100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十四節 酒は飲んでも、狐に呑まれるな

「お邪魔するでぇ」

 

 食事も入浴も終え、夜が更けてきた頃。

 城郭の一室にして畳が床一面に敷かれた部屋、俺が宿泊する場所として借り受けているその部屋に、クミホは押しかけてきた。

 酒瓶を抱えている事から、用事は2人きりの飲み会であると分かる。

 元より約束していた事でもあるし、俺はすでにクミホを迎え入れる準備をしていた。

 その準備とは、主導権の切り替えである。

 

(酒はオレが飲ませてもらうって事で、良いんだよな)

(ああ。その代わり、しっかり勇者として振る舞えよ?)

 

 そう。俺は苦手な飲酒をエクスカリバーに任せたのだ。

 本当だったら飲ませたくないところだが、今さらこの飲み会を断るのも不自然である。

 そのための、苦肉の策だ。

 お酒が苦手であると断りたかったが、そうすると、俺は嘘を吐いた事になる。

 何故なら、俺はお酒を好む人間とされているからだ。

 エクスカリバーに酒の献上を強要され、そのための酒を買う現場はラビリンシアでかなり目撃されている故である。

 パースも目撃者の1人なので、パースに虚偽の確認をされれば嘘という事になる。

 俺個人では嘘ではないのだが、勇者テノールとしては嘘になるという、奇妙な状況なのだ。

 よって、勇者テノール像と整合性を取るべく、俺が酒好きとされる原因になったエクスカリバーに任せている。

 

 ちなみに今さらだが、体の主導権は俺の体から聖剣が離れていても、俺がエクスカリバーから権利を奪わない限り、エクスカリバーの権利となったままだ。

 

(分ぁってるよ。せっかく美味そうな酒が飲める機会なんだ。不意にして堪るか)

 

 エクスカリバーも酒が飲めるという事で、乗っ取り中の演技を快諾していた。

 酒が理由というのがなんともエクスカリバーらしい。

 俺のためとか言い出したら、十中八九熱があるし。

 

「足を運ばせてしまって、申し訳ありません。本来はオレが足を運ぶのが筋でしたでしょうが……」

 

 エクスカリバーはさっそく勇者として振る舞っていた。

 無駄に高い演技力だ。普段の様子からはとても考えられない。

 

「ええんよ、そんな事気にせんと。ウチんとこで飲むと、ミギチカの監視も付いてまうし。お酒は気兼ねなく飲むのが一番や」

「ご尤もで。……でも監視という事ならこちらにも付いてくるのでは?」

()いてきたから、大丈夫や」

 

 気兼ねなく飲みたいというだけで、クミホは護衛をどこかへ置き去りにしてきたようだ。

 そんな理由で国の(おさ)が己の安全を脅かすんじゃない。

 ジパングの最重要人物である自覚が、クミホにはないのだろうか。

 

「そ、そうでしたか……。でもまぁ、有り難いです。あまり人の目が多い所では飲みたくないので」

 

 エクスカリバーは少し苦笑をしながらも、クミホの無防備を看過した。

 演技が暴かれるのは避けたいから、今回ばかりは俺もクミホの行動を看過する。

 

「ほなら。2人だけの飲み会に、乾杯」

「乾杯」

 

 クミホはエクスカリバーに清酒を注いだタンブラーグラスを渡し、自身のグラスを掲げた。

 エクスカリバーはクミホの意に沿うよう、渡されたグラスでクミホのグラスを打ち鳴らす。

 そうしてから、お互い清酒で喉を潤した。

 エクスカリバーはまず味を確かめるように、少量を口に含んでから喉に通している。

 

「なるほど。葡萄酒や林檎酒と違った甘みがありますね。それも、とても爽やかな甘さだ。今まで飲んだ事がない味わいですが、とても美味しいです」

「口にあったようで何よりやわぁ」

 

 エクスカリバーの偽りない感想に、クミホも顔を綻ばせた。

 特産品が褒められたとなれば、国の長としても嬉しいのだろう。

 

「意外と嗜んどるようやけど、結構飲むん?」

「普段は控えています。酒に酔う姿なんて見られたら恥ずかしいですからね」

「へぇ。ウチにはええの?酔う姿見せても」

「友好の証という事で」

 

 エクスカリバーはこの特例である晩酌に、見事な理由をでっち上げた。

 勇者として他国の長と親交を育むのは、なんらおかしい事ではない。

 

「そうかそうか。テノールはんにそれ程心を許してもらえたんやな?一大決心で裸の付き合いをして良かったわぁ」

「……」

(……あ)

 

 クミホのその一言と、エクスカリバーの沈黙。

 それらで俺は思わず声を漏らしたと言うか、俺の失態を強く自覚した。

 俺は、クミホとの混浴をエクスカリバーと情報共有していないのである。

 

(テノール?『裸の付き合い』ってのは、どういう事だ?)

(……後で詳しく説明するが、端的に言ってクミホと混浴した)

 

 言い逃れはできないだろうと、とりあえず概要だけを俺は明かした。

 この場で説明している時間はない。

 

(じゃあ自身でこの話題はどうにかしろ)

 

 さすがに情報皆無で対応はできないと、エクスカリバーから体の主導権を返された。

 返された事で、慣れない酒の味が突然口に広がる。

 

「……どないしたん?そない珍妙な顔して」

 

 その違和感が顔に出てしまったようで、クミホが首を傾げた。

 (まず)い、取り繕わねば。

 

「い、いえ……。あ、あの時の記憶を思い出してしまいまして……」

「ああ。そやったね。テノールはん、案外初心(うぶ)やったね。今度はちゃんと動揺できて偉いなぁ」

「はは……。お褒めいただき、光栄です」

 

 クミホは俺の返しを疑わず、揶揄うように当時の無反応を言及した。

 演技と露呈せず、どうにか窮地を乗り越えたようである。

 

「うふふ。ええ子ええ子。ご褒美に、もう1杯。って、なんや。グラス空いてないやん」

「これは失礼。今空けます」

 

 この褒美を受け取らないのは不自然だろうと、俺はグラスに口を付けつつ、空いた手で背後の聖剣へ密かに触れる。

 

(エクスカリバー、交代!)

(あいよ)

 

 一応『裸の付き合い』の件は済んだモノとして、またエクスカリバーに主導権を渡した。

 酒を美味しそうに飲む自信は俺にはないのだ。

 なので、その役はエクスカリバーに押し付けた。

 エクスカリバーは待ってましたとばかりに、清酒を飲み干す。

 

「では、褒美を頂戴しましょう」

「はい、どうぞ。良い飲みっぷりやね」

 

 酒は注がれ、まだ酒瓶は空かない。

 2人きりの飲み会はまだ続く。

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