100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十七節 恋するように盲目す

 状況の説明から入ろう。

 俺はイブキの背に跨る形で、対魔王軍最前線まで運ばれた。

 イブキの飛行がラビリンシア最速のドラゴン、タラに次ぐ速度を出していたため、振り落とされないよう、エクスカリバーに体の主導権を渡していた。

 そうして辿り着く対魔王軍最前線、エクスカリバーは肉体強化によって強化した視力が、サコンの劣勢を捕らえたのだ。

 後数手で詰みだと予測したエクスカリバーは、イブキに逆鱗へ触れる事を脅迫材料に、そのサコンが戦う場の直上まで急がせた。

 それで、直上に至ったところ、エクスカリバーはイブキを蹴って、思い切り跳び落ちたのである。

 おまけに聖剣を真下にぶん投げていた。

 ここで体の主導権を奪還すると、俺は地面に激突した後に見るも無残な死体となるので、甘んじて主導権を渡したままにした。

 その結末がどうなったかと言えば、サコンを劣勢に追い込んでいた敵の頭へ綺麗に聖剣が刺さり、敵の背中に落下する体を叩きつけたのだ。

 それだけに飽き足らず、敵の右肩を一瞬で外す始末。

 落下地点を敵の位置に合わせた事もさる事ながら、その早業体術も落下の勢いを全部敵に背負わせている事も、もはや人間業ではない。

 何をどうすれば、そんな事ができるようになるのか。

 

(幾億と戦ってりゃ、できるようになる)

 

 信じ難い話ではあるが、実に説得力があった。

 とにかく、エクスカリバーは不意打ちのような何かを敵に見まい、敵がその痛みで硬直している内に、聖剣を引き抜きつつ、サコンの方へ離脱する。

 

「大丈夫ですか?サコンさん」

「死ぬかと思いやした……。『九死に一生を得る』ってのは、こういうのを言うんでやしょうね……」

 

 エクスカリバーがサコンへ視線をやれば、大した傷のないサコンの姿が目に映る。

 冷や汗を滝のようにかいているみたいだが、それだけで済んでいるのは、さすがクミホの調整を受けた家系と言ったところか。

 

「あは、あははははははははは!!!」

 

 何しろ、目の前の敵は、頭を貫かれてまだ動いているのだから。

 傷はもう塞がっているようだし、核が見た目通りの場所にない類か、それとも何かしらの弱点で攻撃しないと致命打にならない類か。

 というか、エクスカリバーを視認するや哄笑しているの、かなり怖い。

 

「ああ、会いたかった。会いたかった、会いたかった!勇者テノール!!あの少女の剣を継ぐ貴方!!!」

 

 なんか、文字通り因縁付けてきたし。

 

「『あの少女』?いったい何を言っているんですか?」

「勇者アルトが魔王様を打ち倒すより前、あたしを、この魔王軍幹部であるリョー・フーを1人で切り伏せた少女が居たの!貴方の剣は、あの少女の剣にそっくりなの!!会いたかったわ、勇者テノール。戦いたかったわ、勇者テノール!!!」

 

 エクスカリバーは狙っていないだろうが、上手くこのキメラの素性を聞き出せた。

 半人半獣のキメラであるこの女性は、魔王軍幹部のリョー・フーらしい。

 そんなリョーが語る、勇者アルト以前に自身を切り伏せた1人の少女。

 歴史上、そんな人物は記録されていないが、俺は何故だか思い当たる節がある。

 

(まさかだけどさ。その少女ってお前の事じゃないか?)

 

 俺は十中八九エクスカリバーの事だろうと、当の本人を睨んだ。

 そう。俺はエクスカリバーが生前単騎で魔王軍に挑み、見事魔王の下まで辿り着いた事を聞かされている。

 魔王の下に辿り着くには、当然魔王軍幹部を倒していかねばならないはずだ。

 そんな事をやり遂げた人物は俺の知る限り、勇者アルトとその仲間、それにエクスカリバーの2組。

 加えて、俺に憑依してエクスカリバーが振るう剣技と似ているという事なら、もう候補は1組にまで絞り込まれるのだ。

 

(まぁ、多分そうなんじゃねぇか?オレもリョー・フーとは1度しかやり合わなかったが、あいつはそのたった1度を大切に覚えてたみてぇだな)

 

 1度矛を交えただけで、似た剣技を振るう奴と戦いたくなるとは。いったい如何なる戦闘を繰り広げればそうなるのか。

 

(お互い笑いながら斬り合ってたな。まぁ、オレは全部避けてたけど)

 

 絵面を想像しただけで怖気が走る戦闘が繰り広げられていたようだ。

 

「さぁ、剣を構えて?勇者テノール。あたしと延々、永遠、斬り合って、殺し合って、甘美なる戦いの時間を楽しみましょう!!!?」

 

 先程まで戦っていたサコンなど眼中にないかのように、リョーはエクスカリバーから目を離さない。

 それ程、待ち焦がれていた戦いなのだろう。

 戦いを待ち焦がれるなど、俺には全く理解できない価値観だ。

 

(え?理解できねぇの?)

 

 凄く純粋に不思議がっているけど、そんな人種は極少数。俗に言う、戦闘狂と呼ばれる希少種しかいない。

 そんな珍種と俺を同類にしないでほしい。

 

(かぁ、お前本当、戦士の名折れだなぁ)

 

 戦士である前に勇者なのでなんら問題はない。

 

「ねぇ、どうしたの?勇者テノール。あたしは貴女の敵よ?早く剣を構えて?早く、早く早く早く早く早く早く!!!!」

 

 ほんの数秒を待てないとばかりに、喜色満面の笑みで涎すら垂らしそうになっているリョー。

 もうエクスカリバーの他は意識の外なのだろう。

 だから――

 

「『セイクリッドブレイズ』!」

 

――容赦のない聖なる炎に、リョーは対処できないのだ。

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