100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「余の力を、己の無力を思い知れ!異邦人!」
イブキと呼ばれていたドラゴンが、その巨体で突進してくる。
パースはその突進を避けるべく馬車を発進。
俺とリカルドはパースを守るべく、ドラゴンの前に立ちふさがる。
「『セイクリッドブレイズ』!」
まず仕掛けたのはリカルド。
聖剣デュランダルより
クミホの知り合いのようだったが、ドラゴン相手にその事を考慮する余裕はない。
リカルドは本気で、最悪殺すつもりで挑んでいる。
「無駄だ!」
「なっ、『セイクリッドブレイズ』が!?」
ドラゴンを覆い尽くすように燃え上がった炎は、ただの一瞬でかき消された。
リカルドは驚きを隠せない。
『セイクリッドブレイズ』は『魔術式再生』が組み込まれた魔術だ。
『魔術式崩壊』を用いられたとしても、そう簡単に消される魔術ではない。
『魔術式崩壊』以外の何かで打ち消されたと考えるのが妥当だ。
だが、その何かを分析している暇はない。
突進の勢いが全く殺されていないのだ。
このままではドラゴンの餌食となる。
「『ウタカタノユメ』」
そんな状況を覆すのが、クミホの魔術。
世界が歪んだかのように幻視した瞬間、急に現出した巨大な門がドラゴンを受け止めた。
それ程の頑丈さを持つ巨大な門が、詠唱破棄したクミホの魔術によって現出したのだ。
『ウタカタノユメ』という魔術らしいが、
そうだとすると、効果に多少の違和感がある。
気になりはするが、まだドラゴンに戦意がある故、詮索は保留だ。
「クミホ!何をするのだ!」
「それはウチの
ドラゴンとクミホが互いに睨み合う。
それぞれ怒りが滲んでおり、間違っても仲睦まじいやり取りではない。
「客人だと?笑わせる。そのような役立たず共を歓迎する意味がどこにあるのだ!」
「これから外とも仲良ぉやってこうとしてんねんで。何が気に食わへんのや」
「意味がないと言っている!食料も戦力も、ジパングだけで事足りているではないか!そのように、お前が築き上げてきたのだろうが!」
「ファーリーは今後も増える。魔王軍が活発化もしとる。食料も戦力も、これから先いくらあっても足りへんの」
どうにも、ドラゴンとクミホは意見が割れているようだ。
あのイブキと呼ばれているドラゴンは現在を鑑みて鎖国の維持を、クミホは未来を鑑みて鎖国の撤廃を、それぞれ推進しているように窺える。
「魔王軍など、余が居れば充分だ!」
「いつまでもイブキの力が通じるなんて、思たらあかん。魔王軍も馬鹿やない」
さりげなく食料について言い返せていない以上、ドラゴンの論理はすでに破綻している。
それでもまだ、ドラゴンは稚拙にも己の意見を通そうとしていた。
クミホと対等に話し合えているから、ドラゴンの地位はなかなかに高いのだろう。
しかし、頭までもクミホと対等という訳でもなさそうだ。
厄介なものである。
「分かってはくれないのだな……。ならば、大人しく見ていろ!余が圧倒する様を!」
「んな!?イブキ!」
ドラゴンが意気込むと同時に、クミホに異変が起こる。
クミホの髪の毛と尻尾の毛が、その
肌の若々しさはそのままだが、毛は老人の如く
さらには、ドラゴンを受け止めた門も消え去ったのだ。
「これで邪魔はなくなった!」
再度、ドラゴンは俺たちの方に飛んでくる。
クミホも歯噛みしており、魔術を行使する素振りはない。
いったいどういう事なのか不明だが、クミホが無力化されている。
「クソ!もう1度だ、デュランダル!……デュランダル?」
リカルドが聖剣を構え直したのに、また構えを崩してしまった。
何故なら彼にとって、予期せぬ事が起こっていたのだ。
「ど、どうして魔力がもう切れているんだ!」
聖剣デュランダルに埋め込まれていた魔力石は、その保有する魔力を空にしていた。
如何に『セイクリッドブレイズ』の燃費が悪いとはいえ、あの短時間で魔力を使い切るはずはない。
(あのドラゴンの特性が割れたな。だろ?テノール)
(ああ。あのドラゴン、魔力を吸ってる)
最初の『セイクリッドブレイズ』がかき消されたのも、クミホが毛の艶を失ったのも、そのせいだ。
あのドラゴンによって『セイクリッドブレイズ』を維持及び行使する魔力が吸われため、魔術が掻き消えた。
魔物、つまりは魔力によって肉体を構成するクミホは魔力を吸われたため、クミホの毛は萎び、魔術も行使できなくなった。
すべてはあのドラゴンの持つ固有の力、魔力の吸収によるモノである。
そしてもう1つ、気付いた事がある。
あのドラゴン、おそらくはクミホが言っていたジパングの仕様。
魔物が湧かないように島全土の魔力を吸収している魔物、『邪神フィーネ』の創造物だ。
魔力の吸収以外、どんな力を隠し持っているか予想もできない。
もしその力しかなかったとしても、ドラゴンの体躯から繰り出される物理攻撃は脅威だ。
人の身で受けようものなら、骨は砕け、内臓は破裂する。
そんな致命打を受けかねないのに、魔力を吸われ、肉体強化が使えなくなる。
純粋な身体能力で回避しろ、という訳だ。
(そんなんで、やれるか)
(誰にもの言ってやがる)
そんな状況で戦えるか問えば、自信に満ちた意思が返ってきた。
きっと、できるのだろう。エクスカリバーなら。
(任せたぞ)
(おうよ。五体満足で体返してやるぜ)
エクスカリバーは絶望などせず、ドラゴンに挑む。
その姿はどこまでも雄々しく、皮肉にも勇者らしかったのだった。