100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「無理に付き合わせてるかもと少し不安やったけど、大丈夫そうやね」
「大勢人が集まる酒宴に呼ばれたならまだしも、2人だけですからね。オレは元々お酒が好きですから」
クミホは気分を害していないかと、こちらを窺っていたようだ。
対し、エクスカリバーは酒が飲めてご機嫌だ。おそらく心から笑みを零している。
「そうなん?せやったら、恥ずかしがんで、普段から飲めばええやん」
「勇者としての体裁もあります。酒に溺れる勇者など、皆に示しが付かないでしょう」
エクスカリバーは酒好きだが、勇者を取り繕うために、飲酒を控えている。
1回、勇者の飲酒について、俺とエクスカリバーは議論したのだ。
別に勇者でも普段から酒を飲んでも良いだろう、というのがエクスカリバーの意見だったが、俺はそれに異を唱えた。
だからって飲みまくって二日酔いになるのは勇者らしくないだろう、と。
生前のエクスカリバーは酒に強かったようだが、俺は違う。
そのせいで、エクスカリバーが俺の体における許容限界を誤り、それを越えた量を飲む可能性があった。
酒がそもそも苦手なのに、そうなって二日酔いを押し付けられたら堪らない。
なので、激論の末、普段の飲酒を控え、1人で飲む時も飲む量を厳格に決めている。
さらには、もしもの場合を考え、俺が主導権を奪取できるように聖剣の不携帯を取り決めているのだ。
「なんや、勇者も堅苦しいもんやなぁ。そない面倒な役職捨てて、ウチに来ぉへん?」
あの混浴した日の続きか、クミホは俺を勧誘してきた。
やはり、クミホは諦めていなかったのか。
(主導権、返してもらうぞ。これはちゃんと話したい)
(たく、仕方ねぇな)
クミホの勧誘について、俺は俺の意思でクミホと話したかった。
だから、念のためエクスカリバーの許可を求めてから、体の主導権を俺へと戻す。
美味しい酒を飲めているおかげか、エクスカリバーの抵抗もない。
「以前も言いましたが、お断りさせていただきます」
「ま、そう言うやろな」
混浴した日と同じく、俺が拒絶しても、クミホは応える事なく全く気にしていなかった。
拒絶されると分かっていながら、クミホはまだ俺を欲しているのだ。
「クミホさん、少しお聞きしたい事があります」
「今のウチはお酒が入ってるさかい、口も軽ぅなっとる。なんでも聞いてくれて、構へんよ?」
「では、お言葉に甘えて。……何故、そこまで俺を欲しがるんですか?」
言葉通り、クミホはお酒を飲んで上機嫌になっているらしく、微笑みを携えていた。
口が軽くなっているという言葉もその通りである事を信じ、俺は改めてその本心を問う。
そうすると、クミホは目を瞬かせた。
俺の問い、その意図が読めていないのだろう。
「何故って、この前言ったやろ?」
「戦力面、国の箔、個人的な興味。その3つでしたね。でも、俺は個人的な興味が一番の理由ではないかと、睨んでいるんです」
「……ほう?」
俺が問いの意図を語り始めれば、クミホの微笑みに妖しさが混じった。
その瞳の奥に、俺を測るような鋭さが宿る。
「そう思った根拠は、戦力面と国の箔が理由として薄いと感じたからです」
俺は測られるままに、怯えず語りを続ける。
クミホの思考が読める訳もないので、何を測られているか、考慮するだけ無駄なのだ。
ならば、俺は俺の疑問を解消しておきたい。
「戦力面について。イブキというあのドラゴンとの衝突時、わずかながらクミホさんの実力を拝見させてもらい、思いました。もう充分すぎる戦力がないかと」
クミホの『ウタカタノユメ』という魔術。
詠唱破棄で巨大な門を生み出す、だけではないと、俺は推測している。
それだけだったとしても、クミホの魔術、その才はかなりのモノだ。
最低限見積もっても、王立近衛兵3番隊隊長であるトリス以上だろう。
そんな強者が居て、あのイブキというドラゴンも居る。
イブキというドラゴンの力、魔力吸収能力は尋常ではない。
人類も魔物も、魔力がなければその実力は激減するのだ。
如何なる敵も、あのドラゴンが居ればかなり弱体化できる。
素晴らしい魔術の才を持つクミホと、魔力ありきの戦闘を瓦解させるイブキ。
これだけで、他国に渡り合えるだけの戦力である。勇者テノールなど、必要ない程に。
「次に、国の箔について。確かに勇者が居るだけ国の利益となるでしょうが、他国から引き抜いてくるのは大問題です。国に箔をつけた分、傷つけてしまう」
何度か言った気がするが、勇者の引き抜きは国際問題だ。
その行為は、戦力を盗み、削ぐ事を意味する。
勇者は国家に服従する兵士ではないのだが、国のために戦う勇士ではあるのだ。
そんな存在を引き抜くのだから、当然、悪評は受ける事となる。
その悪評は、勇者を引き抜いて得た分の利益を打ち消してしまうだろう。
よって、国の箔を理由に勇者を引き抜くのは、悪手なのである。
「俺でも考え付いた事、クミホさんが考え付いてないはずはないですよね?」
前述した2つを、国を治める者が考え付かないなどあり得ない。
そうでなかったら、まさしく愚王だ。
国を1000年以上治めるクミホが、まさか愚王という事はないだろう。
「故に、戦力面と国の箔は、3番目の理由が本命である事を誤魔化すための欺瞞。そうでしょう?」
「……」
俺が問い詰めると、クミホは俯いていた。
表情を覗き見る事はできない。
ただ、その綺麗な弧を描く口を覗いては。
「……ほんま、君はええなぁ。今すぐにでも、食べてしまいたくなりそうや」
少しの後に上げられたクミホの顔はとても妖艶で、本能的な恐怖を煽るモノだった。