100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十三節 アルコールハラスメント?

「ほな、改めて。ようこそ、ウチの国へ。ジパングへ。(ささ)やかけど、持て成させてもらうわ」

 

 首都の城郭内、その一角。畳が床一面に敷かれたその部屋で、俺、リカルド、パースはクミホから料理を振る舞われていた。

 料理の内容としては、白米、マグロとシーサーペントにクラーケンの刺身、ほうれん草のお浸し、和布(わかめ)と豆腐の味噌汁である。

 確かに(ささ)やかと言えば(ささ)やかだが、刺身が中々贅沢だ。

 シーサーペントはラビリンシアでも食べられるが、マグロやクラーケンとなると、食べられる機会はかなり少ない。

 マグロやクラーケンは危険な沖合・遠洋でしか釣り上げられないからだ。

 おまけに、そんな危険な漁をしに行っても、釣り上げられる保証はない。

 危険と利益が釣り合わない事から、漁師自体が少ないのである。

 そうして水揚げ量が少なければ、当然高価になる。

 鮮度を保って運搬するとなると、値段はさらに高騰する。

 そういう訳で、マグロやクラーケンは、内陸のホッタン領ではもちろん、海に面しているトータン領やナンタン領でも滅多にありつけない。

 

 ちなみに、マグロについてだが。

 厳密には、以前存在したとされる『(まぐろ)』という魚ではない。

 『邪神フィーネ』が生み出した魔物である。

 鮪を後世に残したいが故、他の『始まりの六柱』も協力し、どうにか魔物に変容させる事で鮪を存続させたらしい。

 神々が何をやっているんだと苦言を呈しそうになるが、そのマグロを食べた者は口を揃え、その奇行を称賛する。

 『我々人類にこの美味を残してくれた事、感謝いたします』と。

 神々の奇行も許せてしまう程、マグロは美味なのである。

 俺もマグロを食べた経験はあるので、苦言を呈しながら称賛し、有り難くいただこう。

 

「遠慮せんと。食べてぇな」

「では、いただきます」

「ええ、いただきます」

「……いただきます」

 

 クミホが促すのに従い、俺、パース、リカルドが食への感謝を合掌して表した。

 そうしてから、箸を手に持ち、各々好きな物から手を付けていく。

 俺やパースは割と遠慮なく、と言っても礼儀を弁えながら食しているのに対し、リカルドは最初、実に慎重だった。

 だが、それもマグロの刺身を口にしたところで一変する。

 傍から見ても、リカルドは目を見開いていたし、口角が上がっていた。

 そこからは、何も警戒せずに食事を進めている。

 リカルドはナンタン家長男のはずだが、冒険者業で長らくマグロを味わっていなかったのかもしれない。

 3級だったとはいえ、その収入ではマグロに手は届かないだろう。

 

「これも、どうやろか」

 

 俺たちが食事をしているのを他所に、クミホは一升瓶を持って来ていた。

 ただ、透けて見える内容物の色合いから、葡萄酒や林檎酒ではない。

 

「それは?」

「『清酒』や」

「ほう!『清酒』ですと!」

 

 疑問を口にしたのは俺だったが、クミホの答えに強い関心を示したのはパースだった。

 その関心に応じて、クミホはパースのタンブラーグラスにその酒を注ぐ。

 

「こ、これが我がラビリンシア建国王アルトが求めた、かの清酒ですか……!」

 

 パースはグラスを掲げ、清酒を詳細に観察していた。

 そう。清酒とは、建国王アルトが酒造を支援し、ついぞ製造に至れなかったお酒である。

 パースは建国王アルトにかなり思い入れがあるようで、その建国王が求めていた清酒が気になっていたようだ。

 俺も遠目から観察させてもらっているが、まるで水のように無色透明で、本当にお酒なのかと疑ってしまう。

 

「おかわりはあるんや。そない勿体がらずに飲みはったらええよ?」

「それはそれは。ならば、舌で以って観察させてもらいましょうかねぇ」

 

 パースは期待に胸を膨らませながら、その無色透明な液体を口に入れた。

 おかわりがあるとクミホに明言されながらも、パースはその液体を舌で転がし、その味を噛みしめる。

 

「なるほど、これはアルト王の求めた味でしたか」

 

 パースはそのような深い感慨と、1粒の涙を漏らした。

 その涙はあまりにも唐突で、俺もリカルドも面食らう。

 

「どないしたん?」

「いえ、これは失礼。かの王はこれを飲めずに逝ってしまったのかと思うと、胸がいっぱいになってしまいまして……」

 

 さすがのクミホも怪しめば、パースの中にあったのは美味への感動と偉人への思いがあったらしい。

 しかしそれも一瞬の事。パースはそれらを胸に秘め、自身で涙を掬う。

 

「大変美味でした。良ければもう1杯」

「気に入ってくれたようやな。1杯と言わず、好きなだけ。なんやったら、お土産に包みましょか?」

「適正価格で、引き取らせていただきます。できる事なら、輸入の方も検討したく」

「ええよ。ジパングの特産品として、清酒は売り出したかったんや」

 

 パースは清酒の購入に踏み切った上に、今後も降ろしてもらえるように打診。

 クミホの快く受け入れられたところで、パースは清酒を(あお)る。

 いつもどこか掴みどころのなく、計り知れないパース。

 今この時に限り、彼は吉報を素直に喜ぶ、純粋な男だったのだ。

 

(テノール。清酒、樽な)

(……了解)

 

 他人が酒を美味そうに飲んでいて羨ましかったのだろう。

 エクスカリバーは率直に貢ぎ物の催促をしてきた。

 元より買う約束であるため、俺は抗ったりはしない。

 

「テノールはんはどないなん?」

 

 エクスカリバーとやり取りしている内に、クミホはリカルドにも清酒を注いで、俺の前へと回ってきた。

 瓶を傾けようとしているのだから、用事が酒注ぎなのは明白である。

 

「俺は控えさせてもらいます。人前で飲むのはちょっと……」

「ほう……。そうなん……」

 

 俺自体は酒が苦手なので酒注ぎを断れば、クミホはとても妖しい笑みを浮かべた。

 それからクミホは俺の横に移って、耳打ちする。

 

「……ほなら、2人きりで飲まん?テノールはんが泊まるお部屋、後でお酒持って向かうさかい」

 

 クミホはどうしても俺に清酒を飲ませる気だった。

 人前では飲まない俺に、人前ではない場所での飲酒を提案してきたのである。

 これは、やられた。

 断った文句が人前で飲みたくないという事であった以上、この提案も断るというのは難しい。

 

「ありがとうございます。その時には、いただきます」

 

 俺は不審さを出さないようにするのが精々だった。

 こうして、クミホだけとお酒を飲む事が予約されるのだった。

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