100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十二節 いざ京へ

「あれがジパングの首都、キョーか……」

 

 馬車の窓から外を覗き、俺は首都がもうすぐである事を知覚した。

 他の土地ではほぼ見る事のない、特徴的で巨大な建造物があるのだから、嫌でも知覚できるだろう。

 その巨大な建造物とは、織豊系城郭に分類される城だ。

 絵画で見た事はあったのだが、実物を見るのはこれが初めてである。

 ラビリンシア王宮や竜心王宮とはまるで違う造りに、俺は奇妙な感慨を抱いた。

 他国との交流を断っていたとはいえ、これ程建物の様式に違いが出るものなのかと。

 環境が違えば、人の考え方も変わってくると言う。

 この織豊系城郭は、その証拠なのかもしれない。

 

「凄いな……。首都だってのに外壁がない……」

 

 俺と同じく窓から外を覗いていたリカルドは、他のところに目をやっていた。

 それは、都と外の境界線。

 ただただ開け放たれたその土地に、リカルドは驚愕している。

 確かにそれは、壁によって守られた都しか知らないリカルドや俺にとって、驚愕の事実である。

 都を守る外壁がなければ、魔物が都に攻めたい放題だ。

 魔物の脅威に度々晒されるラビリンシア国民としては、その存在は必要不可欠だとするのが常識だろう。

 だが、ジパングにおいて、その常識は覆る。

 

「魔物が発生しないから、外壁は必要ないんでしょうね」

 

 そう。ジパングには魔物がほとんど発生しない。

 発生する時も、その場所があらかじめ決まっている。

 魔物の襲撃に備えて壁を作る必要が、ジパングにはないのだ。

 

「それもまぁ、そんなんだけどさ……。魔物がないにしても、他国からの侵略とかに備えるもんじゃないか?」

「……それもそうですね」

 

 リカルドが実に尤もな指摘をし、俺もその事に思い至らされた。

 魔物が襲ってこないにしても、人が襲ってこないとは限らない。

 むしろ、知恵を使って攻めてくる分、人からの襲撃の方が怖いだろう。

 人と人との争い、戦争が如何に悲惨なモノかは、歴史に多くの事例が残っている。

 一番悲惨な事例は、人類の国同士が争って互いに疲弊したところへ魔王軍が攻めてきた、という事例だ。

 結果、その争った両国は見事、魔王軍の手に落ちたらしい。

 全く以ってくだらなすぎる悲劇だ。悲劇好きの劇作家でも、もう少し真面な脚本を作るだろう。

 そのくだらない悲劇のおかげで、国々が国家間戦争に消極的になってくれているのだから、ある意味で皮肉で、ある意味で良い教訓だ。

 

「なんで、外壁がないんだろうな?」

 

 話は戻って、キョーの外壁について。

 魔物の襲撃がないにしても、領主とかの謀反を恐れ、首都に壁くらい作るだろう。

 では、何故その壁がないのか。

 リカルドはまだ頭を(ひね)っているが、単純な答えである。

 

「ジパングが国となったその時より、この土地における戦争はなかったのでしょう」

 

 魔物の襲撃もない。人類間での争いもない。だから壁など必要ない。

 そういう、単純でありながら馬鹿げた答えだ。

 

「……あり得るか?そんな事」

「……そういえば、リカルドさんはファーリーの成り立ちを聞いてないんでしたっけ」

「良し分かった。それ以上は話すな。俺は国家機密なんて聞きたくない」

 

 クミホはファーリーという種族の創造者である。

 それを前提として、その答えは組み立てられているのだ。

 創造者が余程理不尽な事をしなければ、被造物が謀反を企てるはずがない。

 よって、クミホはファーリーたちに理不尽な事をしなかったから、ファーリーを生み出したその日より、ファーリーたちから謀反を起こされていない。

 そういう推論があるからこそ、導き出せた答えだ。

 前提を知らない者では、到底納得ができない答えなのである。

 

 前提を知らなかったリカルドも納得できないはずだが、リカルドは即座に耳を塞いでいた。

 面倒事の予感がしたのだろう。自身の好奇心より、危機感が勝った訳だ。

 元より俺も話す気はなかったが、リカルドに聞く気がないなら助かる。

 

「大丈夫です、話しませんよ」

「……本当だよな」

「敵国ならまだしも、これから友好を育むべき国の機密情報です。漏らしたりはしませんよ」

「そ、そうか……。というか、やっぱり国家機密だったのか……」

 

 自身の予感は正しかったと、冷や汗を流すリカルド。

 実に正確な危機感知を持つ彼は、きっと長生きするだろう。

 いや、内臓の病気で早死にしそうか。高い頻度で胃を押さえているし。

 

「国家機密を教えてもらえるとか、クミホ陛下はお前の事を気に入ってるんだな」

「俺が欲しいと、直接言われましたよ」

「それはいくらなんでも直接的すぎないか……?」

 

 クミホの大胆不敵さに、リカルドは驚きを通り越して呆れていた。

 それも無理はない。

 他国の勇者を勧誘するなど、常識的に考えればかなり危ない行為だ。

 あの自身の欲望に正直だったエクラタント教皇も、国際問題になるという事で手を引いた。

 対してクミホは、国際問題になる程度では引き下がっていない。

 一応拒絶はしたが、まだ狙っているかもしれない。

 趣味人である前に教皇であるか、帝王である前に芸術家であるか。そういう差なのだろう。

 つまり、エクラタントは国を優先したが、クミホは自身の興味を優先したという事だ。

 あの美人にそこまで興味を抱いてもらえたとなると、俺としては悪い気がしない。

 

「……なんか嬉しそうだな」

「人から求められるのは、嬉しい限りですので」

 

 俺の内心が顔に出ていたようで、リカルドにその感情を読み取られてしまった。

 隠すのも不自然なので、言葉を選んで言い換えて置く。

 

「……さすがは勇者様だな」

 

 しっかり取り繕えたようだが、その勇者然とした返しに苦笑された。

 俺も理解は得られなかったと、苦笑を浮かべてしまう。

 そんな苦笑し合う俺たちを、ジパングの首都が迎え入れるのだった。

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