100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三章~神のお導き~
プロローグ 探しモノ


「はぁ……」

 

 とある男が、オークの死体に腰かけながら沈鬱な気持ちに溺れていた。

 気晴らしに冒険者依頼を受け、達成したのまでは良かったのだ。

 しかし、そうして仕事が終わってしまうと、仕事に集中してどうにか頭の隅に追いやっていた悩みの種が表出してきてしまった。

 だから、男は依頼達成の報告もせず、依頼の討伐対象だったオークに腰かけたままで居るのだ。

 

「あぁ……。こんな事なら、ダンジョン探索依頼なんて受けるんじゃなかった……」

 

 少し前に受けたダンジョン探索に起因する事が、男の悩みだった。

 

「なんだって、俺に最上位回復薬なんぞ使うかなぁ……」

 

 男の名はリカルド。レヴィ・ガーンのダンジョン探索依頼における、唯一の生存者である。

 そして、パースに有無を言わさず最上位回復薬を使われ、情報を洗いざらい吐かなくてはいけなくなった、悲しい男でもある。

 

「くそぉ……。あの野郎、絶対知ってて使っただろ……。これだから王立近衛兵4番隊は嫌なんだよぉ……」

 

 洗いざらい吐かされたリカルドは、4番隊という情報収集部隊に悪態をついた。

 ちなみに、似たような悪態をもう5回はついている。

 

「あのパースって野郎、俺が貴族の出だって絶対知ってたもんなぁ……」

 

 そう。この男、実はカウ・マインズと似たように貴族の出である。

 しかし、カウとは違って身分を隠していた。

 それなのに、パースには見抜かれてしまったのだ。

 

「デュランダルの事も吐いちゃったもんなぁ……」

 

 ナンタンのとある貴族が、新しい勇者を擁立するために探している聖剣。

 『武神エフエフ』より与えられし伝説の武器、デュランダル。

 リカルドはその聖剣を追い求める1人でありながら、上述したとある貴族の動向をパースに語ってしまったのである。

 

「どう言い訳したもんかなぁ……」

 

 そんな秘密を漏らす失態を犯したのが、リカルドの悩みの種なのだ。

 リカルドはそのとある貴族に頼まれ、聖剣を追い求めている。

 とある貴族である依頼主へ、この失態を報告せねばならない。

 ならないのだが、何かしらの罰が下るのは確実だ。

 せめて減刑できないかと、良い言い訳をリカルドは考えているのである。

 それで、考える時間を得るため、ついでに路銀稼ぎのため、簡単な冒険者依頼をこなしていた。

 そうして、聖剣デュランダルの依頼主の元へ、ゆっくり向かっている。

 

「でもまぁ、最重要な部分はどうにか隠し通せたからな……」

 

 リカルドは腰の長剣、その柄を撫でた。

 その長剣は布を何重にも巻き付けられ、すぐに戦闘で使える状態ではない。

 

「お前を直せる鍛冶師は、どこに居る事やら……」

 

 だが、その状態で問題なかった。

 その長剣はリカルドの得物ではない。

 また、元々折れているため、使い物にならないのだ。

 

「随分と探し回ったが、全然居ないもんだな」

 

 冒険者としての自由な身の上を利用し、ラビリンシア王国の方々で鍛冶師に当たった。

 当たったが、誰1人として手を付けられた者は居ない。

 長剣の刀身をお披露目した瞬間に『修理は無理だ』と突き返される。

 突き返されるならまだ良いが、『少し調べさせてもらえませんか?』と長剣の製造技術をただ盗まれそうにもなった。

 

「ま、多少調べた程度で技術を盗めるとは、全く思えないがな」

 

 ここまで方々の鍛冶師に当たって、修理すら不可能なのだ。

 調べて複製できるなら、むしろやってみてほしいと、リカルドは皮肉に笑った。

 さらに壊されては敵わないので、実際に調べさせる事はないが。

 

「そろそろラビリンシア内では諦めて、ドワーフの国に行ってみるべきかぁ」

 

 小柄なのに力が強く、小柄故に繊細な作業もできるという種族、ドワーフ。

 その種族柄、ドワーフには鍛冶師として優れた者が多い。

 ヒューマンで駄目だったのだから、ドワーフに望みを託すべきだろう。

 リカルドは、次の目的地をドワーフの国とした。

 

