100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第二十九節 竜穴を突く

 俺の貞操が危険に晒された時から一夜が過ぎた。

 寝床と同じく朝食も提供され、引き続き持て成されている。

 そんな中、ラビリンシアからの使者たる俺たちはそれぞれの目的に沿って動き出した。

 パースはジパングという国の実態調査。ラビリンシアが交流するに足る文明力を持っているのか、ジパング側からいくつか資料を提供されつつ調べている。

 リカルドは戦闘訓練。英雄という称号に恥じない実力を身に着けるべく、サコンやジパングの兵士と手合わせしている。

 俺は好感度稼ぎ、もとい行脚。ラビリンシアの勇者を認知してもらうため、キョーの各所を徒歩で巡る。

 俺のその目的、もちろん行脚の方を伝えれば、クミホが案内役としてミギチカを付けてくれた。

 

「こちらになります」

「ここが……」

 

 そうしてミギチカに案内されて辿り着いたのは、俺が最初の目的地に設定した場所。

 あのイブキと呼ばれていたドラゴンの住処、伊吹神社である。

 俺はまた絵画でしか見た事のない神社を目の前にし、その造りに感心した。

 鳥居という建造物。これがあるだけで此方と彼方に境があるような錯覚を起こし、その先の空間に神聖さを帯びさせる。

 同じく神への祈りを捧げる場所という役目を果たす神殿や教会とは、全く違う。

 神殿や教会は無駄に凝った造りをする物が多いが、神社は簡素であり機能的だ。華美な装飾がない。

 その装飾の多寡(たか)は、前者が『始まりの六柱』という世界全体で信仰される神の物であるのに対し、後者が1か国でしか信仰されてないドラゴンの物であるせいかもしれないが。

 そもそも、あのドラゴンが本当に信仰されているかは、怪しいところである。

 

「あら?ミギチカ様?」

 

 俺がそんな神社へ様々な考察をしていれば、誰かがミギチカの来訪に気付いた。

 その者は女袴に似た服を着る、クミホと同じく狐の耳と尾を生やした女性である。

 ただ、クミホの尾は9本だが、その女性の尾は1本だ。

 その差が何を意味しているのか、俺には分からない。

 服装の方は、多少見覚えがある。あれも絵画で見た物である。

 確か、緋袴(ひばかま)とか言う服だったはずだ。

 

「ミギチカ様、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「来賓の案内です。テノール様がここにご用事があるという事で、私が案内してきました」

 

 緋袴の女性はミギチカへ敬意を持った礼儀正しい対応していた。

 ミギチカも礼儀正しいが、この女性へ尊重はあっても敬意はないように感じられる。

 その敬意の有無が、位の上下を表していた。

 当然と言えば当然だが、この女性よりクミホの側近であるミギチカの方が偉いらしい。

 

「そうでしたか。とすると、そちらの方が勇者様ですね?お初にお目にかかります。私はイナリ。伊吹神社の保持とイブキ様の世話係を務めている者です」

「これはどうも。ご存知でしょうが、改めて。ラビリンシアより勇者の称号をいただいているテノールと言います」

 

 緋袴の女性、イナリはお辞儀を交えた挨拶をした。

 実に清楚な彼女へ、俺もお辞儀を返しておく。

 

「ご用事があるという事ですが、窺ってもよろしいでしょうか」

「もちろん。ここに居らっしゃると言うイブキへ、非礼を詫びに来たのです」

「イブキ様へ?あ、あの……。イブキ様は何か粗相を働いたのでしょうか……?」

 

 『非礼を詫びに来た』と俺は言ったはずなのに、イナリはイブキに罪があると捉えて青ざめていた。

 イナリがそう捉えるという事は、普段のイブキが透けてくる。

 普段から我がまま盛りなのだろうな、と。

 

「まぁ、なんでしょうね……。罪の所在とは特定が難しいもので……。とりあえず、和解をしに来たのです」

 

 実際あっちから攻めてきたのだから、あっちが悪いとするのが普通だ。

 しかし、正当防衛としては少しやりすぎたのではないか。

 そういう罪悪感が俺にはあるため、あえてどちらが悪いかについては、回答を控えさせてもらう。

 

「和解、ですか……。そう望んでいただけるのは、私としても嬉しいのですが……。なにぶん、イブキ様は気難しい方ですので……」

 

 イナリはとても歯切れが悪く、何かを心配しているようだった。

 俺はイナリの心配事を察する。

 あの我がままなドラゴンと和解なんてできるのか、という事だろう。

 

「反って怒りを煽ってしまう可能性は充分にあるでしょう。ですが、それでもお話をさせていただきたいのです」

 

 俺も、正直やってみない事にはなんとも言えない。

 イブキは我がままで独善的な者だったが、決して話の通じない者でもない。

 話が通じなかったら、イブキとの戦いはあんな幕切れにならなかっただろう。

 少なくとも人前であんな声を上げたくないという羞恥心はあり、人の話を聞き入れるだけの知性はある。

 ならば、和解できずとも、その怒りを多少抑える事はできるかもしれない。

 

「そう、ですか……。承知いたしました。どうぞ、こちらへ」

 

 心配は拭えていないようだが、それでもイナリを動かすには足りたようだ。

 決心したような顔つきで、イナリは俺を神社の奥、本殿へと導く。

 

「イナリ様、お客人をお越しです」

「……客人?余の午睡を妨げたのは誰だ」

 

 まだ昼に達していないのに昼寝を決め込もうとしていたイブキが、イナリの声にて扉を開ける。

 昼寝を邪魔されたのだから、扉を開ける瞬間のイブキは眠たげながら不機嫌そうだった。

 だが、扉の先に居る俺を視認して、様子が一変する。

 

「げ、下衆野郎!?」

 

 俺はイブキに脅えられた上、何故か罵倒もされるのだった。

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