100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
エクスカリバーがリョーを一方的に虐殺し、後1歩まで追い詰めた。
いや本当、何をどうすればそうなるんだってくらいの剣技で以って殺し尽くしていて、俺は相手が魔王軍幹部だと言うのに同情を禁じ得なかった。
エクスカリバーが保有魔力量に恵まれなかったのは、こんな悲惨な、戦いとすれ呼べない戦いをさせないため、天がそう定めたのかもしれない。
とりあえず、そんな感じで何度も殺し、リョーが気絶したのだ。その様子で、次の一撃が
だが、その止めの一撃は、敵の援軍によって阻まれてしまったのだ。
「アリエル・リオン・ザ・ティターニア……。『ザ・ティターニア』という事は、今代におけるフェアリーの女王か」
「そー。物知りだねー、勇者様はー」
敵の援軍、それはさらなる魔王軍幹部。
小鳥のような小さな体躯に、虫のような羽で宙に浮く、見るからにフェアリー。
風魔術を使った事から、厳密な種族はシルフだろう。
そんなフェアリーが、リョーを風で守りつつ、エクスカリバーに相対している。
(『ザ・ティターニア』……。最強のフェアリーに与えられる、種族の長である証明か……)
フェアリーという種族の大枠にある特殊な風習、『ザ・ティターニア』。
その名はある種称号であり、ある種フェアリーの仕様でもある。
それは一般的な称号のように、大多数の賛同で贈られる名前ではなく、フェアリーが生まれた時、その者がフェアリーの王たる素質を持っていれば付与されている名前なのだ。
その者が雌ならば『ザ・ティターニア』、雄ならば『ザ・オベロン』という名前になる。
そして、その名を持つ者はフェアリーの中で最高の力を持ち、フェアリーたちに対する命令限を持つとされる。
そんなフェアリーたちの王が、俺たちと相対しているのだ。
(また面倒なのが出てきたな。暴風雨を起こしてる時点でフェアリーが居るかもとは思ってたが、その中で一番強い奴か。しかも、王っつぅ事は下僕も居るよな)
さすがのエクスカリバーも、現状に苦い顔をしていた。
リョーの手勢だけで、ジパングの戦力は大分消耗している。
ここからフェアリーの集団も相手にする余力は、残っていないだろう。
イブキの魔力吸収も、エクスカリバーがかなり魔力を消費したが、フェアリー複数を無力化できる空きができたとは思えない。
(……イブキに供給と吸収を並行してもらう。最悪そういう手に出るしかないのか?)
(いいなそれ、面白そうだ)
エクスカリバーが妙案とばかりに俺の案に乗っかろうとするが、冗談じゃない。
イブキからの魔力供給は、俺の体が爆散する危険を常に孕んでいる。そんな状態、長く続けたくはない。
それに、供給されたとしていつまで戦い続けるのか。
現状に至り、おそらく真面な戦力はイブキ自身と、イブキから魔力供給を受けられる者たち。俺が思い付く限り、エクスカリバー、クミホ、ミギチカの3人だ。
サコンは、残念ながら疲労の色が濃いため、これ以上戦線には立たせられない。
リカルドも、リョーの手勢を相手にしていた分だけで魔力が尽きているだろう。
そのため、ジパングの戦力はイブキを含めても1体と3人。
そんな少数で、果たしてフェアリーの集団を打倒できるのか。
(やるだけやるしかねぇだろ。それとも、抗わずに死を待つか?)
(……分かってる。やるだけやってくれ)
(おうとも)
負ける可能性が高くても、戦うしかないのだ。死にたくはないのだから。
エクスカリバーはアリエルと名乗ったフェアリーに聖剣を向ける。
「待ってー。私たちは戦う気ないよー」
「……なんだって?」
「私たちは降参して逃げまーす」
アリエルは緊迫した戦場の空気に呑まれず、ただただ暢気に両手を上げた。
声の拍子ではそれが本気なのか判断しづらいが、抜身の剣を向けられて抵抗の意思を見せないのだから、本気なのだろう。
「代わりと言ってはなんだけどー。私たちもリョーも、それにリョーの配下たちも見逃してー」
抵抗の意思はなかったが、交渉の意思はアリエルにあった。
それは、満身創痍である魔王軍の解放を対価に、侵攻を中止するという交渉だ。
一見俺たちが有利な交渉だが、リョーに止めが差せないとなると話が変わる。
魔王軍幹部を1体削れるのだ。その絶好の機会を失うのはとても惜しい。
その利益と不利益の天秤が揺れ、エクスカリバーも俺も決めかねた時だ。
「ええよ。あんさんら、見逃したるわ」
ジパングで最上の決定権を持つ帝王の言葉が、俺たちの耳に届いた。
「クミホさん!いつの間に……」
「すんまへんなぁ。暴風雨と
クミホは海と空の封鎖に対処していたようだが、その根源、少なくとも暴風雨の主犯は目の前に居るアリエルだ。
アリエルを探していて、ようやく見つかった時がこの戦果が収まりそうなこの時だったという訳か。
何にせよ、最高決定権の持ち主が現れてくれて良かった。
これで交渉の結果について、俺が責任を持たずに済む。
「で、そちらさん、もう戦う意思ないんやろ?退いてくれるんやったら、ウチらも助かるわぁ」
「うん。面倒臭いしー、この戦いはリョーの戦いだったからねー。私たちはリョーたちが回収できればー、それだけで良いよー」
「交渉成立や。ほな、どこへなりとも行きぃや」
「はいはーい。じゃあみんなー、帰るよー」
クミホが交渉を呑むや否や、リョーやリョーの手勢たち、その死体すらも攫うように、風が巻き起こる。
『ザ・ティターニア』の命により、フェアリーたちが一斉にリョーたちを回収したのだ。
数秒もすれば、戦場は戦いの跡だけ残し、敵は居なくなった。
戦いが収束したのを確認し、エクスカリバーは俺へと主導権を返す。
「……良かったのですか?」
「良くはないなぁ。色々と、課題が見つかってしもうた……」
クミホは去り行く魔王軍ではなく、傷付いたファーリーたちを目にし、哀愁を漂わせるのだった。