100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十四節 種明かし

 マニに逃げられてしまった俺たちは追う事を諦め、テナーの意向で賞金首とする事に決まった。

 ついでに、マニの資産は全部領主であるテナーが押収し、後に奴隷だった者たちを解放する。

 帰る場所がある者は領主の手によって送り届け、そうでない者は親父が住む場所と仕事を与える予定だ。

 住む場所の確保という事で、親父がマニの土地をいくつか貰い受ける手はずにさりげなくなっていた。

 その中に親父が以前から借りていた土地も含まれている辺り、さすがは俺の親父である。

 

 という事で、別に捕縛を急がなくて良いマニは後回し。

 現在はエメラルド・タブレットの方を聴取している。

 

「どこからお話しすべきでしょうね」

 

 当の本人、バリトンの侍女は暢気にバリトン邸を歩きながら聴取を受けていた。

 氷漬けの侍女たちを解放しなければならないと、こんな状態に仕方なくなっている。

 

「色々訊きたいところですが。じゃあまず、この侍女たちはホムンクルスなんですか?」

「そうです、これらは全て私が製造したホムンクルスになります。正確には、ご主人様の手を借りたこの最初の1体は別になりますが」

 

 パースの質問に応えつつ、侍女は氷柱を融かしていた。

 それが最初の1体。金髪に翡翠(ひすい)色の瞳を持つ侍女。対外的にエメラと呼ばれていたホムンクルスだ。

 侍女は解凍し終えると急に倒れ、代わりにその金髪緑目の侍女が起き上がる。

 

「やはり、こちらの方が馴染みますね。それでは、貴女は他の解凍を続けてください」

 

 金髪緑目の侍女が倒れている侍女に指示を出せば、何事もなかったように立ち上がり、一礼してから他の氷柱へと向かった。

 ていうか、色々とややこしくなってきたな。

 

「どれをエメラと呼べば?」

「この私をエメラとお呼びください、お坊ちゃま。先程他の氷柱へと向かった個体はエイでございます」

「……他の侍女たちは?」

「ビイ、シイ、デイ、イー、エフ……。面倒ですね、全員集まった際にまとめてご紹介します」

 

 一応、個体ごとに名前は付いていたらしい。

 

「えーとぉ、改めて訊くのはなんですが。どういう仕組みなんです?このホムンクルスたち」

「全個体がエメラルド・タブレットの魂を受け入れられるように調整されております。同時に、全個体が私、エメラに制御されているだけで、どれも自意識は存在しません」

 

 つまり、ホムンクルスの侍女全員はエメラが操っているだけだという話。

 視覚や聴覚などの五感も共有していそうだ。

 

「まぁ、ホムンクルスって元より自我がないですからねぇ」

 

 そうだったのか。パースは知っていたようだが、俺は割と初めて知った。

 だから、都合の良い労働力を作れそうなモノなのに広まっていないのか。

 

「人格の形成を試みた者は居たそうだが。それよりだ、エメラ。どのようにしてマニを嵌めたのだ」

「まず、エイをマニ様の所に遣わし、バリトンの侍女らは奴隷であると嘘を伝えました」

 

 親父はマニにかけた罠の詳細が気になっていたようで、詳細の報告を願えばエメラは率直に報告し始める。

 

「ふむ。それで奴の奴隷売買契約書を、ありもしない私のそれに見せかけたと」

「はい。マニ様の執務室に待機させていただいている間、マニ様の契約書を拝借させていただきました。隠し場所は予想しておりましたので、発見には時間をかけておりません」

 

 重要書類の隠し場所を予想して当てるとは、なんとも末恐ろしい事だ。

 

「それから、ご主人様のご不在時を見計らい、あたかもご主人様の契約書を盗んできたように偽装しました」

「それが、あの氷漬けの数々だったと……」

 

 無事というのも怪しいので、ご主人の名誉を守ろうとしたエメラとご主人からの解放を願った侍女たちで争ったような跡を残したようだ。

 そこまでするのかと、俺は呆れてしまった。

 狡猾にも程がある。

 

「その後は皆様もご存知の通りでございます」

「待て、私の手から宝石板を奪った理由が報告されてない」

「その必要がないかと思いまして。だって、あれはご主人様の慌てふためく様子を楽しみたかっただけですから」

「貴様……」

 

 美人なんだが、エメラは随分と性格が悪いみたいだ。

 物に宿っている魂はろくな奴が居ないな。

 

(おい、なんでこっち見た)

 

 いや、特には。

 

「そもそも、こんな曰く付きの品をいったいどこで手に入れたんですか?所有者が破滅する伝説もありますが、授けられる英知を有難がって、手放さない人は案外多いそうですけどね」

 

 次の聴取はパースからバリトンに対して。

 貴重であり有益な宝石板だから、確かに手に入れるのは難しそうで、親父の手に渡るような代物ではない。

 

「手に入れた時期は以前言った通りの年、妻が死んだ年だ。あの年にイーストイナッカノ農村の水道が壊れたままになっていた時期があった」

 

 前領主の悪政全盛期か。

 あの領主は修理費を惜しんで、中々水道を直してくれなかったんだよな。

 

「水の確保に川まで行った時だ。質の良さそうな服を纏いながら酷い有様となっていた死体が、川辺に打ち上げられていた。その死体の身元が分かる物はないかと、私は漁ったのだ」

「あー、その人が前の所有者だったんですね」

「そうだ、その死体は大事そうに翠玉(すいぎょく)の宝石板を抱えていた。それがエメラルド・タブレットだった」

 

 伝説にある、約束された破滅。その破滅を迎えた者の末路に、親父は居合わせた訳だ。

 どんな奇跡だ。

 

「なるほどなるほど、理解しましたよ。それから成り上がり、今も貴方は破滅していないと」

「こいつの扱いには細心の注意を払っているつもりだ。甘言には絶対乗らないようにしている」

「甘言だなんて人聞きが悪い。私はご主人様のために助言させていただいているだけです」

「……これは怖いですねぇ」

 

 美麗で妖艶な笑顔を顔に貼り付けるエメラ。

 優れた詐欺の手口を垣間見て、パースも怖さを実感していた。

 こんな美人に言い寄られれば、余程の忍耐がない限り耐えられない。

 

「最悪の場合に備え、この宝石板を壊す用意はしてある」

「はーはーはー……。これはそのまま持っててもらった方が良いですかねぇ」

「元よりそのつもりだ」

 

 諸悪の根源を断つ準備があり、そして今なおエメラの言い寄りに親父は耐えている。

 これ程の適任者は居ないと、パースは親父に持たせておく事にし、親父も快諾するのだった。

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