100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十一節 ただ敬われる神ではなく

「う、うう……。あのような辱めを受けるなど……。もうお嫁に行けん……」

 

 再出発したクミホの牛車。

 その中で、イブキは少女の姿に似つかわしく、涙で枕を濡らしていた。

 枕は枕でも、クミホの膝枕だが。

 我がままで手の焼けるイブキではあるが、クミホにとって捨て置ける存在ではないのだ。

 ジパングの守り神であり、悠久を共にした仲間なのだから。

 

「嫁に行く気あるんかいな」

 

 そんな絆は心に秘め、いや、秘めていないからこそ、クミホはイブキに軽口を叩いた。

 普段の我がまま、傲慢な振る舞いをしておいて、嫁入りを気にするのは如何なものかと。

 

「比喩表現だ!嫁に行くとしても、余に勝てる者でなければ認めん!ミナ・ミヌエーラの双王とて、余には敵わぬ。ならば、嫁ぎ先などないのだ」

「そなら、丁度敵うんが居たやん。テノールはん。魔力なしでもイブキを負かしとったで?」

 

 イブキは自身の力を誇っているところに、クミホは揚げ足を取るように、その結婚条件に見合う者、イブキを打ち負かした者を指摘した。

 もちろん、冗談半分揶揄い半分の指摘だ。

 

「あ、あんな奴のところに嫁げる訳がないだろう!乙女の大事なところを、耳目のある場所で(まさぐ)るような奴だぞ!?」

 

 やはり、結婚相手とは間違っても認めないイブキ。

 まさに乙女らしく、羞恥心で顔を真っ赤にしていた。

 乙女という年齢ではない事について、さすがのクミホも指摘しない。

 指摘すれば、ブーメランのように自身へ跳ね返ってくる。

 

「あれは自業自得や。テノールはんになんの非もあらんのに、逆恨みした罰やで。おまけに敵の力量も分からんと、愚直に突っ込み、己の弱点晒したんやからな。自爆言われても仕方ないわ」

「あんなのズルだ!魔力もなしにあんな動けるなどありえん!あいつ絶対混血だ!」

「そうなん?魔力、ヒューマンと違ごうたん?」

 

 クミホはイブキの発言を、純粋な興味で追及した。

 吸った魔力が如何なる種族のモノか、イブキは区別できる。

 そんなイブキが混血であると発言したという事は、テノールが混血である可能性が高い。

 テノールの強さ、その秘密が少しでも暴けると、クミホは興味を抱いたのだ。

 

「…………完全にヒューマンの魔力だった」

「なんやねん」

 

 残念ながら、イブキの発言はただの負け惜しみだった。

 これにはクミホも思わず肩を落とす。

 

「でも、あいつは絶対普通の人間じゃない!」

「あーはいはい。せやなー。テノールはんは普通の人間やのぉて勇者やなー。襲い掛かってきたドラゴンに謝罪させるだけで許すんやからな、ほんなに紳士な勇者やなー」

 

 感情論だけで抗議するイブキに、クミホは耳を貸さなかった。

 雑な返事だけしていている。

 

「あいつが紳士であろうはずがない!人の目がある場所で、余を辱めたのだぞ!?」

「魔力ない状態でドラゴン負かすんやから、あの手しかないやろ。苦渋の決断や」

「どこが!嬉々としてやってたぞ!あいつはドラゴンを辱めて遊ぶ下衆野郎だ!」

「せやなー」

 

 イブキは奇しくもテノール及びエクスカリバーの本性を言い当てていた。

 だが、当然負け惜しんでいるようなこの流れでは、クミホが真に受けるはずもない。

 

「うう……、クミホが異邦人の肩を持つ……。これでは、奴に余を辱めた責任を取らせる事もできそうにない……」

「責任取らす?嫁入りでもするん?」

「まだその話を引き摺るか……。天丼も過ぎれば飽きるぞ……」

「なんや、もう耐性付いたか。おもろないなぁ」

 

 泣き崩れるイブキには、もう過剰反応する元気がなくなっていた。

 追撃は酷かと、クミホもその話題を止める。

 代わりに、その弱ったなんとも可愛らしいイブキに笑みを零す。

 

「それに……」

「ん?」

 

 弱りながらも言葉を続けるイブキ。

 その雰囲気は、我がままを貫く、いつもの傲慢なモノではなかった。

 イブキの珍しい様子に、クミホもこの時ばかりは耳を傾ける。

 

「余は絶対この国を離れない。絶対に、クミホを置いて行ったりはしない」

「……」

 

 イブキが語るのは、決意だった。

 己が例え恋をしたとしても、広い外の世界に恋焦がれたとしても、友を1人にしないという決意。

 それは、テノールたちに牙を向けた原因であり、クミホへの友情であり、イブキの根幹でもある。

 歪な生誕と異端な能力を抱える、そんな己と寄り添ってくれた友への恩返し。

 一生を費やしてでもその友と友が生み出したモノを守ろうとする、イブキの純粋さなのである。

 

「余は馬鹿だから、迷惑をかけていると思う。でも、余にはこれしかできない。余は……」

「そりゃ迷惑ばっかりやわ」

「……」

 

 迷惑をかけている自覚があり、迷惑をかけている事実があるイブキ。

 そんな彼女であるから、クミホからの説教は真摯に受け止めようと、耳も目も閉ざさなかった。

 イブキは本当に馬鹿である。

 クミホがこんな弱った仲間を責め立てるような者では、決してないのだ。

 

「でもなぁ、イブキ。友達とか仲間ってそういうもんやろ?お互い迷惑かけあって、お互い助け合って、そうやって生きていくもんやろ?」

 

 クミホは、優しく諭した。

 慈しみを込めて、イブキに言葉を送っている。

 

「……クミホにとって、余は友達とか仲間だったのか?」

「なんや、知らんかったん。結構言葉にしてきたつもりやったんやけど」

 

 イブキに信じてもらえてなかったのだと、クミホは苦笑した。

 同時に、仲間である故に軽んじていたと、クミホは反省する。

 

「お前は、口が上手いからな……。お世辞を言ってるのだとばかり、思っていたのだ……」

「阿保。友情を利用するんはもう狐やのうて悪魔や。ウチは狐やねん」

「相変わらず、狐への良く分からん拘りだな……」

「なんや、狐ええやん。狐耳生えてるんはマジで天使やで」

「お前は天使ではなくてファーリーだぞ」

「言葉尻を捕らえるんやない。比喩表現や」

 

 クミホとイブキは仲睦まじい会話を繰り広げる。

 イブキの涙はどこへやら。聡い母と我がまま娘の形相はどこへやろ。

 そこにあるのは、確かに友達同士の気安いやりとりだったのだ。

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