100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十八節 謎だらけ

「うーん……。なんやろなぁ……」

「如何なさいましたか、クミホ様」

 

 キョーの城郭、その廊下にて、クミホとミギチカがクミホの私室へ向かって歩いていた。

 時刻としては、丁度テノールとの飲み会を終えた後だ。

 クミホがこのまま折り返してテノールを夜這いに行かぬよう、ミギチカはせめてクミホが私室に帰るまでの間を監視している。

 そんな最中、クミホがこれ見よがしに頭を捻っていた。

 ここまであからさまに悩んでいる姿は珍しいので、ミギチカはつい詮索してしまったのだ。

 

「ミギチカ。もし不意に鎖で捕縛されたら、どないする?」

「千切ります」

「せやろなぁ」

 

 当たり前な話だが、肉体強化を使えばヒューマンだって鎖を千切れる。

 だから、肉体強化が使える者にとって、鎖など拘束にはなり得ない。

 

「どうして逃げへんかったんやろなぁ、テノールはん……」

 

 クミホが頭を捻っていたのはその事だ。

 肉体強化が使えるはずのテノールが、鎖を千切らなかった。

 クミホはその事がずっと引っ掛かっている。

 

「本人の弁によれば、躊躇があったようですが」

 

 ミギチカは、どこに頭を捻る要素があるのか分からなかった。

 鎖を千切って逃走しなかった理由は、テノール本人が語っている。

 虚偽の理由なのだが、それはテノールとエクスカリバーが知るのみだ。

 

「ほんなら、どうしてわざわざウチに魔術を解かせたん?もう躊躇がないんやったら、千切って良かったやん」

 

 結局解放されるまでテノールが逃げなかった事。

 クミホはその事に違和感を抱いていた。

 千切る千切らないで何も変わらないあの状況に至ったのだ。クミホの意思による解放を望まなくても良かっただろう。

 では、何故そうしなかったのか。

 

「完全に脱力しとったし、身を預けてくれた思たんやけどなぁ」

 

 クミホ視点では、テノールの諦念した様子が同意をしたものと映っていた。

 逃げようとすれば逃げられる状態で諦めたのだから、そう映っても仕方はない。

 しかし、ミギチカが来た途端に、テノールの意思は同意から否定へと翻っている。

 違和感を抱くなと言う方が無理かもしれない。

 それ故に、テノールの意思ではどうにもならない何かが、クミホにはあるような気がしてならない。

 

「解いた瞬間に聖剣を手に取っとったなぁ……。あれが手掛かりっちゅう事か……?そういえば、酒飲んどる途中も1回聖剣に触っとったなぁ……」

 

 その違和感の正体を暴こうと、クミホはテノールの一挙手一投足を思い出す。

 クミホは、テノールが拘束を解かれた瞬間の行動も見逃していなかった。

 また、最初から興味の対象だったため、途中の所作すら見逃していない。

 最初から最後まで、クミホはテノールを注視していたのだ。

 そのおかげで、テノールの不自然な行動を見抜いている。

 

「聖剣やから、どうせあれもアチューゾが作ったもんなんやろし、宿ってる魂と相談しとったとか?相談くらいやったら触れんでもできるか。とすると、聖剣の能力を使ったんやろなぁ」

 

 自身が持ち得る知識を総動員して、クミホはテノールの真実、その輪郭を浮かせていく。

 

「聖剣の能力がなんなのかってところやな。聖剣カリバーンならまだしも、聖剣エクスカリバーの能力なんて知らんし、特異な力も聞かんしなぁ」

 

 しかし、クミホではそこまでの推測が限度だった。

 聖剣が勇者アルトの物でないと察しているからこそ、その能力を割り出せない。

 

「うーん……。まだ情報が足らへんなぁ」

 

 推測の限度を自覚し、クミホは思考を切り上げた。

 残念ながら、クミホは芸術家であって、探偵ではないのだ。

 国を長く治めている経験により、既知の情報から推測はできても、数段飛ばしの推理は構築できない。

 

「それより、や。ミギチカ、なんでウチに反抗したん?」

「……え?」

 

 クミホの思考に付いて行けなかったミギチカは、呆然としてしまった。

 唐突に話題を変えられ、その話題が身に覚えのない事なら、そうもなるだろう。

 

「ウチが無理にでもテノールはんの子種を搾り取ろうとしたら、ミギチカは制しにかかったやん?今の今まで、ウチの行動を制そうとした事なんてないやろ」

「あ!ぶ、無礼を働いた事、申し訳ありませんでした!」

 

 ミギチカはクミホに指摘され、やっと己が主へ逆らっていた事に気付いた。

 それは自身の存在意義を否定するような、許されざる行為である。少なくとも、ミギチカの中では。

 

「なんでああしたか、素直に答えたらお咎めなしや」

 

 クミホは笑顔でミギチカの意思を調べる。

 クミホにとってミギチカのあの行為は、成長の兆しに見えたのだ。

 従順すぎる程に尽くしてきた側近が、親の意見を肯定するだけだった子供が、ここに来て己の意見を持ち始めた。

 それは、ミギチカが自立し始めている事に他ならない。

 そして、子供の成長や自立を喜ばぬ親は居ない。

 

「そ、それは……。今後の外交において、クミホ様の行為は問題になると、判断していました」

「それだけ?」

「も、申し訳ありません……。それ以外に、言語化できない感情があるのは、確かです……」

「そうかそか。なら、それが言語化できたら話してな。今回はそれでええ」

「……はい」

 

 まだ自立し始めたばかり。

 そんなミギチカをクミホは暖かく見守り、頭を撫でるのだった。

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