100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十節 ドラゴンの逆鱗

「貰うぞ、ドラゴンの逆鱗」

 

 エクスカリバーは触れれば怒りを買うドラゴンの逆鱗に、躊躇なく刃を向けた。

 ドラゴンは己の攻撃が3度も避けられた驚愕か、それともただの慢心か、エクスカリバーに対応できていない。

 エクスカリバーは難なく、逆鱗に刃を添え、その鱗を剥ぐ。

 

「なっ!?貴様ぁ!」

 

 文字通りドラゴンの逆鱗に触れ、意味通りドラゴンの逆鱗に触れた。

 そうしてドラゴンの殺意が増したが、もう遅いのだ。

 ドラゴンが何故逆鱗に触れられると怒るのか。

 それは、そこに触れられたくないからだ。

 でも、触れられたくないだけで、温和な個体も怒らせるという事態になるだろうか。

 簡単な話だ。触れられれば怒る程、その部分が大事だという話。

 例えるなら、急所であるとか、恥部であるとか。

 そう。ドラゴンの逆鱗とは、つまりそういう物なのである。

 

「お前の逆鱗が隠していたのは急所なのか、恥部なのか。果たしてどっちだろうな?」

 

 エクスカリバーは、とても悪い笑みで、今逆鱗を剥いだ肌へと触れる。

 そうすると――

 

「っーーーー!」

 

――ドラゴンは急にその体を大地へ投げ出し、脱力した。

 これは、鋭敏な感覚を持つという意味で、急所だったかもしれない。

 

「お、お前!だ、誰の許しを得て―――」

「まだ観念してないみたいだな」

「ひゃん!や、止め―――」

「どんな気持ちだい?逆鱗の下を触れられるのは」

「あっ、あーーーーーっ」

 

 まだ怒りを滲ませるドラゴンに対し、エクスカリバーは逆鱗の下を軽く指で擦っている。

 効果は劇的だ。ドラゴンは体を震わせるだけで、抵抗する力が奪われている。

 

「こんな……。ひ、人なんぞに……、余が……。余が……!」

「襲い掛かってきた事に、なんの謝罪もなしかい?」

「ん、あっ」

 

 ……なんかこう、衆人環視で響かせてはいけない声が漏れているような気がする。

 もしや、急所であり、恥部でもあったのか。

 よろしい。もっとやれ。

 

「や、止めろ……!余の、そ、そこに触れるな!」

「人へお願いする時に、そんな態度で良いのかな?」

「んんーーーーーー!余、余が悪かった!謝る!だから、これ以上は!」

 

 さっきまで強情にも自身の意見を貫き通してきたドラゴンがこの(ざま)だ。

 エクスカリバーのお手並みには、俺も盛大な拍手を送りたい。

 もちろん、怒れるドラゴンを鎮めたお手並みに、だ。

 

「君はオレ以外にも、たくさんの人に迷惑をかけた。彼らには、何もなしかい?」

「ちゃ、ちゃんと謝る!謝るから、そ、その手を早く、っ……!」

「まずは、しっかり謝れるか、示してくれなきゃ。さぁ、言葉で、俺に、謝ってみてくれ」

 

 何がとは言わないが、凄く楽しそうだ。

 エクスカリバーも意気揚々とドラゴンに謝罪を迫っている。

 

「ご、ごめんなさい……」

「もっと声と謝る対象をはっきり」

「貴様へ急に襲い掛かってごめんなさい!」

「まぁよし、良く言えたね」

 

 エクスカリバーはおもむろに伸ばしていた手を引っ込め、満面の笑みを浮かべていた。

 良い性格をしている。

 

「よ、余が、よもや人なんぞに逆鱗のし、下を触られるなんて……」

「おや?オレ以外にも謝るって話ではなかったかな?」

「謝る!しっかり謝る!」

 

 羞恥心や敗北感で涙を流すドラゴンへ、エクスカリバーは容赦なく追撃を仕掛けようとしていた。

 心が折れているドラゴンは、追撃をされまいと素直に指示へ従う。

 そうして一旦、ドラゴンは敵意のない事を表すためか、幼げな少女の姿に化けた。

 人化魔術、このドラゴンも習得していたのか。

 双王が協力者の手を借りた上で、人化魔術を習得していたが、このドラゴンは自力で習得したのだろうか。

 ドラゴンらしい角が隠しきれていないから、自力である可能性は高いかもしれない。

 

「……他国の者たち。急に襲い掛かった事、すまなかった。それと、クミホ。お前にも迷惑をかけた。この通りだ」

 

 ドラゴンは、イブキと呼ばれていた少女は、リカルドとパース、クミホに頭を下げていた。

 エクスカリバーを窺いつつの行動であるため、本心からではないだろう。

 まぁ、初邂逅でここまで諭せたのなら、充分すぎる成果だ。

 エクスカリバーも満足したようで、聖剣を鞘に収め、俺に体の主導権を返した。

 

(いやー面白かったぜ。辱めだけで済ますのは初めてだったが、これはこれで中々良いな)

 

 ドラゴンを虐めたエクスカリバーは大変ご満悦である。

 

「助かったわぁ、テノールはん。まさかイブキをこないにしてまうなんて」

 

 魔力を返されたのか、毛に艶が戻っているクミホが感謝と感心を俺に向けてくれた。

 イブキの方は、そのクミホの影に隠れて怯えている。

 

「いえ、降りかかった火の粉を払ったまでです。それに、申し訳ありません。少し加減を間違えました」

「ええねん、ええねん。この子にはあんくらいが丁度ええわ」

 

 あの衆人環視に響かせてはいけない声を上げさせたのは、いくらなんでもイブキの名誉を傷付けたかと心配になったが、問題はなさそうだ。

 保護者みたいなクミホが何も問題視しておらず、むしろ清々しい面持ちだった。

 普段からイブキに手を焼いているのかもしれない。

 

「ほな、再出発しましょか。イブキはウチと牛車に乗ろな」

「わ、わざわざこんな遅い足で向かわずとも、クミホは余が運べるだろう!」

「なんや、聞き分けのない子やな。なんなら、もうちょいこのお兄さんとお話ししよか?」

「お、大人しくするからそれだけは!」

 

 俺を脅迫の材料にされ、従順になるイブキ。

 少女の姿でそこまで脅えられると、さすがの俺も罪悪感を覚えるが、同時に奇妙な嗜虐心が芽生える。

 

(お前、そんな嗜好もあるのか。つくづく度し難い奴だな)

 

 ドラゴン虐めてご満悦になってたお前には言われたくない。

 後、『も』とはなんだ。まるで他にも嗜好があるようではないか。

 

(男好きだろ、お前)

 

 全く謂れのない風評だ。

 もう良い。付き合っても罵倒されるだけだろう。

 徒労も(はなは)だしいので、無視を決め込む。

 そうして、さっさと馬車に乗り込み、再出発を待つのだった。

 

(いや、男好きは謂れあるだろ。ベアウに癒し求めてたのはどこのどいつだ)

 

 煩い。ベアウは例外だ。

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