「……その前に謝りに行かなきゃなぁ」

 

 次の目的地を決めたところで、その前に行かねばならない所の話に戻る。

 最優先は聖剣デュランダルの依頼主が居るナンタンの都、リチョーシなのだ。

 

「はぁ……。仕方ない、謝らないとより酷い仕打ちを受けそうだ……」

 

 リカルドは凄惨な罰を避けるために、重い腰を上げた。

 とりあえずは、オーク討伐依頼の成功報告である。

 冒険者依頼を受けた冒険者組合へと、足を進めた。

 その時だ。

 

「ひえーーーーーーーーー!!」

 

 遠くから悲鳴が響いた。

 リカルドは悲鳴の発生先に視線を移し、発生源を視認する。

 

「ブラックドッグの群れ……。馬車が襲われてるのか」

 

 発生源は馬車を運転する女性。

 その女性が狼に似た姿の魔物、ブラックドッグの群れに追いかけられていた。

 戯れている、なんて楽しそうな状態ではない。

 女性は必死に逃げようとしている。

 

「やるしかないか」

 

 リカルドは長剣、本当の得物であるブロードソードを抜いた。

 間に合うかどうかは微妙だ。

 それでもリカルドは駆けだした。

 目の前で死なれるのは気分が悪いと、己の意思に従ったのだ。

 

「だ、誰か!助けてくださーーーい!」

「おう!」

 

 女性の叫びに応え、リカルドはまず1体を切り伏せた。

 

「え、あ、本当に助けが……?」

「死期を悟った時の救援に驚く気持ちは分かるけど。もうちょっと喜んでほしい、なっと!」

 

 呆然とする女性に文句を言いながら、リカルドはさらにもう1体を突き刺す。

 ブラックドッグらは殺された仲間の敵討ちか、はたまた闘争本能か、標的をリカルドへと変更した。

 リカルドを中心とし、ブラックドッグが囲い込む。

 

「それそれどうした。吠えてるだけの犬か?お前らは」

 

 リカルドの安い挑発に煽られ、我慢できなくなった1体が躍り出る。

 

「忍耐強く生きてかないとな。じゃないと死ぬだけだ」

 

 飛び掛かってくるその個体を、リカルドは擦れ違うように避けながら切り裂いた。

 その切り裂くために剣を振った直後、背後から1体が駆け寄ってくる。

 

「読めてるんだよ、獣共!」

 

 それを感じ取ったリカルドは振った勢いを殺しきらず、そのまま背後にまで剣を振り抜いた。

 その斬撃であえなくまた1体か狩られる。

 続いては2体同時、左右から襲い掛かってきた。

 

「残念でした、と!」

 

 リカルドは跳ね、彼らの牙から自身を逃がす。

 ところが、突っ込んできたのは1体。

 1体は速度を緩め、リカルドが地面から足を離す機会を窺っていた。

 狙っていた好機を逃がさず、その1体が牙を剥く。

 

「このくらい対応できないとな、3級はやってけないんだよ!」

 

 足元のブラックドッグを踏み台にし、リカルドはさらに上へ。

 空中へ向けたブラックドッグの攻撃は、宛てもなくまさに空を切った。

 そして、リカルドは己の体重も加えた一撃で、2体まとめて切り裂く。

 

「ふぅ、お疲れ様」

 

 ブラッグドッグの群れは、リカルドの手によって全滅させられた。

 全滅させた当の本人は額の汗を拭うかのように、1滴も汗の浮いていない額を擦る。

 油断できる状態ではなかったが、決して難しい戦いではなかったのだ。

 

「た、助けていただいて、ありがとうございます」

「いやいや、女性を助けるのは男の務めなのでね」

 

 しっかりお礼を伝えに来てくれた女性。

 リカルドは快く感謝の言葉だけを貰おうとした。

 したのだが、それでは終わらない。

 

「お礼と言ってはなんですが。その腰に下げている剣、ボクに直させてください」

「……ん?」

 

 リカルドはつい呆けた。

 折れている事など見ただけでは判別できないはずの剣を、女性は指差して『直させてください』と申し出たのである。

 

「というかさっさと直させろ。さっきから剣の泣き声が煩いんだよ」

 

 その女性の発言でリカルドは察した。

 異常者に捕まってしまったと。

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