100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
ジパング北西部、港町より幾ばくか進まれた対魔王軍最前線。
悲しい事に、もしくは喜ばしい事に、魔王軍1200とジパング精鋭500はお互い一進一退の攻防を繰り広げている。
しかし、魔王軍1200の統率者である1、リョー・フーと、ジパング精鋭500より優れているはずの1、サコンは一進一退とはいかなかった。
「さっきから回避に専念してばっかり。良いのぉ?耐久勝負なら、あたしの圧勝だろうけど?」
「攻めるばかりが、戦いじゃねぇでしょうが!」
その戦いはサコンの防戦一方。
リョーが雨に濡れながらも汗1つかいていないのに対し、サコンは恐怖による冷や汗も、激しい運動による普通の汗も、雨で隠しきれていない。
「そう。じゃあどっちかしら。あたしの隙とか弱点を探っているのか、さらなる援軍を待っているのか」
「答える馬鹿が居やすかねぇ!」
「大変ご尤も。でもあたしとしては、後者に期待するわ。アンタじゃどう足掻いたってあたしに勝てない」
余力を残して微笑みながら、真面に食らえば決定打足りえる攻撃を連打し続けるリョー。
苦々しく歯噛みしながら、全力でその攻撃を回避する事に集中するサコン。
この状態では、リョーの言葉は煽りでもなんでもなく、真実を告げているだけとなる。
(焦るな、俺!旦那の言葉を忘れるな!『命大事に』!命を賭けながら、命を大事にしつつ、己のすべき事を成せ!)
サコンは自覚していた。己では、リョーに敵わない。
だからと言って、命を捨ててまで勝ちを拾いにいくような事はしない。
命を賭ける事と、命を捨てる事は違うのだ。
それに、サコンはクミホより『命を大事に』と、その命はジパング帝王の所有物だと、生まれた時より聞かされてきた。
ここで命を散らすのは、サコンにとって帝王たるクミホへの謀反、それも最上級に当たる行為なのである。
よって、何よりも己の命を優先する。優先した上で、己がすべき行動を選択する。
(俺で敵わねぇなら、敵う味方が来るまで時間稼ぎ!それが最善手ですぜ!)
その沁み込んだ価値観が、サコンにそう選択させる。
しかも、サコンはそれが最善手と信頼できる要因がある。
(勇者様!アンタならどうにかしてくれんだろ!?)
ラビリンシア武闘会の親善試合。テノールは不死性を持つエリーを打ち負かしていた。
それも、相手の策に嵌まった事を装うような奇策で。
ならば、この超速再生という不死性も奇策で打ち負かしてくれる。
サコンには、そういう確信があった。
その確信で以って、テノールが来るまでの時間稼ぎに尽力している。
「良いわねぇ、アンタ!目に希望の火が灯ってる感じ、最高!!だから勝負しましょう、アンタの思惑が成就するか、あたしが踏みにじるか!!」
攻撃が回避され続けられるも、リョーは気迫を
諦めていない相手との勝負。例えその相手が防戦一方であっても、リョーには楽しくてしかたがない。
まだ決着が分からない戦いは、リョーにとって望ましいモノなのだ。
故に、リョーは戦いに燃え、攻撃の激しさを増す。
「勘、弁、しろぉ……っ!」
サコンは絞り出したような悲鳴を漏らした。
再度言うが、サコンは回避に専念し、時間稼ぎに尽力しているのだ。
今までだって限界に近かった。
その限界に近い状態が、本当の限界まで押し込まれようとしている。
「楽しいわ楽しいわ楽しいわぁ!!」
リョーの攻撃はまだ激しさを増していき、徐々にサコンの衣服を
もうちょっとで当たる。そんな思考も、サコンは抑え込んだ。
いや、最早サコンには思考する余力がないのである。
目で、耳で、肌で、相手の攻撃動作を感知し、思考する間も惜しいために条件反射で体を動かす。
それでどうにか直撃を回避している。
だが、その条件反射で回避していた事が、
条件反射とは、とある条件へ反射的に動いてしまう事。
その性質上、過去に経験した事のある条件にしか、反射的に動く事はできない。
ここで問題となってくるのは、サコンがリョーと初見であり、リョーのような上半身ヒューマン・下半身猫型魔物なんて生物と相対した事がない。
特に問題なのは、下半身だけで四足歩行、おまけに猫のような柔軟性のある動きが可能である点だ。
だから、リョーは大剣を上段に構えているような体勢で、4本の足を使って突進できる。
だから、サコンは回避できない。
「ぐっ」
もちろん、ただの突進。それだけで致命打とはなり得ない。
でも、サコンを怯ませ、致命打を叩き込むための隙を作る一手にはなり得る。
「……っ!」
サコンは見てしまった。リョーが突進してすぐ、振り下ろしの体勢に入れている事を。
「……後は任せますぜ、勇者様!」
サコンは見てしまった。リョーの背後に、勇者が飛来している事を。
「ああ、任せてくれ」
「な、に……っ!」
聖剣を自由落下に従わせてリョーの頭に突き立て、空いた両手でサコンの右肩を外す。
そうして、リョーに再生の時間を取らせ、大剣を振るうための起点を壊し、リョーの攻撃を中断させた。
絶望を覆す希望が如く、まさに伝説に登場する勇者の如く、テノールはサコンの命を救い上げたのだった。