100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十六節 生中に活を求める

 ジパング北西部、港町より幾ばくか進まれた対魔王軍最前線。

 悲しい事に、もしくは喜ばしい事に、魔王軍1200とジパング精鋭500はお互い一進一退の攻防を繰り広げている。

 しかし、魔王軍1200の統率者である1、リョー・フーと、ジパング精鋭500より優れているはずの1、サコンは一進一退とはいかなかった。

 

「さっきから回避に専念してばっかり。良いのぉ?耐久勝負なら、あたしの圧勝だろうけど?」

「攻めるばかりが、戦いじゃねぇでしょうが!」

 

 その戦いはサコンの防戦一方。

 リョーが雨に濡れながらも汗1つかいていないのに対し、サコンは恐怖による冷や汗も、激しい運動による普通の汗も、雨で隠しきれていない。

 

「そう。じゃあどっちかしら。あたしの隙とか弱点を探っているのか、さらなる援軍を待っているのか」

「答える馬鹿が居やすかねぇ!」

「大変ご尤も。でもあたしとしては、後者に期待するわ。アンタじゃどう足掻いたってあたしに勝てない」

 

 余力を残して微笑みながら、真面に食らえば決定打足りえる攻撃を連打し続けるリョー。

 苦々しく歯噛みしながら、全力でその攻撃を回避する事に集中するサコン。

 この状態では、リョーの言葉は煽りでもなんでもなく、真実を告げているだけとなる。

 

(焦るな、俺!旦那の言葉を忘れるな!『命大事に』!命を賭けながら、命を大事にしつつ、己のすべき事を成せ!)

 

 サコンは自覚していた。己では、リョーに敵わない。

 だからと言って、命を捨ててまで勝ちを拾いにいくような事はしない。

 命を賭ける事と、命を捨てる事は違うのだ。

 それに、サコンはクミホより『命を大事に』と、その命はジパング帝王の所有物だと、生まれた時より聞かされてきた。

 ここで命を散らすのは、サコンにとって帝王たるクミホへの謀反、それも最上級に当たる行為なのである。

 よって、何よりも己の命を優先する。優先した上で、己がすべき行動を選択する。

 

(俺で敵わねぇなら、敵う味方が来るまで時間稼ぎ!それが最善手ですぜ!)

 

 その沁み込んだ価値観が、サコンにそう選択させる。

 しかも、サコンはそれが最善手と信頼できる要因がある。

 

(勇者様!アンタならどうにかしてくれんだろ!?)

 

 ラビリンシア武闘会の親善試合。テノールは不死性を持つエリーを打ち負かしていた。

 それも、相手の策に嵌まった事を装うような奇策で。

 ならば、この超速再生という不死性も奇策で打ち負かしてくれる。

 サコンには、そういう確信があった。

 その確信で以って、テノールが来るまでの時間稼ぎに尽力している。

 

「良いわねぇ、アンタ!目に希望の火が灯ってる感じ、最高!!だから勝負しましょう、アンタの思惑が成就するか、あたしが踏みにじるか!!」

 

 攻撃が回避され続けられるも、リョーは気迫を(みなぎ)らせていた。

 諦めていない相手との勝負。例えその相手が防戦一方であっても、リョーには楽しくてしかたがない。

 まだ決着が分からない戦いは、リョーにとって望ましいモノなのだ。

 故に、リョーは戦いに燃え、攻撃の激しさを増す。

 

「勘、弁、しろぉ……っ!」

 

 サコンは絞り出したような悲鳴を漏らした。

 再度言うが、サコンは回避に専念し、時間稼ぎに尽力しているのだ。

 今までだって限界に近かった。

 その限界に近い状態が、本当の限界まで押し込まれようとしている。

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわぁ!!」

 

 リョーの攻撃はまだ激しさを増していき、徐々にサコンの衣服を(かす)めていく。

 もうちょっとで当たる。そんな思考も、サコンは抑え込んだ。

 いや、最早サコンには思考する余力がないのである。

 目で、耳で、肌で、相手の攻撃動作を感知し、思考する間も惜しいために条件反射で体を動かす。

 それでどうにか直撃を回避している。

 だが、その条件反射で回避していた事が、(あだ)となってしまう。

 

 条件反射とは、とある条件へ反射的に動いてしまう事。

 その性質上、過去に経験した事のある条件にしか、反射的に動く事はできない。

 ここで問題となってくるのは、サコンがリョーと初見であり、リョーのような上半身ヒューマン・下半身猫型魔物なんて生物と相対した事がない。

 特に問題なのは、下半身だけで四足歩行、おまけに猫のような柔軟性のある動きが可能である点だ。

 

 だから、リョーは大剣を上段に構えているような体勢で、4本の足を使って突進できる。

 だから、サコンは回避できない。

 

「ぐっ」

 

 もちろん、ただの突進。それだけで致命打とはなり得ない。

 でも、サコンを怯ませ、致命打を叩き込むための隙を作る一手にはなり得る。

 

「……っ!」

 

 サコンは見てしまった。リョーが突進してすぐ、振り下ろしの体勢に入れている事を。

 

「……後は任せますぜ、勇者様!」

 

 サコンは見てしまった。リョーの背後に、勇者が飛来している事を。

 

「ああ、任せてくれ」

「な、に……っ!」

 

 聖剣を自由落下に従わせてリョーの頭に突き立て、空いた両手でサコンの右肩を外す。

 そうして、リョーに再生の時間を取らせ、大剣を振るうための起点を壊し、リョーの攻撃を中断させた。

 絶望を覆す希望が如く、まさに伝説に登場する勇者の如く、テノールはサコンの命を救い上げたのだった。

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