100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十四節 負け犬にあらず

「攻撃を絶やすな!援軍が来るまで持ちこたえろ!」

 

 ジパング北西部。港町から奥に進んだ荒野。

 現在は、そこが魔王軍との戦いにおける最前線である。

 北西の港町は、すでに突破されていたのだ。

 だが、人死に皆無とまで行かないが、その数は少数。その少数も衛兵だけである。

 攻め込まれた港町の町長たちは、海に魔王軍の影が覗いた時点で一般人の避難を早急に呼び掛けたのだ。

 同時に、衛兵たちも港に集結し、上陸される前に攻撃を開始。

 目ぼしい戦果は挙げられていないが、一般人が避難する時間は稼いだ。

 侵攻はほぼ海に限定される島国であるがため、港町における避難は迅速に行うための準備が万全だったのだ。

 だから衛兵以外の人的被害はない。人死にを出した衛兵たちだって、少ない犠牲でここまで持っている。

 

 ただ、魔王軍侵攻部隊が全員上陸を終えたこの状況。衛兵たちは劣勢を強いられている。

 今も『ロックウォール』で防壁兼高台を作り、その高台から魔術や弓矢で牽制するのが精いっぱい。

 接近戦に持ち込まれれば、この前線はすぐさま崩壊するだろう。

 それは仕方ない事だ。

 ファーリーは獣の特性を持ち、ヒューマンより種族的に頑丈で頑強な肉体を持ってはいる。

 しかし、その肉体もヘルハウンドやカシャに比べれば当然、ワーウルフやワーキャットに対しても見劣りしてしまう。

 精鋭でもないただの衛兵たちでは、近付かれないように遠距離から攻撃、少しでも近付かれれば前線を下げる。そうせざるを得ないのだ。

 衛兵としての誇りを持つ者ならば、そんな情けない戦場に嫌気が差すだろう。

 でも、この衛兵たちは腐らない。

 

「クミホ帝王陛下によって見出された我々なら、持ちこたえられるはずだ!帝王陛下から救いの手が伸びるその時を信じ、最善を尽くせ!」

 

 彼らの胸にクミホへの忠誠心がある限り、彼らは己のできる事に全力を尽くす。

 それがジパングの衛兵、ひいてはジパングの国民性である。

 

 そして、魔王軍もその衛兵たちを情けないなどと笑う事はない。

 

「いっそ笑っちゃう程合理的。彼我の戦力差が良く測れてるじゃない。戦闘としては詰まらないけど、戦術としては面白いわねぇ」

 

 侵攻部隊の最前列。飛び来る弓矢を大剣の風圧で、迫り来る魔術を体表から放射する魔力で薙ぎ払い、そこに悠然と立つリョー。

 彼女は衛兵たちを正しく評価していた。

 そう。衛兵たちはこの場に全てを賭けるべき戦士ではないし、この戦いは決闘でも試合でもない。

 衛兵たちはその後に希望を繋げるべく戦う兵士であり、この戦いは大局を見なければいけない戦争なのだ。

 最小限の犠牲に留め、されど最大限足止めしようとする衛兵たちの戦術は、この戦いにおいて正しい。

 それが理解できるからこそ、リョーは衛兵たちを笑わない。

 

「だけど、ゆっくりとはいえ、攻め込まれてるのは確か。どこまで持つのかしらねぇ。気力が持ったとしても、体力の限界はあるでしょう?」

 

 攻めあぐねている事実はあるが、攻め込めているのも事実。

 リョーはその事実を正確に認識し、焦る事なく前線を押し上げていく。

 リョーにとってすれば、徐々に相手の余裕を削っているこの戦いも、加虐心が満たされる楽しいモノなのだ。

 

「じわじわと獲物を甚振っていきましょう?弱って怯えて震える獲物の方が、食べる時に燃えるわ」

 

 リョーの言葉に呼応して、部隊全体が気迫を(たぎ)らせる。

 良くも悪くもリョーの部隊、リョーの手勢。言い換えれば、リョーの元に集った者たちだ。

 その思考、いや、嗜好は皆、リョーに近しい。

 加虐的快楽に酔いしれながら、先導者であり部隊の主であるリョーの歩みに続く。

 

 悲しい事に、彼女らは勘違いしている。

 ファーリーたちは、食べられる獲物ではない。

 ファーリーたちは、酔狂な芸術家が生み出し、また育て上げた、恐るべき芸術作品なのだ。

 

「よく持たせたぜ、お前さん方。後は俺らに任せな」

「!?さ、サコン様!」

 

 そんな芸術作品の中でも、戦闘力を磨かれた者たちが衛兵たちに合流する。

 それはもちろん、サコン含む精鋭たち。ジパング首都、キョーより送り出された援軍である。

 

「さぁて。武闘会では恥ずかしい結果に終わっちまったが、いっちょ、名誉挽回と行きやすかねぇ!」

 

 『ロックウォール』で作られた高台の上、サコンは構えた。

 敵侵攻部隊を見渡し、幾ばくかした後、とある一点に目を留める。

 そうしてから、サコンは刀の柄に手を置いた。

 敵との距離ははるかに遠い。武闘会でエリーと対した時よりも確実に遠い。

 それでもサコンは全身に力を込め、消えた。

 一瞬にしてサコンの姿は高台より消え去り、誰の視界にも映っていない。

 それもそのはずだ。

 

「……敵ながら、お見事」

 

 サコンの姿は、敵部隊最前列、リョーの目の前にあった。

 一瞬で、一歩の踏み込みで、大きく空いていたその距離を、サコンは埋めたのだ。

 それにより、サコンは1つの戦果を得た。

 リョーすらも褒め称える、素晴らしい戦果を。

 

「まずは、大将首1つ」

 

 その戦果は、魔王軍幹部、リョー・フーの首であった。

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