100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十九節 魔力がなくてもできる、簡単ドラゴン退治

「来い、ドラゴン!オレが、ラビリンシアの勇者テノールが相手だ!」

 

 エクスカリバーがドラゴンに向け、勇者の名を高らかに叫んだ。

 自身がラビリンシアの代表者であるように表明し、少しでも注意を引こうとしている。

 

「勇者?勇者だと?ならば、多くの伝説と同じように、ドラゴンである余の前で死に晒せ!」

 

 思惑通り、というか、落胆する程簡単に注意が引けた。

 あのドラゴンは自身がドラゴンである事に、大層な誇りを持っているようだ。

 わざわざ伝説を我が事のように語っていた。

 確かに、勇者がドラゴンに挑んだ伝説は多くある。その内、ドラゴンに敗れてしまったのも当然ある。

 しかし、全部ではない。ドラゴンに勝った勇者の伝説もあるのだ。

 あのドラゴンの語りは、己が優勢である根拠になりはしない。

 そもそも、伝説に語られる勇者とエクスカリバーを同列に置かない方が良い。

 何故なら、エクスカリバーは仲間や聖剣の力などに頼らず、ただ己の技巧のみで幾億の戦いに勝利してきた者だからだ。

 

「フッ」

 

 今まさに、その技巧を証明している。

 エクスカリバーは聖剣を地面に突き立て、それを支えに空中へと己の体を躍らせた。

 そこにドラゴンが突進してくるが、その突進は体に当たるより先に、ドラゴンの鼻先が聖剣に当たる。

 そうすると、その聖剣は弾かれる訳だが、エクスカリバーの体は弾かれた勢いを使って空中で回転する。

 その回転で、ドラゴンの体の上を転がったのだ。

 目の当たりにしても、言葉にしてみても、割とエクスカリバーが何をやっているのか分からない。

 とりあえず、エクスカリバーは直撃を回避したのである。

 

「何!?貴様、何故そのような動きが!」

 

 ドラゴンが驚愕するのも無理はない。

 俺の魔力はすでに吸われており、エクスカリバーは肉体強化が使えない。

 そう。先程の回避は、純粋な身体能力で行っている。

 

「オレは魔力保有量に恵まれなかった。それでも戦いに身を投じるなら、魔力を使わない戦い方を学ぶしかなかったんだ」

 

 それが、エクスカリバーが類稀なる技巧を持つ所以。

 足りないモノを補うために、エクスカリバーは技量を培ったのだ。

 

「ハッ!悲しいものだな。そんな才のない身で、勇者を名乗るか!」

 

 魔力保有量の少ないエクスカリバーを、魔力保有量の多いドラゴンが嘲笑し、尾を振るう。

 速度があり、間違いなく死に至らしめるその一撃。

 常人なら怯み、慣れた者でも防御を咄嗟に選択するだろう。

 エクスカリバーは違う。

 その迫り来る尾に、両足を添えた。

 添えた足から伝わる衝撃を体全体で受け流し、空中へと逃す。

 エクスカリバーは剣だけでなく、体の使い方も恐ろしい技量を持っているのだ。

 元より、剣と体は切っても離せないモノ。

 剣術を極めるのに体術も極めるのは、ある意味でごく自然な事かもしれない。

 生前に培った技を別人の体で再現するというのは、全く以って自然ではないが。

 技巧とか高い技量なんて表現では、もはや収まっていない気がする。

 

「よっと」

 

 そんな尋常じゃない技で攻撃を受け流した後、残った衝撃を跳躍の足しにし、一気に距離を空けた。

 着地も一切心配のない安定したモノだ。

 

「テノール!加勢する!」

「どうか下がっていてください!すみませんが、他人を助ける余裕はありません!」

 

 リカルドが加勢を申し出たが、エクスカリバーは強く拒絶した。

 言葉に遠慮がないように聞こえるが、本当に遠慮がなかったらこういうだろう。

 『足手纏いだ』と。

 魔力が吸われるこの状況では、魔術師が魔術を使えないのはもちろん、戦士だって肉体強化が使えない。

 そんな状態で加勢されても邪魔にしかならない。

 エクスカリバーとはいえ、極限の戦いをしているのだ。

 しかも、エクスカリバーは単独戦闘の達人であって、連携の達人ではない。

 足手纏いを抱えて勝利する事は、エクスカリバーでも無理だ。

 

「そ、そんな……」

 

 リカルドが失意に沈むが、構っている余裕もない。

 エクスカリバーはドラゴンを真っ正面に見る。

 

「おのれ、ちょこまかと!」

 

 幸いにして、ドラゴンはエクスカリバー以外眼中にない。

 攻撃を見事に回避されたのが、かなり癪に触っているらしい。

 冷静さも欠いているのか、1度回避されたはずの突進をしてくる。

 

「芸がないな、ドラゴン」

 

 エクスカリバーもまた同じ回避を試みるかのように、また聖剣を地面に突き立て、体を空中に躍らせた。

 1度見せたのだ、読まれていないとは思えない。

 

「芸がないのはそちらだ!喰らってくれる!」

 

 やはり、読まれていた。

 ドラゴンは突進から、噛み付きに切り替える。

 空中に体があるから避けられない。

 エクスカリバーを相手にしていてそう考えるのは、あまりにも浅慮だ。

 

「ありがとう、引っ掛かってくれて」

 

 エクスカリバーは地面に突き立てた剣を引っ張り、自身を即座に着地させた。

 ドラゴンの噛み付きは空を切る。

 元よりエクスカリバーのその行動は、突進と噛み付きの両方を考慮したモノだったのだ。

 だから、途中で切り替えられたところで、問題なく回避できる。

 

 それにしても、エクスカリバーは避けてばかりだ。攻撃をしていない。

 これでは防戦一方で、体力を削られて終わる。

 

 残念ながら、そう考えるのも浅慮だ。

 エクスカリバーはずっとある物を探していた。

 逆転の一手となる、とある物を。

 

「見つけた」

 

 もう少しかかるだろうと思った探し物を、エクスカリバーの視界に捉えられる。

 それは、ドラゴンの喉元にあった、ドラゴンならほとんど有している物。

 

「貰うぞ、ドラゴンの逆鱗」

 

 1枚だけ逆さまに生えるというドラゴンの逆鱗。

 『逆鱗に触れる』という、人を怒らせた時の比喩に使われるそれ。

 エクスカリバーはそれに、刃を向けるのだった。

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