100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十三節 色々と飛ぶ

 キョーの城郭、武官が集う広場にて。500人にも及ぶ精鋭が、綺麗な列を成している。

 その前に立つのは、サコンとミギチカ、イブキとクミホ、そして俺とリカルドだ。

 パースは、今回輸送員として加勢するようで、ジパングの輸送部隊と合流し、すでに物資の輸送を始めている。

 

「おめぇさんら、今日が日々の鍛錬を発揮する時だ。いつもの魔物狩りとは訳が違うが、合戦の鍛錬も欠かしてねぇだろ。抜かるんじゃねぇぜ?」

「「はい!」」

 

 サコンがそんな発破をかけ、精鋭たちは乱れぬ応答を響かせた。

 彼らの自信は、己が血統の誇りと、耐え抜いた厳しい鍛錬に裏打ちされている。

 

「北西部の衛兵が防衛に移っとるやろうが、攻めへ転ずるっちゅうなると、精鋭たる君らが手にかかっとる。健闘、祈っとるで」

「「はっ!」」

 

 国の長からは励ましの言葉を貰う彼ら。

 戦う準備は装備も心も万全といった様子である。

 クミホもそう判断したようで、イブキへと目をやり、次の段取りに進ませた。

 イブキはドラゴンの姿に変じ、精鋭たちへと両手を向ける。

 そうすると、サコン含む精鋭たちから光の帯がその両手へと伸び、収束していった。

 そうして徐々に光が強まっていき、その強まりに比例して、精鋭たちの姿が透明化していく。

 

(あの光、魔力か。あのドラゴン、魔物の肉体を魔力の領域まで分解してやがる)

 

 エクスカリバーから聞かされたのは、かなり常軌を逸した事実だった。

 確かに、魔物は自然の魔力によって発生するため、その肉体は魔力で形成されていると考えられている。

 しかし、その形成は不可逆だ。少なくとも、魔物の肉体を魔力にまで分解したなんて話、聞いた事がない。

 ただ、俺は今その話を目にしている。

 イブキの魔力吸収は、ただ吸収するというだけの単純なモノではなかったようだ。

 

(……魔力にまで分解されて、身じろぎ1つしていない。という事は、魔力に分解して吸収、だけでもないんだろうな)

 

 この分解及び吸収は、精鋭たちが承諾した事であり、クミホが許可している事だ。

 そうすると当然、これは殺害行為ではない。

 そして、クミホが許可した行為という事ならば、これはクミホがイブキにお願いしていた、『飛ばして』という行為だ。

 これのどこが『飛ばして』なのか推測するには、最後まで見届ける必要があるだろう。

 

「では……。どぉりゃあ!」

 

 完全に分解され、虹色に輝く光球となった精鋭たちを、イブキは地面へと叩きつけた。

 地面が抉られる事はなく、光球がはじけ飛ぶ事もなく、魔力が消える。

 一瞬、光球が地面に溶けていくようにも見えたが、俺にそれ以上の事は分からない。

 結局、『飛ばして』とはどういう事なのか、判然としない。

 

「あれは、いったい何をしたんですか?」

 

 俺はクミホに、目の前で起きた現象について率直に訊ねた。

 正解を推測する事が得意であると自負しているが、今回ばかりはお手上げだ。

 こうなってしまえば、答えを知る者に訊ねるしかない。

 今回で言えばクミホが、その答えを知る者だ。

 

「……テノールはんはどこまで分かっとる?」

 

 魔王軍が攻めてきている一大事なのに、クミホは即答せず、俺を試した。

 こういうところが、彼女の芸術家たる部分だろう。自身の興味を何においても優先している。

 

「サコンさんたちが魔力に分解され、大地へと溶かされていた。俺が分かるのはそこまでです」

「見えとる分は全部分かっとるやないの」

 

 クミホは感心して笑みを零した。

 『見えとる分は』という言葉から察するに、やはりそれが全てではないようだ。

 

「お答えは?」

「最初から全部言うたると。イブキがサコンらを魔力まで分解して、その魔力を大地に溶かし、地脈に乗せて目的地まで届け、その目的地でその魔力を元のサコンらに再構成しとる」

「……一瞬でサコンさんたちを北西部へ飛ばした。なるほど。『飛ばして』って言うのは、ある意味で文字通りなのか」

「せや。さすがやなぁ、テノールはん。理解が早いわぁ」

 

 俺の解釈で間違いないらしく、クミホは俺に拍手を送った。

 正直喜べない。

 とりあえず目の前に起こった現象として受け入れはしたが、割と意味が分からない現象だ。

 魔物を魔力に分解してそれを再構成する。言葉にすればそれだけだが、実行は当然それだけではない。

 上手い例えが浮かばないが、一番近いのは骨格を組み上げる事か。

 それも、1本1本が別れた生物の骨格を組み上げるような、いや、それよりはるかに困難である。

 イブキはそんな困難な事を、飛ばした先で行っているのだ。

 これが『邪神フィーネ』の手がけたドラゴンかと、色々納得してしまう。

 『邪神フィーネ』の手がけた魔物なら、それくらいできてもおかしくないと。

 衝撃的すぎて頭が麻痺している気がするが。

 

「同時に、俺やリカルドが『運んで』である理由も推測できました。飛ばせるのはあくまで、ファーリーだから、ではありませんか?」

「大正解。少し手掛かり与えたっただけでそこまで分かるんは、さすが勇者様やなぁ」

 

 クミホは俺が正解を導き出せた事に、多少驚いていた。

 俺からしたら、そうとしか考えられない。と言うか、そうであってほしいという願望なのだ。

 イブキがあらゆる生物を魔力まで分解できたなら、この世界の生物は太刀打ちできなくなる。

 ファーリーが分解及び再構成できるのは、あくまでクミホがファーリーをそのように調整したから。

 そうでなかった場合、イブキはあらゆる生物を魔力まで分解し、再構成せずに放置ないし吸収できてしまう。

 生物に対して、絶対的なる殺戮権を得てしまうのだ。

 そんな最悪な権限は持ってなかったが、もし持っていたらと思うと背筋が凍る。

 

「ほな、テノールはんらはイブキの背に。快適な空の旅にご案内や」

「余に乗れるのだ。名誉な事だぞ?こんな時以外だったら、絶対に殺すからな」

「は、はい」

 

 精鋭たちを飛ばした原理を知ったところで、次の段取り、俺たちが運ばれる段である。

 俺はクミホとイブキに促され、イブキの滲み出る不機嫌を身に浴びながら、その背に跨る。

 

「ん?リカルドさん?」

 

 何故だか、リカルドが動いていない。

 

「……あ?ん?あれ?サコンさんたちは?」

 

 俺が声をかけて呆然としていたリカルドが復帰した。

 どうやら、強すぎる精神的衝撃に耐えられなかったようで、リカルドは記憶が飛んでしまったみたいだ。

 飛んだのはサコンさんたちの方なのに。

 

「なんでも良いから乗れ。時間が惜しいのだ」

「ご、ごめん……?」

 

 イブキから急かされ、なんの説明もされないままリカルドも背に跨る。

 でもそれが優しさなのだと信じ、俺も口を閉ざし、イブキの飛行に備えるのだった。

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