100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「イブキさん。ここでのんびり構えてて良いのか?」
突然雨が降りだし、風も強まってきて1時間。
雨が人為的なモノであると最初に気付いたイブキは、誰かが仕掛けてきたものと察しても、神社から動いていなかった。
おまけに、俺を神社に引き留めている。
「余の力が必要ならクミホが呼びに来る。余が動くか動くべきか、それはクミホが判断する事なのだ」
イブキは顰め面をしながら、クミホの指示を待っていた。
どうやら、イブキは介入の是非をクミホの預けているようだ。
自由にさせれば俺たちに襲い掛かってきたよう、いらぬ騒ぎを起こすイブキ。
そんな彼女にクミホが首輪を付けているのは、国の長として当然とも言えよう。
イブキがその首輪を渋々とではあるが受け入れている事について、かなり意外ではあるが。
ある意味で、それがイブキとクミホの信頼関係なのかもしれない。
「だとしても、俺を引き留めておく理由はないんじゃないか?」
イブキとクミホの信頼関係は読み取れたが、俺の行動制限は全く別である。
何故、関係ない俺をイブキは引き留めているのか。
「勘だが、今回は呼びに来ると余は踏んでいる。ならば、お前もここに居た方が好都合だろう。入れ違いにでもなれば時間の無駄だ」
「……なるほど」
俺は少なからず感心した。
あの我がままドラゴンの論とは思えない程、理に適っている。
確かに、クミホが俺に救援を求めるにしろ、求めないにしろ、その旨を伝えるはずだ。
その行動がイブキを呼ぶついでにできるならば、イブキの言う通り好都合である。時間が無駄にならない。
そういう頭は回るんだなと、俺はイブキに対する認識を改めた。
そんな無駄にイブキへの理解を深めている時、神社の扉が叩かれる。
「イブキー!居るやろー!」
「……噂をすれば、だな」
クミホの声が響いたのに合わせ、イブキは得意げな笑みを浮かべた。
イブキの勘が当たった、という事だ。
「イブキ、大事な用があんねん。……て、テノールはんも居たんか。これは都合がええわ」
扉を開けて入ってきたクミホが、俺の同室を確認して微笑んでいた。
イブキも、己の勘が鋭かった事を誇るように微笑んでいる。
今回ばかりは、イブキの勘に感嘆しよう。
多少歪ながらも、伊達に信頼関係を築いてはいない。
「突然発生したこの暴風雨、人為的なモノのようですが。何かありましたか」
「ああ、あれが人為的なモンっちゅうのも分かっとるんか。話が早くて助かるわぁ」
「余が教えたからな!」
「そういう事やったんね。偉い偉い」
クミホは胸を張るイブキの望むように頭を撫でた。
そういうご機嫌伺いを片手間でしてから、クミホは話を続ける。
「端的に結論から言うけど、魔王軍の襲撃や。空も海も大荒れ。逃走するのも助けを呼ぶのも封じたところで、お相手さんが陸に上がっとる。思うにもう、上陸されてしもうた北西部の港町では、戦いが始まっとるやろうな」
事態は予想以上に早く、予想以上に深刻化しそうだった。
話しているクミホも非常に真剣で、危うい事態に陥りかけている事を把握しているようだ。
「すぐに北西へ。俺も加勢します」
「加勢の意思は有り難くいただかせてもらうわ。でも焦ったらあかん。まずは落ち着きぃや」
「……」
あくまで俺は勇者を取り繕うための演技だったので、歯噛みするような所作を挿んでから、クミホの指示に従う。
「まず、イブキ。精鋭を北西に飛ばしてほしいんやけど、やってくれる?」
「ああ!今の余はご機嫌だ!特別に対価なしでやってやろう!」
疑いようのないご機嫌さを披露しているイブキは、クミホの要望を二つ返事で了承した。
運んで、ではなく『飛ばして』、という不思議な要望だったが、イブキとクミホの両者でそれへの言及がない。
俺にとって不明な表現だが、彼女らの間では通じているらしい。
「悪いんやけどもう1つ。テノールはんとリカルドはんを北西部の港町まで運んでほしいねん」
「……なんだと?」
2つ目の要望には、ご機嫌なイブキも二つ返事とはいかなかった。
今度は『運んで』なので、『飛ばして』とは違うのだろう。
いや、違うのは世間一般的にも当然だ。
しかし、結局彼女たちの中で『運んで』と『飛ばして』がどういう行動を表しているのか、俺には不透明すぎる。
「余が何故にこの下衆野郎と、後もう1人知らん奴を運ばねばならん!」
『この下衆野郎』と、イブキはこれ見よがしに俺を指差していた。
下衆野郎とは酷い言われ様だ。
(自覚しろよ、な?)
なんの自覚をすれば良いのか、俺には全く分からないので無視を決め込む。
「イブキ、国の危機なんや。対価は払うさかい」
「ぐぬぬ……。ならば、対価は運んだ後の戦闘許可だ!余にもクミホの国のために戦わせろ!」
「……しゃあないな。対価は戦闘許可。言葉を違えるんやないで」
「余を見くびるな!これでもジパングの守り神だ!」
イブキは己の我がままを押し通し、対価を勝ち取った。
クミホからはイブキが許可された権限を越え、戦うどころか暴れないか心配されているようだ。
その心配に対し、イブキは不満を漏らしながらも自信に満ちた応答をしている。
「……今は信じる他ないやろな。……良し!2人ともこっちや!戦の準備はもう済んどる!」
「了解です!」
「うむ!」
クミホの導きに、俺とイブキは付いて行く。
戦地へと赴く心構えは皆、できているのだった。