100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十六節 荒魂

 神社と呼ばれる、文字通り神のための社。

 『始まりの六柱』以外に多くの信仰心を集める神がいないこの世界にとって、その建築物は珍しい。

 そんな数が少ない神社だが、そのほとんどが、『コジ記』の情報を再現するために建てられただけだ。

 本来の目的に近い役割を果たしている物は、おそらくたった1つだろう。

 その1つが、ジパング首都、キョーの一角に存在する。

 

「遅い」

 

 その神社に、幼げな少女が居た。

 ドラゴンの角によく似たそれを生やす、あからさまに只人ではない少女だ。

 その少女は縁側に腰を掛け、地面に着かぬ足を揺らしながら、不満を漏らしている。

 

「遅い遅い遅いぃ!!クミホはいつになったら帰ってくるのだ!」

 

 少女は、この国の(おさ)であるクミホがなかなか首都へ戻ってこない事を、不満に感じていた。

 そうして子供のように稚拙な振る舞いをしている。

 容姿には合致しているが、実年齢には相応しくない振る舞いだ。

 少女の立場上、それに苦言を呈する事ができるのはクミホだけなのだが。

 

「イブキ様、今しばらくの辛抱を……。国に帰還しておりますので、後数日もすればお戻りになられるかと……」

 

 せめてどうにかご機嫌を直してもらえるようにと、少女、イブキの世話係である狐の女性ファーリーが(なだ)めようとしていた。

 しかし、女性自身がイブキを宥められると全く思っていない。

 

「国に着いているなら、もう余が回収すれば良いのだ!イナリ!今からその旨を伝えてこい!」

「そ、それは……。来客の応対中ですので……。私ではなんとも……」

 

 やっぱり宥められそうにないと、女性、イナリは諦観を抱いた。

 大人しくイブキの怒鳴りに堪え、それとない返事をしておく。

 

「だいたいなんだと言うのだ!魔王軍が攻めてくるかもしれないなんて程度で、他国に助けを求めるなどと!クミホと余が居れば、魔王軍など恐れるに足るまい!」

 

 もはやなんの役にも立たない世話係は無視し、イブキはただただ不満を言葉にする。

 そう。イブキは国防にクミホと自身が居れば充分と考えており、他国の助けは求める必要はないとしていた。

 なのに、クミホはイブキのその意見を否定し、国を空けてまで他国に渡ったのだ。

 イブキとしては、それが非常に気に食わなかった。

 だが、クミホからすると、イブキを戦力として数える気はないのである。

 ご覧いただけた通り、まるで我がまま(ざか)りの子供だ。

 指示に従ってくれるか怪しいし、御しきれる保証が全くない。

 国を治める者の立場からすれば、そんな戦力はないも同然である。

 

「悠久を共に生き、この国を守ってきたと言うに、どうしてクミホは分かってくれないのだ!」

 

 幼児の如き振る舞いと容姿からは信じ難いだろうが、イブキの言葉に嘘はない。

 悠久の時、1000年をはるかに越える時間、イブキはクミホと共にこの国を守ってきたのだ。

 クミホのお願いを聞く度に、何かしらの対価を要求してはきた。

 イブキの住むこの神社も、自身の世話係も、定期的に奉納させる酒も、そうやって要求して得た物だ。

 そういう我がままを通しては来たが、国を守った功績は確かなものなのである。

 だからこそ、クミホはイブキの我がままを叶えているし、神を敬うように、イブキを丁重に扱っている。

 でもそれは、どこまで行っても丁重な扱いなのだ。

 信頼とは、間違っても呼ぶ事ができない関係性である。

 その関係性が、イブキには腹立たしい。

 

「いい加減、クミホも認めぬか。余はクミホの友にして、ジパングの守り神と。余だけが、お前の理解者であると」

 

 イブキは、クミホと友になりたいのだ。

 だから、お願いに対価を要求しても、断る事はしなかった。

 イブキはできる限りクミホの願いを叶えている。

 それで、着実に絆を深めているつもりだった。

 実際はそうでないと、現状が物語っている。

 

「余が、示せば良いのか?お前に並び立てるのは余だけだと。お前の国を守り抜けるのは余だけだと」

 

 期待通りにならない現実へ、いくら吐けども不満が募る。

 イブキには、限界だった。

 その不満が、怒りへと転化される。

 

「い、イブキ様……?」

 

 イナリはイブキの様子に恐怖した。

 おもむろに立ったイブキは、怒りに満ちている。

 下手に触れようものなら、殺されかねない様子だ。

 

「良いだろう、クミホ。余は示そう。他国の助けなど、余の力があれば必要なく、余の前では(ちり)に過ぎぬ事。お前でも分かりやすいように、簡単な方法で示そう」

 

 イブキは空へと飛び立ち、その空で己の正体を露にする。

 蛇のような長細い体のドラゴンに、少女は姿を変えたのだ。

 

「余の力、イブキ・アルフィーネの力、使者らを蹴散らす事で示そうではないか」

 

 少女の姿をしていた者、イブキ・アルフィーネ。

 神の手によって作り出され、神の如き威光を放つそのドラゴンが一瞬にして消える。

 消えはしたが、目的地は明確だろう。

 クミホの居る所、クミホに応対されている使者が居るだろうその場所だ。

 イブキは固有魔術によって姿を消し、目的地へと向かう。

 こうして、安全だったテノールの旅に、災いが降りかかる事となるのだった。

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