100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「ほな、改めて。ようこそ、ウチの国へ。ジパングへ。
首都の城郭内、その一角。畳が床一面に敷かれたその部屋で、俺、リカルド、パースはクミホから料理を振る舞われていた。
料理の内容としては、白米、マグロとシーサーペントにクラーケンの刺身、ほうれん草のお浸し、
確かに
シーサーペントはラビリンシアでも食べられるが、マグロやクラーケンとなると、食べられる機会はかなり少ない。
マグロやクラーケンは危険な沖合・遠洋でしか釣り上げられないからだ。
おまけに、そんな危険な漁をしに行っても、釣り上げられる保証はない。
危険と利益が釣り合わない事から、漁師自体が少ないのである。
そうして水揚げ量が少なければ、当然高価になる。
鮮度を保って運搬するとなると、値段はさらに高騰する。
そういう訳で、マグロやクラーケンは、内陸のホッタン領ではもちろん、海に面しているトータン領やナンタン領でも滅多にありつけない。
ちなみに、マグロについてだが。
厳密には、以前存在したとされる『
『邪神フィーネ』が生み出した魔物である。
鮪を後世に残したいが故、他の『始まりの六柱』も協力し、どうにか魔物に変容させる事で鮪を存続させたらしい。
神々が何をやっているんだと苦言を呈しそうになるが、そのマグロを食べた者は口を揃え、その奇行を称賛する。
『我々人類にこの美味を残してくれた事、感謝いたします』と。
神々の奇行も許せてしまう程、マグロは美味なのである。
俺もマグロを食べた経験はあるので、苦言を呈しながら称賛し、有り難くいただこう。
「遠慮せんと。食べてぇな」
「では、いただきます」
「ええ、いただきます」
「……いただきます」
クミホが促すのに従い、俺、パース、リカルドが食への感謝を合掌して表した。
そうしてから、箸を手に持ち、各々好きな物から手を付けていく。
俺やパースは割と遠慮なく、と言っても礼儀を弁えながら食しているのに対し、リカルドは最初、実に慎重だった。
だが、それもマグロの刺身を口にしたところで一変する。
傍から見ても、リカルドは目を見開いていたし、口角が上がっていた。
そこからは、何も警戒せずに食事を進めている。
リカルドはナンタン家長男のはずだが、冒険者業で長らくマグロを味わっていなかったのかもしれない。
3級だったとはいえ、その収入ではマグロに手は届かないだろう。
「これも、どうやろか」
俺たちが食事をしているのを他所に、クミホは一升瓶を持って来ていた。
ただ、透けて見える内容物の色合いから、葡萄酒や林檎酒ではない。
「それは?」
「『清酒』や」
「ほう!『清酒』ですと!」
疑問を口にしたのは俺だったが、クミホの答えに強い関心を示したのはパースだった。
その関心に応じて、クミホはパースのタンブラーグラスにその酒を注ぐ。
「こ、これが我がラビリンシア建国王アルトが求めた、かの清酒ですか……!」
パースはグラスを掲げ、清酒を詳細に観察していた。
そう。清酒とは、建国王アルトが酒造を支援し、ついぞ製造に至れなかったお酒である。
パースは建国王アルトにかなり思い入れがあるようで、その建国王が求めていた清酒が気になっていたようだ。
俺も遠目から観察させてもらっているが、まるで水のように無色透明で、本当にお酒なのかと疑ってしまう。
「おかわりはあるんや。そない勿体がらずに飲みはったらええよ?」
「それはそれは。ならば、舌で以って観察させてもらいましょうかねぇ」
パースは期待に胸を膨らませながら、その無色透明な液体を口に入れた。
おかわりがあるとクミホに明言されながらも、パースはその液体を舌で転がし、その味を噛みしめる。
「なるほど、これはアルト王の求めた味でしたか」
パースはそのような深い感慨と、1粒の涙を漏らした。
その涙はあまりにも唐突で、俺もリカルドも面食らう。
「どないしたん?」
「いえ、これは失礼。かの王はこれを飲めずに逝ってしまったのかと思うと、胸がいっぱいになってしまいまして……」
さすがのクミホも怪しめば、パースの中にあったのは美味への感動と偉人への思いがあったらしい。
しかしそれも一瞬の事。パースはそれらを胸に秘め、自身で涙を掬う。
「大変美味でした。良ければもう1杯」
「気に入ってくれたようやな。1杯と言わず、好きなだけ。なんやったら、お土産に包みましょか?」
「適正価格で、引き取らせていただきます。できる事なら、輸入の方も検討したく」
「ええよ。ジパングの特産品として、清酒は売り出したかったんや」
パースは清酒の購入に踏み切った上に、今後も降ろしてもらえるように打診。
クミホの快く受け入れられたところで、パースは清酒を
いつもどこか掴みどころのなく、計り知れないパース。
今この時に限り、彼は吉報を素直に喜ぶ、純粋な男だったのだ。
(テノール。清酒、樽な)
(……了解)
他人が酒を美味そうに飲んでいて羨ましかったのだろう。
エクスカリバーは率直に貢ぎ物の催促をしてきた。
元より買う約束であるため、俺は抗ったりはしない。
「テノールはんはどないなん?」
エクスカリバーとやり取りしている内に、クミホはリカルドにも清酒を注いで、俺の前へと回ってきた。
瓶を傾けようとしているのだから、用事が酒注ぎなのは明白である。
「俺は控えさせてもらいます。人前で飲むのはちょっと……」
「ほう……。そうなん……」
俺自体は酒が苦手なので酒注ぎを断れば、クミホはとても妖しい笑みを浮かべた。
それからクミホは俺の横に移って、耳打ちする。
「……ほなら、2人きりで飲まん?テノールはんが泊まるお部屋、後でお酒持って向かうさかい」
クミホはどうしても俺に清酒を飲ませる気だった。
人前では飲まない俺に、人前ではない場所での飲酒を提案してきたのである。
これは、やられた。
断った文句が人前で飲みたくないという事であった以上、この提案も断るというのは難しい。
「ありがとうございます。その時には、いただきます」
俺は不審さを出さないようにするのが精々だった。
こうして、クミホだけとお酒を飲む事が予約されるのだった。