100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
神社と呼ばれる、文字通り神のための社。
『始まりの六柱』以外に多くの信仰心を集める神がいないこの世界にとって、その建築物は珍しい。
そんな数が少ない神社だが、そのほとんどが、『コジ記』の情報を再現するために建てられただけだ。
本来の目的に近い役割を果たしている物は、おそらくたった1つだろう。
その1つが、ジパング首都、キョーの一角に存在する。
「遅い」
その神社に、幼げな少女が居た。
ドラゴンの角によく似たそれを生やす、あからさまに只人ではない少女だ。
その少女は縁側に腰を掛け、地面に着かぬ足を揺らしながら、不満を漏らしている。
「遅い遅い遅いぃ!!クミホはいつになったら帰ってくるのだ!」
少女は、この国の
そうして子供のように稚拙な振る舞いをしている。
容姿には合致しているが、実年齢には相応しくない振る舞いだ。
少女の立場上、それに苦言を呈する事ができるのはクミホだけなのだが。
「イブキ様、今しばらくの辛抱を……。国に帰還しておりますので、後数日もすればお戻りになられるかと……」
せめてどうにかご機嫌を直してもらえるようにと、少女、イブキの世話係である狐の女性ファーリーが
しかし、女性自身がイブキを宥められると全く思っていない。
「国に着いているなら、もう余が回収すれば良いのだ!イナリ!今からその旨を伝えてこい!」
「そ、それは……。来客の応対中ですので……。私ではなんとも……」
やっぱり宥められそうにないと、女性、イナリは諦観を抱いた。
大人しくイブキの怒鳴りに堪え、それとない返事をしておく。
「だいたいなんだと言うのだ!魔王軍が攻めてくるかもしれないなんて程度で、他国に助けを求めるなどと!クミホと余が居れば、魔王軍など恐れるに足るまい!」
もはやなんの役にも立たない世話係は無視し、イブキはただただ不満を言葉にする。
そう。イブキは国防にクミホと自身が居れば充分と考えており、他国の助けは求める必要はないとしていた。
なのに、クミホはイブキのその意見を否定し、国を空けてまで他国に渡ったのだ。
イブキとしては、それが非常に気に食わなかった。
だが、クミホからすると、イブキを戦力として数える気はないのである。
ご覧いただけた通り、まるで我がまま
指示に従ってくれるか怪しいし、御しきれる保証が全くない。
国を治める者の立場からすれば、そんな戦力はないも同然である。
「悠久を共に生き、この国を守ってきたと言うに、どうしてクミホは分かってくれないのだ!」
幼児の如き振る舞いと容姿からは信じ難いだろうが、イブキの言葉に嘘はない。
悠久の時、1000年をはるかに越える時間、イブキはクミホと共にこの国を守ってきたのだ。
クミホのお願いを聞く度に、何かしらの対価を要求してはきた。
イブキの住むこの神社も、自身の世話係も、定期的に奉納させる酒も、そうやって要求して得た物だ。
そういう我がままを通しては来たが、国を守った功績は確かなものなのである。
だからこそ、クミホはイブキの我がままを叶えているし、神を敬うように、イブキを丁重に扱っている。
でもそれは、どこまで行っても丁重な扱いなのだ。
信頼とは、間違っても呼ぶ事ができない関係性である。
その関係性が、イブキには腹立たしい。
「いい加減、クミホも認めぬか。余はクミホの友にして、ジパングの守り神と。余だけが、お前の理解者であると」
イブキは、クミホと友になりたいのだ。
だから、お願いに対価を要求しても、断る事はしなかった。
イブキはできる限りクミホの願いを叶えている。
それで、着実に絆を深めているつもりだった。
実際はそうでないと、現状が物語っている。
「余が、示せば良いのか?お前に並び立てるのは余だけだと。お前の国を守り抜けるのは余だけだと」
期待通りにならない現実へ、いくら吐けども不満が募る。
イブキには、限界だった。
その不満が、怒りへと転化される。
「い、イブキ様……?」
イナリはイブキの様子に恐怖した。
おもむろに立ったイブキは、怒りに満ちている。
下手に触れようものなら、殺されかねない様子だ。
「良いだろう、クミホ。余は示そう。他国の助けなど、余の力があれば必要なく、余の前では
イブキは空へと飛び立ち、その空で己の正体を露にする。
蛇のような長細い体のドラゴンに、少女は姿を変えたのだ。
「余の力、イブキ・アルフィーネの力、使者らを蹴散らす事で示そうではないか」
少女の姿をしていた者、イブキ・アルフィーネ。
神の手によって作り出され、神の如き威光を放つそのドラゴンが一瞬にして消える。
消えはしたが、目的地は明確だろう。
クミホの居る所、クミホに応対されている使者が居るだろうその場所だ。
イブキは固有魔術によって姿を消し、目的地へと向かう。
こうして、安全だったテノールの旅に、災いが降りかかる事となるのだった。