100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第六節 勇者テノールの実力

 セイザーとの模擬戦、エクスカリバーに体を乗っ取られた事でエクスカリバーが俺の体を動かす。

 魔力操作も完全にエクスカリバーに主導権があり、魔力操作、魔術行使の技量はエクスカリバーに依存する。

 それにより、俺は魔力操作が下手で魔術の初歩とされている肉体強化すらできなくとも、エクスカリバーは俺の魔力で肉体強化ができる。

 それで、エクスカリバーが肉体強化した結果の踏み込みが、地面を抉った程の踏み込みである。

 

「ぐっ!」

 

 光すら置き去りにするような踏み込みでのエクスカリバーの初撃。しかしセイザーのガードは間に合っていた。

 伊達に近衛兵1番隊隊長ではないという訳だ。

 

「このように、オレも肉体強化を使いますので憂いなくお相手ください」

「くっ、くふふ……。では、遠慮なく!」

 

 安い挑発の売り買い。エクスカリバーの煽りを受け、セイザーも肉体強化をした。

 押し負けていた鍔迫り合いをセイザーは互角まで押し戻し、さらにはエクスカリバーを弾き飛ばす。

 残念ながら、弾き飛ばされたのはエクスカリバーの演技だ。

 ウィン戦の焼き直しでもしたいのか。

 

「見事ですよ、セイザー隊長殿。オレの全力を耐えたのは貴方で二人目だ」

 

 一人目誰だよ。そもそも全力じゃなかったろ。なんかそれっぽい事言って格好つけるな。

 

「余裕で居られるのもここまでだ!詠唱破棄、『ライトニング』!」

 

 近接戦闘を主とする1番隊隊長の、まさかの詠唱破棄雷魔術。落雷がエクスカリバーに降りかかろうとしていた。

 だが、何ら問題はない。

 

「ふん!」

「なっ!?」

 

 初級の攻撃魔術程度、エクスカリバーは切れるからだ。

 剣に纏わせた魔力で魔術発動に使われている魔力を乱す『魔術式崩壊』。言葉にすれば難しくはないが、魔力操作の高い技量を求められる。

 エクスカリバーは魔力操作において、何者よりも優れた技量を持っているのだ。

 生前の少ない保有魔力量を補うために弛まぬ努力を続けたとか。

 

「ま、『魔術式崩壊』で雷魔術を!?そんな馬鹿な!」

 

 セイザーの驚きは俺にも理解できる。

 雷魔術のほとんどは発動から直撃まで間がとても短い。初級である『ライトニング』も然り。

 だから、『魔術式崩壊』で雷魔術を切る者はそうそう居ない。

 ただでさえ軌道を読む暇もないのに、『魔術式崩壊』を失敗したら直撃するのだ。

 大きく回避しなければいけないにしても、そっちの方がはるかに簡単で危険がない。

 では、エクスカリバーは何故そんな事をしたかと言うと、おそらくセイザーの鼻を明かしたかったからだ。

 願いが叶って良かったな。

 

「これが、聖剣エクスカリバーの加護です。聖剣はオレに戦いの一手先を見る力を与えてくれているのですよ」

 

 エクスカリバーが誇らしげに語っているが、大嘘である。

 エクスカリバーは直感で相手の次の行動を当てているだけだ。

 生前で行った幾億の戦闘経験によるモノだとか。

 幾億ってのが出任せじゃなかったらお前戦闘狂だからな。

 

「聖剣エクスカリバーの伝説には、選定した勇者に傷を負わせなかったとある。その伝説の正体が、その先読みだと言うのか……」

 

「その通りです。聖剣エクスカリバー自体に鉄壁の防御もなければ不死が如き治癒力もありません。あるのはこの先読み。そして、見せた一手先に怯まぬ精神を持つ者こそ、聖剣エクスカリバーは勇者として選ぶのです」

 

 自身の選定が壊れてなかった事を言い繕いやがったぞ、こいつ。

 何が「怯まぬ精神を持つ者を選ぶ」だ。自身を抜こうとした100万人目って雑に選んだんだろうが。

 

 そもそもの話だが、聖剣エクスカリバーの伝説自体が嘘だ。

 エクスカリバーに聞かされたが、聖剣エクスカリバーの使い手となったのは俺が最初。勇者アルトが聖剣エクスカリバーを使っていたとされるのは、誤った伝聞なのだ。

 つまり、世に語られ、歴史にも記されている聖剣エクスカリバーの伝説は、全て偽りなのである。

 では、勇者アルトが使っていた聖剣は何なのか。

 俺はもちろん、エクスカリバーも知らない。

 

 まぁ、みんな聖剣エクスカリバーが勇者アルトの剣と信じて止まないし、俺もその嘘のおかげで勇者となったのだから、訂正しないのが世のため人のためだ。

 

「しかし、ならばこそ使い手に力を求める!落雷に怯まぬ精神力は認めるが、剣の腕は如何程に!」

 

