100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「来い、ドラゴン!オレが、ラビリンシアの勇者テノールが相手だ!」
エクスカリバーがドラゴンに向け、勇者の名を高らかに叫んだ。
自身がラビリンシアの代表者であるように表明し、少しでも注意を引こうとしている。
「勇者?勇者だと?ならば、多くの伝説と同じように、ドラゴンである余の前で死に晒せ!」
思惑通り、というか、落胆する程簡単に注意が引けた。
あのドラゴンは自身がドラゴンである事に、大層な誇りを持っているようだ。
わざわざ伝説を我が事のように語っていた。
確かに、勇者がドラゴンに挑んだ伝説は多くある。その内、ドラゴンに敗れてしまったのも当然ある。
しかし、全部ではない。ドラゴンに勝った勇者の伝説もあるのだ。
あのドラゴンの語りは、己が優勢である根拠になりはしない。
そもそも、伝説に語られる勇者とエクスカリバーを同列に置かない方が良い。
何故なら、エクスカリバーは仲間や聖剣の力などに頼らず、ただ己の技巧のみで幾億の戦いに勝利してきた者だからだ。
「フッ」
今まさに、その技巧を証明している。
エクスカリバーは聖剣を地面に突き立て、それを支えに空中へと己の体を躍らせた。
そこにドラゴンが突進してくるが、その突進は体に当たるより先に、ドラゴンの鼻先が聖剣に当たる。
そうすると、その聖剣は弾かれる訳だが、エクスカリバーの体は弾かれた勢いを使って空中で回転する。
その回転で、ドラゴンの体の上を転がったのだ。
目の当たりにしても、言葉にしてみても、割とエクスカリバーが何をやっているのか分からない。
とりあえず、エクスカリバーは直撃を回避したのである。
「何!?貴様、何故そのような動きが!」
ドラゴンが驚愕するのも無理はない。
俺の魔力はすでに吸われており、エクスカリバーは肉体強化が使えない。
そう。先程の回避は、純粋な身体能力で行っている。
「オレは魔力保有量に恵まれなかった。それでも戦いに身を投じるなら、魔力を使わない戦い方を学ぶしかなかったんだ」
それが、エクスカリバーが類稀なる技巧を持つ所以。
足りないモノを補うために、エクスカリバーは技量を培ったのだ。
「ハッ!悲しいものだな。そんな才のない身で、勇者を名乗るか!」
魔力保有量の少ないエクスカリバーを、魔力保有量の多いドラゴンが嘲笑し、尾を振るう。
速度があり、間違いなく死に至らしめるその一撃。
常人なら怯み、慣れた者でも防御を咄嗟に選択するだろう。
エクスカリバーは違う。
その迫り来る尾に、両足を添えた。
添えた足から伝わる衝撃を体全体で受け流し、空中へと逃す。
エクスカリバーは剣だけでなく、体の使い方も恐ろしい技量を持っているのだ。
元より、剣と体は切っても離せないモノ。
剣術を極めるのに体術も極めるのは、ある意味でごく自然な事かもしれない。
生前に培った技を別人の体で再現するというのは、全く以って自然ではないが。
技巧とか高い技量なんて表現では、もはや収まっていない気がする。
「よっと」
そんな尋常じゃない技で攻撃を受け流した後、残った衝撃を跳躍の足しにし、一気に距離を空けた。
着地も一切心配のない安定したモノだ。
「テノール!加勢する!」
「どうか下がっていてください!すみませんが、他人を助ける余裕はありません!」
リカルドが加勢を申し出たが、エクスカリバーは強く拒絶した。
言葉に遠慮がないように聞こえるが、本当に遠慮がなかったらこういうだろう。
『足手纏いだ』と。
魔力が吸われるこの状況では、魔術師が魔術を使えないのはもちろん、戦士だって肉体強化が使えない。
そんな状態で加勢されても邪魔にしかならない。
エクスカリバーとはいえ、極限の戦いをしているのだ。
しかも、エクスカリバーは単独戦闘の達人であって、連携の達人ではない。
足手纏いを抱えて勝利する事は、エクスカリバーでも無理だ。
「そ、そんな……」
リカルドが失意に沈むが、構っている余裕もない。
エクスカリバーはドラゴンを真っ正面に見る。
「おのれ、ちょこまかと!」
幸いにして、ドラゴンはエクスカリバー以外眼中にない。
攻撃を見事に回避されたのが、かなり癪に触っているらしい。
冷静さも欠いているのか、1度回避されたはずの突進をしてくる。
「芸がないな、ドラゴン」
エクスカリバーもまた同じ回避を試みるかのように、また聖剣を地面に突き立て、体を空中に躍らせた。
1度見せたのだ、読まれていないとは思えない。
「芸がないのはそちらだ!喰らってくれる!」
やはり、読まれていた。
ドラゴンは突進から、噛み付きに切り替える。
空中に体があるから避けられない。
エクスカリバーを相手にしていてそう考えるのは、あまりにも浅慮だ。
「ありがとう、引っ掛かってくれて」
エクスカリバーは地面に突き立てた剣を引っ張り、自身を即座に着地させた。
ドラゴンの噛み付きは空を切る。
元よりエクスカリバーのその行動は、突進と噛み付きの両方を考慮したモノだったのだ。
だから、途中で切り替えられたところで、問題なく回避できる。
それにしても、エクスカリバーは避けてばかりだ。攻撃をしていない。
これでは防戦一方で、体力を削られて終わる。
残念ながら、そう考えるのも浅慮だ。
エクスカリバーはずっとある物を探していた。
逆転の一手となる、とある物を。
「見つけた」
もう少しかかるだろうと思った探し物を、エクスカリバーの視界に捉えられる。
それは、ドラゴンの喉元にあった、ドラゴンならほとんど有している物。
「貰うぞ、ドラゴンの逆鱗」
1枚だけ逆さまに生えるというドラゴンの逆鱗。
『逆鱗に触れる』という、人を怒らせた時の比喩に使われるそれ。
エクスカリバーはそれに、刃を向けるのだった。