100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

211 / 221
第三十二節 出陣準備

「イブキさん。ここでのんびり構えてて良いのか?」

 

 突然雨が降りだし、風も強まってきて1時間。

 雨が人為的なモノであると最初に気付いたイブキは、誰かが仕掛けてきたものと察しても、神社から動いていなかった。

 おまけに、俺を神社に引き留めている。

 

「余の力が必要ならクミホが呼びに来る。余が動くか動くべきか、それはクミホが判断する事なのだ」

 

 イブキは顰め面をしながら、クミホの指示を待っていた。

 どうやら、イブキは介入の是非をクミホの預けているようだ。

 自由にさせれば俺たちに襲い掛かってきたよう、いらぬ騒ぎを起こすイブキ。

 そんな彼女にクミホが首輪を付けているのは、国の長として当然とも言えよう。

 イブキがその首輪を渋々とではあるが受け入れている事について、かなり意外ではあるが。

 ある意味で、それがイブキとクミホの信頼関係なのかもしれない。

 

「だとしても、俺を引き留めておく理由はないんじゃないか?」

 

 イブキとクミホの信頼関係は読み取れたが、俺の行動制限は全く別である。

 何故、関係ない俺をイブキは引き留めているのか。

 

「勘だが、今回は呼びに来ると余は踏んでいる。ならば、お前もここに居た方が好都合だろう。入れ違いにでもなれば時間の無駄だ」

「……なるほど」

 

 俺は少なからず感心した。

 あの我がままドラゴンの論とは思えない程、理に適っている。

 確かに、クミホが俺に救援を求めるにしろ、求めないにしろ、その旨を伝えるはずだ。

 その行動がイブキを呼ぶついでにできるならば、イブキの言う通り好都合である。時間が無駄にならない。

 そういう頭は回るんだなと、俺はイブキに対する認識を改めた。

 そんな無駄にイブキへの理解を深めている時、神社の扉が叩かれる。

 

「イブキー!居るやろー!」

「……噂をすれば、だな」

 

 クミホの声が響いたのに合わせ、イブキは得意げな笑みを浮かべた。

 イブキの勘が当たった、という事だ。

 

「イブキ、大事な用があんねん。……て、テノールはんも居たんか。これは都合がええわ」

 

 扉を開けて入ってきたクミホが、俺の同室を確認して微笑んでいた。

 イブキも、己の勘が鋭かった事を誇るように微笑んでいる。

 今回ばかりは、イブキの勘に感嘆しよう。

 多少歪ながらも、伊達に信頼関係を築いてはいない。

 

「突然発生したこの暴風雨、人為的なモノのようですが。何かありましたか」

「ああ、あれが人為的なモンっちゅうのも分かっとるんか。話が早くて助かるわぁ」

「余が教えたからな!」

「そういう事やったんね。偉い偉い」

 

 クミホは胸を張るイブキの望むように頭を撫でた。

 そういうご機嫌伺いを片手間でしてから、クミホは話を続ける。

 

「端的に結論から言うけど、魔王軍の襲撃や。空も海も大荒れ。逃走するのも助けを呼ぶのも封じたところで、お相手さんが陸に上がっとる。思うにもう、上陸されてしもうた北西部の港町では、戦いが始まっとるやろうな」

 

 事態は予想以上に早く、予想以上に深刻化しそうだった。

 話しているクミホも非常に真剣で、危うい事態に陥りかけている事を把握しているようだ。

 

「すぐに北西へ。俺も加勢します」

「加勢の意思は有り難くいただかせてもらうわ。でも焦ったらあかん。まずは落ち着きぃや」

「……」

 

 あくまで俺は勇者を取り繕うための演技だったので、歯噛みするような所作を挿んでから、クミホの指示に従う。

 

「まず、イブキ。精鋭を北西に飛ばしてほしいんやけど、やってくれる?」

「ああ!今の余はご機嫌だ!特別に対価なしでやってやろう!」

 

 疑いようのないご機嫌さを披露しているイブキは、クミホの要望を二つ返事で了承した。

 運んで、ではなく『飛ばして』、という不思議な要望だったが、イブキとクミホの両者でそれへの言及がない。

 俺にとって不明な表現だが、彼女らの間では通じているらしい。

 

「悪いんやけどもう1つ。テノールはんとリカルドはんを北西部の港町まで運んでほしいねん」

「……なんだと?」

 

 2つ目の要望には、ご機嫌なイブキも二つ返事とはいかなかった。

 今度は『運んで』なので、『飛ばして』とは違うのだろう。

 いや、違うのは世間一般的にも当然だ。

 しかし、結局彼女たちの中で『運んで』と『飛ばして』がどういう行動を表しているのか、俺には不透明すぎる。

 

「余が何故にこの下衆野郎と、後もう1人知らん奴を運ばねばならん!」

 

 『この下衆野郎』と、イブキはこれ見よがしに俺を指差していた。

 下衆野郎とは酷い言われ様だ。

 

(自覚しろよ、な?)

 

 なんの自覚をすれば良いのか、俺には全く分からないので無視を決め込む。

 

「イブキ、国の危機なんや。対価は払うさかい」

「ぐぬぬ……。ならば、対価は運んだ後の戦闘許可だ!余にもクミホの国のために戦わせろ!」

「……しゃあないな。対価は戦闘許可。言葉を違えるんやないで」

「余を見くびるな!これでもジパングの守り神だ!」

 

 イブキは己の我がままを押し通し、対価を勝ち取った。

 クミホからはイブキが許可された権限を越え、戦うどころか暴れないか心配されているようだ。

 その心配に対し、イブキは不満を漏らしながらも自信に満ちた応答をしている。

 

「……今は信じる他ないやろな。……良し!2人ともこっちや!戦の準備はもう済んどる!」

「了解です!」

「うむ!」

 

 クミホの導きに、俺とイブキは付いて行く。

 戦地へと赴く心構えは皆、できているのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告