100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「『セイクリッドブレイズ』!」
エクスカリバーしか眼中になかったリョーへ、容赦のない聖なる炎が襲い掛かった。
戦場において相手の隙を突くのは当然だが、一瞬の気の緩みで必殺の一撃を食らう側としては堪ったものではない。
(やったか?)
(いや、リョーはあの程度じゃやれねぇよ)
俺はもう勝った気でいたのだが、そこにエクスカリバーの苦言を貰った。
如何に再生能力があると言えど、炎上は一溜まりもないはずだ。
だが、その俺の予想に反して、エクスカリバーの苦言が正しかったと証明される。
リョーは炎の中にありながら、髪の1本も燃えていないのだ。
いや、正確に言えば、燃えてはいるが、再生が間に合っている。
どんな再生速度だ。
「そんな、デュランダルの魔術が……」
俺の後方、隙を突いて『セイクリッドブレイズ』を食らわせたリカルドは愕然としていた。
リカルドもこの再生が間に合っている現状は認識しているが、己の必殺が通じていない事は信じきれずにいるようだ。
「あたしの楽しい戦いを邪魔するのは、アンタ?」
そんな愕然として反応が鈍っているリカルドを、リョーは標的とした。
4本足に力が籠められ、今にも突進していきそうである。
それを読んで、エクスカリバーはリカルドの前に立ち塞がったのだが、エクスカリバーとリョーが衝突する前に、ある者がリョーへ攻撃を仕掛ける。
その攻撃が、鞭のように振るわれた長い尾であれば、そのある者は明白だろう。
「余を無視とは、いただけんのだ」
わずかに怒りを滲ませるドラゴン、イブキがそのある者である。
そんな彼女が仕掛けた攻撃は、リョーへ直撃したように見えたが、舞う土埃で判然としない。
(あれは、やれてないんだよな?)
(焼死しねぇ奴が撲殺されたら、それはそれでお笑いだな)
威力はあるが、その一撃でリョーを倒せる訳はなかった。
土埃が晴れれば、そこに片手でイブキの尾を受け止めているリョーが露になる。
「無粋、本当に無粋だわ。どいつもこいつも、あたしのお楽しみを邪魔しちゃって……」
「無粋?何を言っているのだ。この場は行儀よく決闘をする場か?」
「ええ、そうねぇ。戦争なんだから邪魔なんて入り放題。だったら……」
「……!イブキさん、離れろ!」
エクスカリバーはリョーが何をしようとしているか察し、イブキへと忠告した。
その忠告を聞いてか、自身でも察していたのか、イブキはリョーより身を離す。
そうして少しばかりも離れた瞬間、イブキの体に異変が起こった。
「ぐっ……!よ、余の鱗を物ともせず、切り裂いた……!?」
イブキの尾は切り傷が浅くも刻まれたのだ。
リョーが剣を振った動作もなく、である。
「『魔力斬撃』、体表から魔力を鋭く放出したんだ!リョーに迂闊に近付くな!」
エクスカリバー曰く、イブキの切り傷はリョーの魔力によるモノらしい。
『魔力斬撃』。いつだったか、エクスカリバーもできるが、魔力消費が多いために頻用はしなかったと言っていたモノだったはずだ。
リョーはそれで、ドラゴンの鱗すら切り裂いたのである。
「クソ、たかだかキメラ如きが!そんな放出する程余っているなら、余が吸いつくしてくれる!」
イブキはリョーへと両手を向け、魔力を吸収する。
その証明に、リョーから光の帯が伸び、イブキに取り込まれている。
精鋭たちを魔力まで分解した時と似たような光景だ。
ただ、違和感があった。
精鋭たちの時と違って今回は取り込んでいるのだから、差異があるのは当然だ。
でも、己の我がままで俺たちに襲い掛かってきた時、クミホの魔力を吸った時とも差異がある。
(どうしてイブキは、あんな大量の魔力を吸収してるんだ?)
魔力が可視化できているという事は、それ程高密度だという事。
クミホを無力化する時には、あの魔力の可視化現象は起こっていなかった。
クミホを無力化する場合ですら、可視化する程の魔力量ではなかった事になる。
つまり、今イブキがリョーより吸収している魔力の量は、クミホを無力化する時以上、さらには精鋭500人の体を構成しているのと同等かそれ以上なのである。
「んふふ。吸いたければ好きなだけ吸えば?」
そんな量を目の前の魔王軍幹部は吸収されているはずなのに、クミホに起こったような肉体の一部老化がない。
吸収されている本人が焦っている様子もない。
(まぁ、そりゃそうだろうよ。肉体の超速再生を何度でも行えるような魔力量だ。リョーの保有魔力量はおそらく、個体で保有できる限界量を振り切れてるだろうな。どこのどいつが、そんなキメラ生み出したんだか)
エクスカリバーの言葉で気付かされたが、確かに致命傷からも再生しているのだ。
魔物が如何に魔力から発生するとしても、失った部位を補い、命を繋ぎとめるために使われる魔力量。それが膨大なのは想像に難くない。
そんな魔物を誰が生み出したかについては、考えずに置こう。どうせ『邪神フィーネ』だろうけど。
「う、うっぷ……。き、貴様……。いったいどれ程の魔力を……」
「あら?もうお腹いっぱいなの?意外に小食ねぇ」
やはりと言うべきか、リョーの魔力保有量はイブキが吸収しきれる量ではなかった。
イブキはお腹を抱え、あからさまに吸収できる量の限界に来た事を表現している。
それは同時に、リョーの再生に際限がない事も表現してはいるかもしれない。
なんという、絶望的な状態だろうか。
「リカルドさん、サコンさん。彼女の相手はオレに任せてくれ」
そんな絶望的な状態なのに、エクスカリバーは1対1での勝負を挑もうとしていた。
さすがは戦闘狂だ。頭が狂っている。
(誰の頭が狂ってる、だ。オレは1度こいつを倒してんだよ。こいつとの戦い方は熟知してる)
リョーからの証言もあるから、エクスカリバーがリョーを倒したと言うのは事実なのだろう。
それではどうやって、あの不死性を打倒したのか。
(簡単だよ。殺し続ければ良い、相手の魔力が尽きるまでな)
それは、たった1つの単純にして冴えない答えだった。
「さぁ、リョー・フー。君の望む戦いをしよう。ただし、君の望む結果にはならないだろうが」
「良いわ、良いわ!あたし好みの答えよ、勇者テノール!」
エクスカリバーは遠回しに勝利宣言しているのだが、お気に召したようで、リョーは嬉々としてこちらに刃を向けた。
物騒な2人の世界に割って入る事は難しいと、リカルドやサコンは多少躊躇しながら、リカルドなんかは歯噛みしつつ、精鋭たちへの加勢に動き始める。
これで、本当に戦闘狂同士の世界が完成したのだった。
指示も出されず、自身で判断もできないドラゴンを1体置き去りにしながら。