100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十七節 まさに天災の如く

 ジパングで魔物が自然発生しない理由を聞いたのは、もう昨日の事。

 クミホたちと俺たちはまた中継地の町で夜を明かし、出発している。

 首都への到着は明日となる予定らしい。

 ラビリンシアから出発し、ジパングの港町まで5日。

 その港町から出発し、首都まで4日。

 約9日間。ラビリンシアの港に向かうまでの日数も数えるなら、13日間になるか。

 途中が不慣れな船旅だったのもあってか、恐ろしく長い旅に感じる。

 でも、ミナ・ミヌエーラに渡った時と比べ、楽であるようにも感じる。

 

(それもそうか。海は魔物との遭遇が多かったけど、俺は何もしてない。閉塞感で気疲れした程度だ。ジパングに上陸した後は、魔物との遭遇が一切ないから、全く疲れる要素がないんだな)

 

 期間こそ長いが、俺自身は魔物と戦っていないし、夜は野宿していない。

 旅自体は慣れたものだから、そんなに疲れはしない。

 そう考えると、今までの旅で最も楽かもしれない。

 なんせ、首都までの道のりも魔物に警戒しなくて良いのだ。

 首都に着いてからも、ちょっと滞在して持て成されて、それで俺の用件は終わる。

 もしかしたら、今までの王命の中で最も楽である可能性も出てきている。

 

(魔王軍が攻めてきたら、その限りじゃねぇけどな)

 

 人が楽な仕事に歓喜しているところへ、エクスカリバーは最悪の捕捉をしてきた。

 割と忘れようとしてたのに。

 

(……以前までの侵攻も、ジパングの戦力で対処できてたんだ。俺たちが頑張る事もないだろう)

(いやぁ?オレたちが来たのに触発されて、魔王軍が侵攻に本腰入れてくるかもしれないぜ?)

 

 俺が楽観視できる理論を組み立てたのに、エクスカリバーは反論して理論を崩しにかかった。

 何故だろう。戦力が増したところに攻め入るなんてするはずがないのに、その期待が裏切られる気しかしない。

 エクスカリバーの反論として提示した状況が、現実になる予感が俺の中でしてくる。

 

(……そうなるにしても、忙しくなるのはもっと先だろう)

 

 嫌な予感が振り払えない俺は、念のためその予感を心に留めておき、せめて現在の平穏を噛みしめる事にした。

 噛みしめようとしている平穏は、今まさに小憎たらしい少女の小憎たらしい笑みで侵害されているが。

 何にせよ、しばらくは平穏だろう。

 

 とても残念な事に、そんな平穏も脆く崩れ去る事となる。

 

(……ん?なんだ?なんか、ドラゴンの気配が近付いてきてんな)

(は?ドラゴン?こんなところに出る訳―――)

 

 エクスカリバーが俺を揶揄うために吐いただろう嘘。

 その嘘を否定しようとした俺の思考は、響いた轟音によって中断された。

 轟音は幻聴などではなく、大地の揺れとして肌にも伝わってくる。

 

「な、なんだ!?何が起こった!?」

 

 客車に同乗していたリカルドの驚く様からして、轟音は皆が感じ取っている異常事態だった。

 馬車がその異常事態で停車し、俺とリカルドは慌てて外に出る。

 

「あ、あれは……」

 

 リカルドの視線は、クミホたちと俺たちが進む道の先へ向けられていた。

 そこは、地面が陥没していたのだ。

 そして、その陥没した地面の中心に、長細い体のドラゴンが居る。

 

(な?ドラゴン来てたろ?)

(いや!そんな暢気に構えてる場合か!)

 

 自身の感覚に誤りはなかったと、誇らしげなエクスカリバー。

 そんなエクスカリバーに構わず、俺は聖剣に手を置いた。

 いつでも戦闘に入れるよう、臨戦態勢をとる。

 

(あのドラゴン、いったいどこから湧いた……!)

 

 ジパングでは滅多に魔物が自然発生しない、との事だった。

 クミホの話しぶりからして、魔物が発生する周期だったとも思えない。

 なのに、俺たちの目の前には強力な魔物の代表格、ドラゴンの姿がある。

 

「イブキ!」

 

 急に湧いた目の前のドラゴンに、クミホが牛車より跳び出して呼び掛けた。

 あのドラゴンは、まさかクミホの知り合いなのか。

 

「クミホ、遅い。余は待ち侘びた」

 

 ドラゴンが会話に応じた辺り、知り合いで間違いなさそうだ。

 しかし、剣呑な空気を身に纏っている。

 温和なやり取りを行うような雰囲気ではない。

 それにしても、見た目に反して随分と可愛らしい声だ。

 

(お前も大概暢気じゃねぇか)

 

 あのドラゴンがクミホと知り合いならば、ここで荒事が起こる事はないだろう。

 少し喧嘩を耳にするくらいか。

 

(さてな。オレは、一戦やり合うんじゃねぇかと予想してるんだが……)

 

 縁起でもない話だが、その予想は外れるはずだ。

 

「そっちの馬車に乗ってるのが、クミホの帰りを遅れさせた奴らだな……」

 

 外れるはずだったんだが、ドラゴンの目が、そうでない事を物語っていた。

 これは俺でも察する事ができる。

 これから俺たちは、あのドラゴンと一戦交えるだろう。

 

「そんな奴らなど、この国には必要ない。余が、それを証明してやろう」

 

 剣呑な空気という表現では収まらない、鋭い殺気が俺たちを射抜いた。

 いったいどういう事情なのか、あのドラゴンは俺たちへ殺意を抱いている。

 

(テノール!)

(言われなくても!)

 

 俺は聖剣を握り、体の主導権をエクスカリバーに渡す。

 俺たちは、ドラゴンと戦う姿勢を整えるのだった。

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