100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「これも経験になるからと、ホーオまで徒歩ですか?」
「はい……」
休憩を終えた馬車の上にて。パースが馬を操りながら、同乗者となった若い女性冒険者と話していた。
パースの口角が微振動を繰り返す反面、若い女性冒険者は顔を赤くして俯いている。
「それで、その道中狩っていた魔物に逃げ込まれ、林の奥深くまで追った。そして、林で迷子になったと」
「……はい」
「ぷ、くく……。あはははははははははは!」
女性冒険者が明かした痴態を、パースは遠慮なく笑い上げた。
こんなに盛大に笑われてしまうなんて、この少女がかわいそうだ。
ほら、両手で顔を覆う程に恥ずかしがっている。
……ちょっと可愛いな。
(お前、女性をいじめる趣味もあるのか?)
そんな趣味はない。女性は紳士的に扱う。
というか『趣味も』ってなんだ、『も』って。俺が別のよろしくない趣味も持っているみたいではないか。
(自覚なしか。こいつぁ重症だな)
どうせ出任せであろうエクスカリバーの言。
俺は構うだけ無駄と、無視を決行する。
「どうして止めなかったのですか?」
「苦労も失敗も、良い経験になると思いましてな」
俺は付き人である老人なら止めそうなものと考えていたが、どうやら止めなかったのも付き人としての役目だったらしい。
「爺や、酷いわ!恥をかく前に止めてくれたって良かったじゃない!」
「人生とは、恥を重ねて積み上げていくモノなのです。恥のない人生では、ろくな最期を迎えません」
そんな説法されたって、納得できないのが若者。女性冒険者は、頬を膨らまして抗議の意を表す。
「しかし。爺やの目を以てしても、まさか林で迷子になるとは、予見できませんでした」
「そ、それも!爺やが早く帰り道を教えてくれれば済んだ話じゃない!」
「いえいえ、これもまた経験。身を以て失敗を経験すれば、後々活きてくるでしょう。もちろん、反省すれば、ですが」
「うう……」
自身の言い分を老人に聞き入れてもらえない女性冒険者は、老人の説法に理不尽さを感じて瞳を潤ませていた。
まぁ、恥をかきたくなかった女性冒険者の気持ちも分かるし、経験を積んでしっかり成長してほしいという老人の気持ちも分かる。
俺だって、こんな可愛い子にはあっさり死んでほしくない。
「あははははははははははは!!」
そして、若い女性冒険者を思う老人と俺の横で笑い続けるパース。
そろそろ女性冒険者に殴られても文句言えない。
「そんなに笑う事ですか?パースさん」
「いや、笑うでしょう!?あのマインズ家の末娘が、そんな面白い事してるんですから!くくくくくく」
面白いかどうかは賛同できないが、意外であるとは俺も感じていた。
そう、この女性冒険者、その正体はマインズ家の娘なのだ。ウィンやベアウの妹なのである。
「はぁ……。とりあえず、あの笑いがしばらく収まりそうにない人は放っておいて。旅を共にするのです。改めて自己紹介をしましょう。俺はラビリンシア王より勇者の称号を頂いております、テノールと申します。よろしくお願いします」
「は、はい!私はカウ・マインズ!ラビリンシア王家に長く仕えるマインズ家、その次女です!見聞を広めるべく、冒険者になりました!」
「私めはサーヴァン。マインズ家で執事を勤めさせていただいた者ですが、先日に執事は退職しまして、このようにカウお嬢様と冒険者をしております。この度は馬車に同乗させていただき、真にありがとうございます」
親交を深めるべく、改めてそれぞれの名前を告げれば、そのついでにサーヴァンがパースへと感謝の意を伝えるべく頭を下げた。
「くく……。いやぁ、そう
パースが取引的な物言いをしているが、それが俺たちの本意だった。
2人で回している見張りだが、有事への対応力は心許ないのだ。
なんせ、魔物か盗賊かに襲われたら、即応できるは見張りに立っていた1人。
寝ている方を起こすにしても、起こしてから完全に覚醒して本調子になるまでの時間が取られる。
そういう観点から、2人旅というのはあまり推奨できないのである。
「つまり、利害の一致という事ですね!」
「そういう事です。ですので、見張りとか頑張ってくれればそれで構いません」
「はい!頑張ります!」
素直に元気な返事をする辺り、まさにマインズ家だ。ウィンやベアウによく似ている。
「一応、私の方からも自己紹介を。私はラビリンシア王立近衛兵で4番隊の隊長、それと今回の旅の御者を勤めております、パースと言います。以後、お見知りおきを」
笑っていた分、良い印象を稼ぎに来たか。
「よ、4番隊隊長!?王へと物資輸送の専門部隊設立を嘆願した、あのパース隊長ですか!?」
カウがパースの名に驚いているが、いや、待て。
4番隊設立は約50年前だ。
とすると、20代後半のように若々しい外見である目の前の男は、いったい何歳なのだ。
「期待させてしまっているところ申し訳ないのですが、それは初代パースですね。私は2代目です。4番隊は隊長に就任すると、その就任した者がパースの名を受け継ぐようになってるんですよねぇ」
「なんだ、そうでしたか」
馬の行く道を真っすぐ見据えているパースはそんな拍子抜けする真実を明かし、カウの肩を落とさせた。
俺は特に期待も落胆もしない。むしろ、パースが50歳以上ではないという事に一安心だ。
これで50越えていたら魔物の類である。まずもって常人ではない。
「紛らわしくてすみませんねぇ。初代がそんな意味不明の規律にしたものでして」
先代の変人さを謝るも、パースは顔をこちらに向けなかった。
意味不明と称する辺り、パースにもその規律に思うところがあるのかもしれない。
とかく、自己紹介はこれで終わり。
その後も歓談を続けながら、馬車は着実にホーオへと進んでいくのだった。