100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第五節 元農民テノールの実力

「始め!」

 

 セイザーの合図を受け、俺もウィンも砂煙が立つ程に初手の踏み込みへ力を込める。

 お互い俊足の踏み込みであり、すぐに衝突。鍔迫り合いになった。

 

(やっぱり、副隊長となれば素の力も馬鹿にできないな……!)

 

 魔力で肉体強化もしていない剣の押し合いだが、俺はウィンに押し負けており、徐々に剣が俺へと迫っている。

 このままでは(まず)いので、相手の力に弾き飛ばされる要領で無理にでも距離を開けた。

 

(ふーん、そんくらいはできるようになったか。元農民にしては頑張ってるじゃねぇの)

(お前に褒められても嬉しくない!お前のせいで鍛えるしかなくなったんだからな!)

 

 聖剣に触れればエクスカリバーに体を乗っ取られる訳だが、聖剣に触れていない、体を乗っ取られていない時はもちろん俺に体の主導権がある。

 当然の話になるが、乗っ取られていない時は俺が頑張らなければいけないのだ。

 だから、乗っ取られていない普段も勇者の力を疑われぬように、俺自身が強くなるしかない。厄介な事だ。

 

「肉体強化を使っても構いませんよ?」

 

 クッソ、マジ純粋に不思議がられた。嫌味が全く混じってないんだから質が悪い。

 

「これは模擬戦ですので。あれらは悪しきを裁くための力です」

 

 まだ肉体強化すら上手くできないとは口が裂けても言えない。

 

(アホかよ前言取り消すわぁ!もっと頑張れ元農民すぁん!)

 

 腰に下がっている駄剣を今すぐに叩き折りたい。

 

「そうですか。それは残念です!」

「くっ」

 

 開けたはずの距離が一瞬に詰められた。

 初撃はどうにか剣を添わせて逸らすが、ウィンの追撃は即座に放たれる。

 それを逸らしても次の追撃。ウィンの猛攻が始まっていた。

 

(腕がっ……、持たんっ……)

 

 一撃一撃が重いのに隙がない連撃。逸らすだけでも衝撃が腕に響き、耐え難い痛みを与えている。

 

「貰った!」

「なっ」

 

 俺の逸らしがわずかに緩んだところを、ことさら重いウィンの一撃が襲う。

 俺は衝撃に耐えきれず、俺の手にあったはずの木剣が宙を舞った。

 

「一本、ですね」

 

 俺の首直前で木剣を止め、ウィンは不敵な笑みを浮かべる。

 相手が爽やかすぎて悔しさもない。

 俺は両手を上げて降参を示した。

 周りから小さくも歓声が上がる。

 

「全力でないのは惜しいですが、大変素晴らしい試合でした」

 

 嫌味の一つくらい言えよ!やりづらいだろ!苦笑しか返せねぇぞ!

 

「おや、これは……。まさか勇者様が負けてしまうとは……。まさかまさか、手加減のしすぎではありませんか?」

 

 で、セイザーが嫌味を言うのね。こういうので良いんだよ、こういうので。

 

「はは……。聖剣を使わなければ、ただの農民と変わりありませんので」

 

「テノール殿は聖剣ありきの勇者であると?これはこれは、聖剣エクスカリバーの選定に何やら不具合があったやもしれませんね。もしや、聖剣自体が壊れているのではないでしょうか?」

 

(なんだぁ、テメェ……)

 

 セイザーの嫌味が理不尽にもエクスカリバーの逆鱗に触れた。

 

(誰が壊れてるだぁクソガキィ!こちとら単身で魔王の下に辿り着いた凄腕剣士だぞ!石っころに変える呪い使う程魔王が俺を恐れたんだぞ!)

 

 石に変えられた後、その石が上質な金属鉱石だったので、時の鍛冶師に剣として打たれたという経歴を持つ少女。そんな少女の思念体が聞こえる訳のない怒号を飛ばしている。

 まず魔王に単身挑もうとする思考回路が壊れているし、その奇妙な経歴もある意味壊れている。

 

(久々にキレちまったぜ……。ちょい体貸せよ)

(あの嫌味な男を叩きのめしたいって言うなら、俺も体を貸すのはやぶさかじゃない。お膳立てはしといてやるから、羽目を外し過ぎるなよ)

(言われるまでもねぇ。頭に血が上ったとはいえ、お前への嫌がらせを忘れる程馬鹿じゃねぇよ)

 

 嫌がらせのためだけに厳格な勇者を装うくらい馬鹿なのだから、頭に血が上るだけでそれを忘れるくらい馬鹿であってほしかった。

 ともかく俺も叶わぬ祈りを捧げ続ける程馬鹿ではないので、さっさとお膳立てに取りかかる。

 

「確かに。これでは聖剣の勇者として示しが付きませんね。万民の平穏を願う者として、それは避けねばいけない」

 

 俺は聖剣の鞘に手を置く。

 近衛兵、セイザーも含めて周りは固唾を呑んだ。

 

「セイザー隊長殿、お相手を願いたい。近衛兵1番隊隊長を任せられている貴方なら、俺も聖剣を抜きましょう」

 

 隊長である実力を認めながら、「隊長まで昇りつめた男が逃げる訳ないよな?」と言外に表現した。

 言外の表現もしっかり受け取ってくれたようで、セイザーは逃げたくても逃げられないと、苦々しく歯噛みしている。(ざま)ぁない。

 

「……良いでしょう。このセイザーがお相手仕りましょう」

 

 苦渋の選択を終え、セイザーは渋々と俺に相対する。

 剣を構える様は弱卒でも分かる程隙がない。

 相手の準備が済んだところで、俺は聖剣の柄を握った。

 

(頼んだぞ)

(あいよ)

 

 俺の体の主導権がエクスカリバーへと切り替わる。

 俺が望まずとも、エクスカリバーが聖剣の姿を露にさせた。

 

「では……。参る!」

 

 気迫を漲らせたエクスカリバーが、地面を抉った。




〈用語解説〉
『肉体強化』
…魔術でも初歩の初歩。魔術式も必要ないただの魔力操作。魔力を体中に巡らせる事で、身体能力を強化する。極めた者は自身の五感や治癒能力すら強化できるらしい。
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