100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第四十節 戦いの果てに

 勇者テノール、いや、エクスカリバーがイブキの魔力供給を受けられるようになってからの戦いは、酷く(むご)いモノだった。

 あり余る、むしろ使わなければ爆散する魔力を潤沢に使い、時にそれを放出した反動で己を射出し、時に『魔力斬撃』として打ち出す。

 魔力放出という機動力を得たエクスカリバーは縦横無尽に、地だけでなく空も駆け回る。

 エクスカリバー以上の魔力保有量を持つリョーですら、真似できず、目で追えず、理解できない機動が、リョーを翻弄していた。

 いつの間にか背後から切り裂かれ、後ろを振り向けば頭から心臓まで真っすぐ貫かれ、貫いた剣を捕えようとすれば体ごと真っ二つに分かたれる。

 悪夢だ。最早どこでどうやって何をしてそういう殺し方をしているのか、リョーには認識する事もできない。

 だが、リョーは、恍惚としていた。

 

(ああ、あの少女の剣を継いだ貴方!勇者テノール!!貴方はあの少女のように慈悲のない剣を振るい、されどその少女以上に美しく舞っている……。なんて、なんて美しいのかしら……。なんて楽しいのかしら!!)

 

 蹂躙されているにも拘らず、リョーは夢心地だったのだ。

 同じ生物の格での戦い。神と魔物でもなく、多数と単体でもない戦い。

 イブキがエクスカリバーを援護しているが、魔力の供給に専念しているため、加勢はしていない。

 ある種、元々膨大な魔力を持つリョーと、イブキという供給源を得たエクスカリバーで、この戦いは条件が平等となっている。

 なのに、リョーが一方的に押されている。

 

(ただのヒューマンが、こんなに美しい剣を振るえるのね……。ただの1人の人間が、こんなに恐ろしい剣を振るえるのね……!!)

 

 思考する最中も殺され続けているのに、リョーの胸の内はエクスカリバー、勇者テノールへの称賛でいっぱいだった。

 真っ正面からリョーに1人で挑み、圧倒するのはこれで2人目。

 奇しくもその2人は魂的に言うと同一人物なのだが、リョーがそれを知る由はない。

 リョーにとってすれば、現在自身を圧倒する勇者テノールは、過去自身を圧倒した少女を越えている。

 リョーにとって、勇者テノールは最高の強敵なのだ。

 

「うふ、うふふふふ……。楽しくて嬉しくて美しくて……。ああ、胸の高鳴りが抑えられないわ!勇者テノール!!貴方はなんて素晴らしい勇者なのかしら!!!」

「……誉め言葉として、受け取っておくよ。でも、君はここで倒れてくれ」

 

 戦いを楽しむリョーの姿に、エクスカリバーは釣られて笑みを浮かべそうになったが、どうにか表情を引き締めていた。

 戦いを好む嗜好には共感でき、この膨大な魔力で戦える事に喜んでもいるが、今は勇者として取り繕うのが優先なのである。

 そんなおよそ真っ当なではない思惑で真面目に装っているのだが、リョーにはその表情が己の腕を過信しない故のモノと勘違いしてしまう。

 

(それでは満足していないのね、勇者テノール。己がまだ未熟だと疑わないのね、勇者テノール!!)

 

 リョーにとって、甘美な一時(ひととき)だった。

 リョーをして人の究極、その1つに至っている事が疑いようのない勇者。

 そんな彼は、まだ成長をするのだと言う。

 

(だからこそ、あたしは貴方との戦いが楽しいわ!あたしは、そんな強者の礎となれる事が嬉しいわ!!)

 

 『戦いに陶酔した者であれ』と、『邪神フィーネ』に生み出された。

 故に、強者を尊敬し、強者との戦いを喜びとする。

 それが、リョー・フー・アルフィーネなのだ。

 

(ああ……。こんな人との戦いの最中、あたしは果ててしまいたい……。この戦いこそを、あたしの死に場所にしたい……!)

 

 リョーは目の前の勇者に何度殺されただろう。数えていない、数える暇がない。

 だが、確実に終わりが近付いている事は感じていた。

 それでも、リョーは怯まず、逃げず、戦う。

 

(貴方の手で、貴方の剣で、貴方の礎として、あたしは果てたい!!!)

 

 いくつもの『魔力斬撃』で細切れにされる。でも戦う。

 魔力放出での急接近から殴打を食らい、肋骨諸共心臓を破壊される。でも戦う。

 聖剣の腹で顔面を叩かれ、頭が弾け飛ぶ。でも戦う。

 

(まだよ!まだ……。まだっ……!ま、だ…………)

 

 心臓と脳を狙った多種多様の殺害方法でついに、リョーは限界を迎える。

 リョーは生存本能的に全魔力を再生に回すため、思考の維持すら途絶させた。

 その意識は、闇へと落ちたのだ。

 

「魔王軍幹部リョー・フー。感傷かもしれないが、君との戦いをオレは忘れない。……さよならだ」

 

 エクスカリバーは気絶したリョーを見下ろし、どこか悲しみを携え、聖剣を上段に構える。

 そうして、介錯のように最後の一撃を見舞おうとした。

 その時である。

 

「ざーんねん。リョーはやられちゃったみたいだねー」

 

 暢気な声が響き、鋭い風が吹いた。それも、気絶したリョーを思い、守るように。

 エクスカリバーは風が鋭くなる兆候を直感し、即座に退避している。

 それから、声のした方を睨んだ。

 

「お前は」

「初めましてー、噂の勇者様―。私はアリエル・リオン・ザ・ティターニア。魔王軍幹部だよー」

 

 実に気の抜けた言葉を発する魔王軍幹部が、空に佇んでいるのだった。

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