100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十五節 こうして話は盛られてく

「報告します。凶兆と思しき魔物、通常個体に比べて十数倍の体積を持つスライムは、勇者テノール含む数名によって討伐されました」

 

 国王の執務室にて、ケイヴェはバーニン国王へと凶兆の結末を報告していた。

 『アフターバーナー』で飛ばして帰還し、その討伐の日から1日しか経過していないという迅速行動である。

 

「数名の内約は?」

「マインズ家次女カウ、マインズ家元侍従サーヴァン。その他2名の3級冒険者です」

「ふむ?」

 

 バーニン王はその報告を訝しんだ。

 ケイヴェは基本的に包み隠さず報告する人間である。

 ならば、その他2名の名前を隠す訳はない。

 

「申し訳ありません。その2名は討伐の対価に名を伏せる事を希望されていたため、現状は開示の許可不許可を判断できません。この判断は4番隊隊長パースに委ねています」

 

 領主からも国王からも対価を貰わず、代わりの対価を希望した事。

 これがケイヴェへの口封じとなっている。

 本来なら、そんな約束事を反故にして、国王へと伝えるべきだ。

 しかし、仕事人間であるケイヴェでも、約束を守る人間性は保っている。

 と言っても、国王が開示を命令すれば、ケイヴェは仕事を優先してあの2人の名前を明かすだろう。

 

「そうか。では、パースの判断を待つとしよう」

 

 だとしても、無理強いをしないのがこの国王である。

 副隊長では判断が難しい案件であると考慮したのもあるが、どちらかと言うと、バーニンの人情故だ。

 

「して、被害は?」

 

 気になる2名はさておき、被害によっては国から補助を出さなければいけない観点から、被害の度合いをバーニンは訊ねた。

 ケイヴェとパースを加えたとして7人の討伐隊。被害がなかったとは到底思えない。

 

「かのスライムが水源にて水を吸収していたため、トータン領を横断する川の水位減少が確認されております。トータン領全体で多少の水不足が発生する恐れがありますが、水生成魔道具で充分補えるでしょう」

「……それだけか?」

「はっ。水源の山と東の都ホーオを結ぶ街道に被害はありますが、軽微です。人的被害はありません」

「……」

 

 バーニンの予想を裏切って、被害は皆無に等しかった。

 嬉しくはあるが、同時に恐ろしくもある。

 何故そのような事が成し遂げられたのか、バーニンには全く推測できないのだ。

 

「今回の凶兆に直接関係はない事ですが、被害を抑えられた要因と思われる事があります。報告しても構いませんか?」

「……構わない。続けたまえ」

 

 推測もできない事が浮かんだところで、ケイヴェの追加報告。

 自身の恐怖心が払えるかもしれないと、バーニンは先を促した。

 

「凶兆の予言を隊長パースに伝える前から、勇者テノールは行動を起こしていました」

「行動?」

「かのスライムの住処、川の水源へと目指しており、拙が勇者テノールと合流した時点で交戦しておりました」

「なんと!」

 

 バーニンは驚嘆した。

 またもやあの勇者のおかげなのだと、バーニンは察したのだ。

 直感か、はたまた未来予知か。予言より早く誰よりも最前線に至っている勇者。

 しかもだ、脅威の度合いが不明にも拘らず、己の身を危険地帯へ投げ打つ。

 そんな事が果たして常人に可能だろうか。

 いいや、不可能だ。

 危険を察知したなら遠ざかろうとするのが生物の本能。

 勇者テノールはその本能に逆らって、万民の平和へと導いていく。

 

「その先だった行動により、被害は軽微で済んだのではないかと」

 

 ケイヴェはあくまで1つの仮説として語っているが、バーニンは定説として捉える。

 全てはあの勇者の功績であると、バーニンは内心テノールを称えていた。

 誤解なのだが、誤解したままの方が幸せだろう。

 

「報告は以上です。詳細につきましては書面の方にしたためさせていただきます」

「分かった。下がれ」

「失礼します」

 

 この場での役目を終えたケイヴェはバーニンの許しを得て、一礼してから退出した。

 

 バーニンは己以外居ない執務室で、ケイヴェの報告を反芻する。

 

「予言者殿の予言を聞く前に行動……。事前に知っていた、か……」

 

 テノールの行動に疑問点が残っており、バーニンは頭を悩ませていた。

 予言者と同じ未来予知の力を持っている、というのはあまりに短絡的な結論である。

 

(未来予知の力があるのだとしたら、あの予言者以上ですものね)

 

 バーニン以外人間は居ないが、魂はあった。

 バーニンの傍に控え続ける魂、カリバーンが彼の悩みに付き合う。

 

(予言者以上とは?)

(だってそうじゃない?もし知っていて行動を起こしたと言うならば、帰郷の時点で知っていた事になるわよ?)

 

 バーニンははっとする。

 言われてみればそうだ。

 テノールは突然に帰郷するための暇を貰いに来た。

 その休暇申請は、未来予知で知った凶兆へ早期の対応をするための口実だった事になりかねない。

 それはつまり、テノールが旅立った後に予言した予言者よりも、早く未来を予知した事になる。

 

(偶然、と片付けるにもできすぎているわよね)

(では、勇者テノールは未来予知ができると?)

 

 偶然でないなら、そんな短絡的な結論に戻ってきてしまう。

 しかし、未来予知とは稀有どころではない力だ。

 有史以来、真に予言者であるとされるのはアロンズ・エームリッスのみである。

 

(導かれているのではないかしら)

(……何に)

(神に。『始まりの六柱』を遣わしたとされる、この世界の創造神に)

 

 カリバーンの推理は俄かに信じられるモノではないが、しかし、完全に否定できるモノではなかった。

 その推理を真実であると、バーニンは思い込んでしまうのだった。

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