100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

74 / 221
第十一節 容疑者は黙して語らず

「ボクはムラマサ!何代目かは忘れたけど、ムラマサの名を継ぐ鍛冶師です!」

 

 寝ていた女性の第一声。

 それは実に迫真で、本人は大真面目だった。

 

「……」

「……」

 

 そんな女性に対し、リカルドと俺は非常に、表現が難しい表情を浮かべたのだった。

 表情の形容は難しいが、込められた思いは明快である。

 信じられないという、女性がした発言への疑いだ。

 

「なんですかなんですか!信じられないって言うんですか!?」

「いや、そうとしか言えんだろ」

 

 女性の抗議に、リカルドは素っ気なく返した。

 俺は彼に同意しかできない。

 

「えーっと……、君。伝説の鍛冶師を尊敬するのは良いが、名前を(かた)るのは良くない。鍛冶神信仰者には、ムラマサを神聖視する人も少なくないからね。不必要な不評を買うかもしれない」

 

 俺は紳士的に、彼女の危険な行為を制そうとした。

 身の丈に合わない称号というのは身を滅ぼす。

 

(なかなか面白い冗談だな。なぁ、勇者が身の丈に合ってない元農民君?)

 

 お前はちょっと黙ってろ。

 

「あくまでも信じないつもりなんですね」

「信じてほしいなら、せめて何代目かくらい覚えててくれよ」

「仕方ないじゃないですか。先代だって何代目か曖昧だったんですから」

「もう襲名制止めちまえ!」

 

 あまりにも雑な襲名制に、さすがのリカルドも吠えた。

 だが、至極もっともな意見である。

 代を重ねていくからこそ、名を継ぐ意味があるのだ。

 何代重ねたかも分からないなら、まさに形骸化している。

 というか、先代がこの子を騙していた可能性があるのではないか。

 そうなると、逆に哀れになってくるが。

 

「あの、貴女の本当の名前は?」

「ムラマサだって言ってるでしょう」

「……襲名する前の名前は?」

「そんなのありませんよ」

 

 ……捨て子か何かだったのか。

 そしてそんな無知な子供であるのを良い事に、先代と称された奴はこの子を騙したのか。

 俺の中ではもう同情心すら湧いてきている。

 

「……その、先代とか、周りの人からはなんて呼ばれてたんだ?」

「……カジキチとか、呼ばれてましたけど」

 

 『カジキチ』。込められた意味は不明だが、響きからして女性に付けるような名前ではない。

 この女性が女性らしいかという議論が始まると、論争になりそうだが。

 

「じゃあもうお前は『カジキチ』で良いだろ」

 

 リカルドの女性に対する扱いが非常に雑になってきた。

 かなり困らされ、鬱憤が溜まっているのか。

 

「良い訳ないでしょ!不名誉ですよ!」

「男っぽい名前で良く似合ってるじゃないか」

「今どこを見た!いったいどこを見て『良く似合ってる』と言った!」

 

 リカルドの視線は、女性の胸へ向けられていたように窺えた。

 そこには、女性らしい主張が一切ないのである。

 

「どいつもこいつも巨乳巨乳と!胸が小さいだけで何故女性と認められず、不当に(しいた)げられなければいけないんですか!」

「お前さんが女性と認められないのも、(しいた)げられてるのも、どっちかって言うと態度が原因だろうよ」

「女性らしさを学ぶ暇があるなら、鍛冶について学ぶ方が何倍も有意義です!」

 

 女性は典型的な鍛冶神信仰過激派だった。

 鍛冶以外を(ないがし)ろにしてきた者たち。

 彼女は間違いなくその者たちの一員であったのだ。

 

「ボクはもう怒りましたからね。貴方が直してくださいと頭を下げてくるまで、どこまでも追い回してやります!」

「あーはいはい。ご自由にどうぞ、鍛冶師ちゃん」

 

 怒りを露にしている女性に、リカルドは呆れていた。

 もう説得も追い払うのも諦め、彼女が諦めるのを待つようだ。

 

 唐突だが、『鍛冶師ちゃん』という呼び名は俺も採用しよう。

 いい加減、呼称に困っていたのだ。

 

「というか聞きそびれてましたが、どうやってその剣を折ったんですか!正直に白状しなさい!」

「俺だって知らないさ。随分前から折れてたらしいしな」

「ずっと折れたまま放置していたと!?」

 

 思い出したように気絶する前の追及を再びすれば、鍛冶師ちゃんにとって驚愕の事実を聞き出してしまった。

 壊れた武器がそのまま放置される。鍛冶師としては許しがたいだろう。

 

「どうしてそんな酷い事を!」

「知らないって。詳しく知りたきゃ、ナンタン領主にでも訊けよ」

 

 何か、聞き捨てならない事がリカルドの口から漏れた気がする。

 

「どうして、ナンタン領主がその折れた剣について知ってるんですか?」

「……あ」

 

 俺がその聞き捨てならない事を拾い上げてみれば、リカルドは明らかに呆けた。

 失言であると自覚したのだ。

 

「い、いや、まぁその、な?俺はナンタン領主と懇意にしててな?それで、個人的な依頼を受ける事もあるんだよな?」

「ほう。つまりその折れた剣については、ナンタン領主の依頼であると」

「……」

 

 言葉に窮したリカルドの顔に、汗が一筋流れた。

 1つの失態で冷静さを欠いた彼は、さらなる失態を演じてしまった訳だ。

 

「丁度、俺はナンタンに向かう用事があるんですよね?そこで、ナンタン領主に訊ねても構いませんか?後ろめたい事でないなら、構わないと思うのですが……」

「……」

 

 リカルドは俯き、口を閉ざした。

 だがその顔は、とても青かったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告