100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「戦いましょう!?勇者テノール!!!」
待ち焦がれた親の帰りを出迎える幼子のように、リョーは一直線に突っ込んでくる。
エクスカリバーはその突っ込んでくる方向へ矛先を向けて置けば、いとも容易くリョーの胸に刺さった。
リョーは構わず大剣を振り下ろしてくるが、エクスカリバーは身を捻る事でそれを避けつつ、刺さった聖剣を振り上げる事で心臓から頭までを切り裂く。
「まずは2回」
たった1合で心臓と脳を破壊したエクスカリバー。
リョーはすでに回復しているにしても、生命を維持するために重要な機関を破損されたのだ。
単に首を
エクスカリバーの戦闘は、恐ろしく的確で、凄まじく冷静だ。
「さっすが、勇者様!なら、これは対処できる!?」
試すような物言いをするリョーの所作は、変哲のない横薙ぎの予備動作に見えた。
リョーのような半人半獣との戦いに慣れていない者なら、次の攻撃を予備動作に誘われるまま、素直な予想をするだろう。
エクスカリバーは違う。彼女は、思い切り横に跳んだ。
そうすると、リョーの突進が、先程までエクスカリバーの居たところに見舞われる。
エクスカリバーはしっかり、リョーの後ろ脚の動作も知覚していたのだ。
リョーの後ろ脚は低く沈み、踏み出しの準備をしていた事を、エクスカリバーは見逃さなかった。
幾億の戦闘経験を持つエクスカリバーに、そんな引っかけは通用しない。
あらゆる攻撃をエクスカリバーはその経験から直感し、予測する。
だから、次のリョーの攻撃も、エクスカリバーには予測できている。
「それで避けれたと思わない事ね!」
「もちろん」
大剣に込められていた魔力が、リョーの横薙ぎに合わせて放出された。
『魔力斬撃』だ。横に範囲が広いその攻撃を、エクスカリバーは縦の『魔力斬撃』で魔力を乱し、自身の立つ場所を安全圏とした。
それだけでなく、その『魔力斬撃』をリョーまで届かせたのだ。
リョーはその攻撃で、心臓と脳を一気に切り裂かれる。
「これで4回。後何回殺せば、君は死ぬのかな?3・4桁くらいと見積もってるけど」
「ふ、ふふふふ……。それまで貴方は持つの?貴方はどこまであたしとやり合えるのかしらぁ?」
リョーは4回も殺されてなお、焦りもなければ屈託もない笑顔を浮かべていた。
屈託がないのはともかく、焦りがないのも当然だろう。
もし本当に100回1000回と殺さねばならないなら、俺の魔力が足りるか心配だ。
肉体強化も、さっきの『魔力斬撃』も、着実に俺の魔力を消費している。
(以前はオレの魔力量で殺しきったんだ。お前の魔力量だけでも充分にやれるだろ。でも、今回はちょっと楽しもうと思ってるがな)
何故だろう。安心できる言葉を貰ったはずなのに、嫌な予感しかしない。
俺の身の危険とかではなく、エクスカリバーが酷い楽しみ方をしそうな気がしてならない。
「イブキさん!魔力をくれないか!」
「……え?余?」
今まで何をすべきか迷い、空中に漂う置物と化していたイブキ。
彼女は急に魔力の供給を願われ、呆気に取られている。
「君はクミホに吸収した魔力を返していた!なら、他人に吸った魔力を供給できたりはしないか!」
「できるはできるが……」
「頼む!君の力が必要なんだ!リョーを野放しにすれば、ジパングの滅亡だってあり得るんだ!」
実際、リョーはエクスカリバー以外に止められるか怪しい。
あの単純な不死性は単純であるが故に、攻略法が限られる。
拘束をしようにも、膨大な魔力を放出する事で、拘束具を破壊するだろう。
封印や石化といった直接作用する類の魔術は、その膨大な魔力保有量で対抗されるだろう。
だから、死ぬまで殺し続けるという頭の悪い攻略法になるのだが、サコンが敵わなかった時点でその攻略法は実行困難だ。
誇張でも妄言でもなく、本当にエクスカリバー以外実行できない。
勇者アルトとその仲間は、いったいリョーをどう打倒したのか、不思議になるくらいだ。
「……っ!……余が供給量を間違えて、お前を爆散させても知らんぞ!」
……え?魔力保有量を越えて魔力を供給されると、人って爆散するの?
「構わない!」
『構わない』じゃないんだが?俺は構うんだが?
(うるせぇ、ちょっと黙ってろ。こっから爆散しないように消費魔力を調整しなくちゃいけねぇんだからよ)
俺は黙る事にした。
もしエクスカリバーの集中を乱し、消費魔力の調整を誤らせた場合、俺の人生は終わる。
まだ富も名誉も女も全然得られていないというのに、こんな道半ばで死にたくない。
「……では!」
イブキがエクスカリバーへと手をかざした時、俺も何かが満たされていくような感覚を覚えた。
この感覚が、魔力を供給される感覚なのか。
そんな感覚を数秒味わえば、次に不思議な満腹感を襲ってくる。
この感覚が過ぎれば
エクスカリバーもそう察知しているのか、足元から魔力を放出する。
『魔力斬撃』のような斬撃を生むのではなく、純粋に放出し、その放出された反動で己の体を飛ばしたようだ。
目にも留まらぬ速さでリョーに接近し、一瞬後には聖剣をまた心臓へと突き立てている。
「それじゃあ、リョー。第2幕だ」
肉薄したエクスカリバーが、リョーが、お互い不敵な笑みで睨み合うのだった。