100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第四十二節 戦争の終わりはハッピーエンドになり得ない

 魔王軍によりジパング侵攻は、幸いな事にたった1日で収束した。

 侵攻された範囲も、北西部の港町から少し進んだ程度。物的被害は脅威度に反して軽微に済んだと言える。

 しかし、心の底から喜ぶ事は難しい。

 人的被害も軽微で済んだとはいえ、死者は出てしまったのだ。

 ジパングの精鋭も、やはり全員生還とはいかなかった。

 もう完全に息の根がない戦死者も居れば、これから死の淵をさまようだろう重傷者も居る。

 侵略なのだからそういう犠牲が出る事は覚悟していたが、目の当たりにするとどうにも応える。

 

(これが戦争だ。分かってるだろ?テノール。むしろ、今回は控えめな方だぜ。第1次魔人戦争なんて、これの比じゃねぇ)

(分かってるさ。分かってるんだが……)

 

 エクスカリバーから慰められながら、俺はとある人の背を視界に収める。

 その背はクミホの背。戦死者が棺に入れられる光景を眺める、なんとも物悲しい背である。

 

「……幹部1体、その手勢でこれかいな。……全く、ウチも浅慮が過ぎるわ」

 

 クミホは小さく後悔を漏らし、強く拳を握り込んでいた。

 その酷く悲しい背に、俺はなんと声をかけるべきなのだろうか。

 

「……旦那、すいやせん。俺が居ながら、この体たらくで」

「クミホ、余も己を過信していた。幹部1体倒せず、ジパングの守り神と……。道化も良いところだ……」

 

 その背に寄り添うのは、彼女に付き従うサコンと、彼女に長く付き合ってきたイブキ。

 サコンの恵まれた体躯が、イブキの少女化した小さな体躯が、いつもより小さく見える。

 

「ふぅ……。国の頭がこんなんは駄目やな……。こういう時こそ、威厳に溢れてないかん。……よしっ!」

 

 クミホは思い切り息を吐き出し、一緒に色んな思いを吐き出してから、自身で頬を叩いた。

 そうして振り返ったクミホの顔は、穏やかな笑みを浮かべている。

 

「サコン、イブキ。よう持たせてくれた。あんさんらが居ぃへんかったら、もっと被害が出てたやろ。死んでったもんも、傷付いたもんも、みんな同じや。みんなよぉ戦ってくれた」

 

 フェーリーの生みの親、誰よりもファーリーを愛しているだろうクミホ。

 そんな彼女が愛した者が犠牲になった辛さを噛み砕き、気丈に振る舞っていた。

 国の(おさ)たる威厳と言うよりも、まるで母親のような強さだ。

 子供の前で泣いてはいけないと、必死に己の振る舞いを正している。

 

「クミホ……」

「旦那……」

「ほらほら、なぁにしょぼくれとんねん。この戦いはウチらの勝ちや。祝勝会、しっかり開こうなぁ」

 

 クミホはイブキとサコンの頭を撫で、2人を励ましていた。

 帝王らしくはない、されどジパングの長に相応しいだろう。

 クミホは種族の母なのだ。ならばこそ、母のようにかくあるべきである。

 

 そんな母親のような態度で一頻り頭を撫でたクミホは、俺とリカルドの方へ歩み寄ってくる。

 

「お2人さんも、ほんま助かったわぁ。ウチらだけやったら、どんだけ被害が出とったか分からへん」

「い、いや……。俺は……」

 

 クミホが贈ってきたのは称賛の言葉。その言葉を、リカルドは素直に受け取れなかった。

 結局、魔王軍幹部に歯が立たなかった事、それを負い目に感じているのか。

 その感情は共感できる。共感できるが、負い目を感じているなら、しなくてはならない事があるはずだ。

 

「この度は、貴女の民を全て守れず、申し訳ありませんでした」

 

 俺はそのしなくてはならない事、謝罪を行った。

 クミホを前にして、ある意味で堂々と頭を下げたのだ。

 こういう自身の心が晴れない時は、自己満足でも謝ってしまうのが良い。

 許されるにせよ、許されないにせよ、自身の心は幾分か晴れる。

 

「……テノールはんはほんまもんの勇者やなぁ。でも――」

 

 クミホは俺の顎に手を添え、無理にでも顔を上げさせる。

 そうして強制的に顔を相対させた彼女が浮かべていた表情は、怒りだ。

 

「――ウチの子らを戦死させた責任は、誰にも譲らへん。あの子らが死んだ責任は、もっと強く生んでやれへんかった、ウチの責任や」

 

 彼らの死は自分のせいだと、彼らの命は自分のモノだと。強情で強欲で強権で、なんとも尊い誓いが、クミホの中にあったのだ。

 怒りの所以は、それを奪われそうになったから。

 芸術家らしい理解しがたい価値観である。

 同時に、国の長らしい気高い責任感でもある。

 

「……貴女のモノを奪いかけて、申し訳ない」

「それでええ。テノールはんは理解が早くて助かるわぁ」

 

 俺がクミホの所有物を奪いかけた事、その認識をしっかりとすれば、クミホは何事もなかったように元の笑みに戻った。

 正しい選択ができたようだ。

 

「ほな、ウチの国のために戦ってくれた勇者様と英雄様には、国の長としてお礼させてもらいますさかい。キョーまでのんびりお送りさせてもらいますわ」

 

 クミホがそう言い終えると、示し合わせたように馬車が俺たちの前に停まった。

 馬車の中からは出迎えるように、ミギチカが俺たちを招き入れる。

 

「ウチは事後処理で遅れるから、先行っててな。……ミギチカ、送ったって」

「承知いたしました」

 

 クミホの指示に従い、俺とリカルドを乗せた馬車がキョーへと走り出す。争いの傷跡を背にしながら。




※諸事情により、本作の更新を今回で最後とさせていただきます。本作を完結まで書ききれず、打ち切るような形となってしまう事、誠に申し訳ございません。
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