 セイザーは搦め手を止め、切り込んでくる。

 

「ウィン殿との模擬戦で披露したでしょう。肉体強化を使って宜しいのでしたら、何者の剣でも逸らして御覧に入れましょう!」

 

 セイザーの剣はウィンよりわずかに軽いが、その質は圧倒的であった。

 一撃一撃に余分な動きがなく、フェイントも混ぜてくる。

 早くて賢い剣とでも評すべきか。

 少なくとも、俺なら確実に数回攻撃を貰っている事だろう。

 だが、余分な動きがなかろうがフェイントだろうが、エクスカリバーはお構いなしに直感で当て、全てを逸らしていく。

 もはや模擬戦ではなく剣劇だ。

 

「ぬぅ……!」

 

 セイザーの顔が険しくなり、焦りを滲ませている。

 振るう剣に影響しないのはさすがであるが、この守りを切り崩す一手がない以上は詰みである。

 

「では……。これで!」

「何!?」

 

 剣を逸らした瞬間、エクスカリバーはセイザーの腕を掴んで引き、セイザーの態勢を崩した。

 そんな軽い崩しなら態勢の立て直しは一瞬だが、その一瞬にエクスカリバーはとどめを打つ。

 

「詰みです、セイザー隊長殿」

 

 聖剣の刃がセイザーの首直前で止められていた。

 ここもウィン戦の焼き直しだろうか。

 いや、軽装とはいえ鎧装備相手への詰めとなれば、防具のない首を狙うのが妥当か。

 

「……降参です」

 

 その表情は苦渋に満ちていたが、セイザーは潔く剣を収めた。

 同時にエクスカリバーも聖剣を鞘に戻し、体の主導権が俺に戻る。

 模擬戦の終わりを察し、剣劇に相応しい拍手が周りから贈られた。

 

「何の騒ぎだ」

 

 静かでありながら拍手に潰れぬ声が訓練場に響く。

 

「ランテ総長殿!いつの間に!」

 

 声の発生源には今まで居なかったはずの男、近衛兵を束ねる近衛兵総長、ランテ・レートが立っていた事に、セイザーは目を見開いた。

 

「何の騒ぎだ」

 

 ランテは返事を催促するように再度同じ質問をした。

 この男、とにかく言葉にも存在感にも温度が感じられない。

 冷静、と言うよりは平坦。波一つない水面のような男である。

 

「ゆ、勇者殿を1番隊の訓練に招き、先程まで模擬戦を行っておりました」

「そうか」

 

 脅えながらも報告するセイザーに、ただ一言返すランテ。

 現状を知りたかっただけで、それさえ済めば関心はないのかもしれない。

 

「訓練終了後、会議を行う」

「了解しました」

 

 ランテは何事もなかったように自身の用件を進め、セイザーはほっとしながらそれを聞き届けた。

 他の近衛兵も隊長に倣うように訓練の片づけを行い始める。

 

「勇者殿」

「……何か御用ですか?」

 

 周りが慌ただしく動いている中、ランテはゆっくりと俺へ歩み寄る。

 正直怖い。

 

(安心しろ。オレも怖い)

 

 何も安心できない。

 

「感謝する」

 

 ランテは、その一言だけ言ってこの場を後にした。

 

「……は?」

(……感謝したかっただけみてぇだな)

 

 いや、うん……。

 

「勇者様!本日は訓練にお付き合いくださり、ありがとうございました!」

「あ、ああ。こちらこそ、訓練に交ぜてもらってありがとう」

 

 ベアウが片付けの合間を縫って、手本のような感謝を述べた。

 普通、こういうのって一番偉い人がする事ではなかろうか。

 いや、ランテには一言言われたし、セイザーやウィンにされてもあまり嬉しくないのだが。

 そう考えるなら、ベアウが適任かもしれない。ベアウの素直な感謝は俺の心を清らかにしてくれたのだから。

 これで女の子だったらなぁ。

 

(なんも清らかになってねぇぞ)

 

 純粋な少女に慕われる事を望むのは男の性。決して穢れではない。

 

「それでは、また後程!」

 

 ベアウは綺麗な一礼をしてから片付けに戻っていく。

 

「さて。俺も行かないとな」

 

 1番隊との合同訓練は、俺としては急用だ。

 俺の本日の予定は、旧知の友と会う事だけ。

 急用は済んだのだから、さっさと予定に取り掛かろう。

 

 そうして、俺は近衛兵3番隊隊舎へと足を向けるのだった。




〈用語解説〉
『魔術式崩壊』
…魔術と魔術が衝突した時、魔術を成す魔力が乱れ、魔術によってより起こされた事象が霧散する現象。魔力を帯びた武器による攻撃が魔術と衝突した時、上記と同じ現象を引き起こす事が確認されている。これは、武器が魔力を帯びた事で疑似的な魔術になっているのだとされている。
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