も望めない。

 とすれば、残るのは避ける事だけである。

 

「フッ」

 

 リカルドが選択を決定した瞬間、サコンの刀が鞘より解き放たれた。

 リカルドは屈む事で、刀の軌跡より己を逃す事に成功。

 しかし、サコンはリカルドなら避けるだろうと信じていた。

 信じていたからこそ、サコンの次なる一手がリカルドに襲い掛かる。

 

「がっ」

 

 屈んだところに合わせた蹴り。

 サコンのそれが、リカルドの顎に見事的中した。

 不意の衝撃で頭を揺さぶられたリカルドは、尻もちをついてろくに動けない。

 そこへ刀を向けられれば、勝負は着いたも同然だ。

 

「俺の勝ちですぜ、リカルドさん」

 

 サコンは己の勝利に不敵な笑みを浮かべた。

 サコンにとって間違いなく、これは楽しい勝負だったのだ。

 

「……ああ、俺の負けだ」

 

 リカルドは、痛みと悔しさを噛みしめ、苦笑していた。

 リカルドにとっては、これは虚しい敗北なのだ。

 勝てる見込みは薄かった。

 ただ、それを言い訳にして良い身分ではないと、リカルドは自覚している。

 

「こんなんで、俺は英雄なんてやってけんのかな……」

 

 そう。リカルドは英雄と、ミナ・ミヌエーラ双王より称されてしまったのだ。

 その呼称に見合う男でなければならないと、精神的重圧を抱えている。

 こんな剣頼りな英雄が居て良いのかと、己を責めている。

 

「んー、まぁ、難しいもんでやすね」

「そうだよなぁ……。俺に英雄なんて難しいよなぁ……」

「いや、そういう『難しい』ではなくて……」

 

 精神的に追い込まれているから、リカルドはサコンの言葉を悪い意味で捉えてしまった。

 サコンが弁明を挿んでいるのでお察しいただけるだろうが、もちろんサコンの言葉に悪い意味は含まれていない。

 

「英雄って、剣の腕だけでなれるもんですかい?それこそ、あんた方が良く知る建国王アルトだって、仲間の力を合わせたから魔王を撃退できやしたし、国を興す事もできたんやないですかい?」

「……それって、剣の力しか頼りにならない俺だと、英雄になんてなれやしないって話にならないか」

「いやいやいやいや」

 

 相当落ち込んでるリカルドは、なかなかまたもや悪い意味で捉えてしまうが、サコンはそんな意味を込めて言いない。

 

「あー、ほら。剣の力もあんたの力って事で。テノールさんも、聖剣エクスカリバーがなかったただの農民で終わってやしたでしょうし。な?」

「……ありがとう」

 

 サコンが必死に慰めてくれているのに気付き、リカルドは一旦どうにか気を持ち直した。

 精神的重圧が払われた訳ではない。

 いつかは改善しなくてはならない課題であると、リカルドは認識している。

 でも、それは今ではないというだけだ。他人に弱った姿を見せてはいられない。

 それこそ、英雄失格となる。

 

「なんついましょうか……。そういうのは抱え込まず、身近な人に相談した方が良いんじゃないでやしょうか?」

「身近な人、ね……」

 

 サコンから一般的な助言を貰い、リカルドは聖剣を見つめる。

 ある意味で己の身近に居てくれているデュランダルを、リカルドは見つめている。

 

(……)

 

 そんなリカルドに、不安そうなデュランダルの意思が伝わってきた。

 言語化されていないが、なんとなく心配してくれているのは感じられる。

 後で、2人きりの時にでもしっかり話すべきかと、リカルドは考えさせられた。

 

「とりあえず、すまなかった。俺の訓練に付き合ってもらって」

「俺は構いやせんよ?またご用があれば喜んで」

 

 とにかく、リカルドは組手をしてくれたサコンに謝意を告げた。

 『すまなかった』と言ってしまうのは、リカルドの性分だろう。

 サコンは何も気にする事なく、気前良く受け応えるのだった。

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