100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
クミホら一団とテノールら一団は最初の中継地たる町より出発。
クミホの牛車、パースの馬車、護衛たちの馬車に馬単体を走らせ、次の中継地へ。
テノールは当然パースの操る馬車に、今度は御者台ではなく客車の方にリカルドと同乗している。
「……」
「……」
しかし、テノールとリカルドの間に、会話はまだなかった。
と言うより、リカルドがずっと聖剣デュランダルを暗い表情で見つめているため、テノールが話しかけづらい状態になっている。
今のリカルドは落ち込んでいるようでもあるし、デュランダルと思念会話しているようでもある状態とテノールには映っていた。
だから、話しかけて良いのかと、テノールは本当に悩んでいる。
決して、男と話すのが面倒臭いという訳ではない。
テノールは女好きではあるが、男嫌いではないのだ。
「はぁ……」
「……何か、悩み事ですか?」
リカルドが溜息を吐き、聖剣デュランダルを腰に下げ直した。
その行動から、テノールはデュランダルとの思念会話中ではないと判断する。
よって、会話を切り出すにはこの機しかないだろうと、ようやく口を開いた。
さすがのテノールも、目の前で溜息を吐かれれば、無言を貫く事はできない。
主に勇者としての名誉で。
「あ、ああ……すまない。これ見よがしに溜息吐けば、構ってくださいって言ってるようなもんだよな」
「いえ、まぁ、正直元気がないようなので、ずっと気になっていて」
正鵠とまでは言えないまでも、内心の縁を射られたテノールは苦笑した。
的を射られながらも、リカルドをさらに落ち込ませぬよう、言葉を選ぶ。
これ以上落ち込まれても面倒なのだ。
「お悩み、窺ってもよろしいですか?」
その上で、溜息の原因を言葉にさせ、少しでも心を晴れさせようとした。
湿気た面の男と長く同じ部屋に居たくないというのが、テノールの本心だ。
「……しょうもない悩みさ」
そんなテノールの本心など露知らず、リカルドは語り始める。
「俺、英雄なんて呼ばれて良いのかなって。確かに、拉致されてたドワーフたちの解放には尽力したさ。でも、力になれたのは俺の力じゃない。デュランダルの力だ」
「……己の実力が、与えられた称号に見合っていないと?」
「そうなんだよ。どう見積もったって、俺の実力は3級冒険者だ。そりゃ、3級の中ではそこそこやれる方だって自負はある。でも、そこまでなんだ。俺はどこまで行っても、3級冒険者なんだよ」
「……」
リカルドが語り漏らした思いは、テノールも非常に身につまされるモノだった。
奇妙にも、リカルドとテノールはその点で一緒なのだ。
リカルドもテノールも、聖剣に選ばれただけの、平凡を脱する事のできない一般人なのである。
違いと言えば、虚栄を張ってでも叶えようとする大望があるかどうか。
テノールには、富、名声、女を得るという、かなり俗ではあるが、そういう待望がある。
リカルドには、そういう大望がなかった。
リカルドは領主に成る責任から逃げた、小心者なのだ。
そうして逃げたはずなのに、気付けばより重い責任を背負わされていた。
(どうして、こんな事になっちまったんだ……。冒険者として、自由にやってければ良かったのに……)
何も選択せず流されるままに来た、これがその罰なのかと、煮え切らない感情をリカルドは抱えている。
それは強い感情であり、そのため、デュランダルに読み取られてしまう。
(……ごめんなさい)
(デュランダル?)
(私が貴方を選んでしまったせいで、貴方の自由を奪ってしまった……)
デュランダルは悔いた。
聖剣の担い手になった者が、如何なる責任を背負うのか。
そんな事も考慮せず、軽率に担い手を選んでしまった。
結果、リカルドに重責を背負わせてしまった事を、デュランダルは悔いている。
(それは違う。違うさ、デュランダル。あの時、俺は選んだんだ。目の前で傷つく人を助けたいと、俺は選んで、お前を手に取った。だから、お前は悪くない)
(でも……)
(良いんだ、デュランダル。結局、俺に自信がないせいなんだ)
無理にでも罪を肩代わりしようとするデュランダルに、リカルドは諭す。
すべては、自身のせいなのだと。
(子供の頃から、俺には統治なんてできる訳がないって。領地を治めるのに自信がなかった。おかげで、姉貴にその責任を押し付けちまった……。領主になるための勉強なんてしてなければ、今頃結婚してただろうにな)
(リカルド……)
姉に領主という責任を押し付けた事。
その事を、姉の行き遅れで茶化しながら、されど確かに罪悪感を胸に秘めていた。
自身がその責任を押し付けなければ、今頃自由だったのは姉だろうに、と。
(今まで冒険者仲間を作らず、1人で活動してきたのも、自信がなかったからだしな)
3級にまで上り詰めたリカルドだが、そこまでに仲間を作った事はなかった。
依頼で他の冒険者と協力する事はあっても、冒険者一行として団結した事はない。
それは
(やっぱり、剣の腕でも磨いて、自信を付けないとな)
(……)
空元気のように、ほんの少しばかり気を強く持った。
弱った姿を見せられないと、どうにか威勢を張ったリカルドだが、デュランダルからしては見れば、痛ましさばかりが際立っている。
その痛ましさに、デュランダルは何も言えなくなってしまったのだ。
「そういえばさ、聖剣エクスカリバーに宿る魂が、テノールに戦い方を教えてくれてるんだよな?」
「……そうですね」
リカルドは不意に思い付いた事を言及すべく、テノールに話題を振る。
幾ばくかの沈黙を挿んでの話題振りであると同時に、エクスカリバーがテノールの師というのは嘘なので、テノールは一瞬言葉に詰まっていた。
それでも、不自然ならない程度の間なのが、テノールの詐欺技術である。
「もしできればなんだけどさ、俺も戦い方を教えてもらったりとかできないのか?」
リカルドの思い付きは、つまり自身もエクスカリバーの弟子になれないかというモノであった。
1年足らずで農民を勇者にまで鍛え上げたその技量ならば、自身も英雄に相応しい存在として鍛え上げてくれるだろうと、リカルドはそう考えたのである。
残念ながら、エクスカリバーはテノールを鍛え上げてはいないので、その思い付きは実現不可能である。
「そ、その……。申し訳ありません、エクスカリバーは気難しい人なので……」
「そうだよなぁ……。担い手くらいしか鍛えないよなぁ……」
担い手を特別視するからこその聖剣。
担い手でない者に恩恵を与えるはずはない。
そんな聖剣から恩恵を受けようなどという事が高望みであると、リカルドは認識している。
なので、リカルドは
テノールは問い詰められなかった事に、内心安堵している。
「どこかに居ないかなぁ、戦い方を教えてくれる強い人」
リカルドは半ば諦観し、言葉を虚しく響かせた。
(……)
デュランダルはその言葉を、胸に刻み付けるのだった。