100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「ボクはムラマサ!何代目かは忘れたけど、ムラマサの名を継ぐ鍛冶師です!」
寝ていた女性の第一声。
それは実に迫真で、本人は大真面目だった。
「……」
「……」
そんな女性に対し、リカルドと俺は非常に、表現が難しい表情を浮かべたのだった。
表情の形容は難しいが、込められた思いは明快である。
信じられないという、女性がした発言への疑いだ。
「なんですかなんですか!信じられないって言うんですか!?」
「いや、そうとしか言えんだろ」
女性の抗議に、リカルドは素っ気なく返した。
俺は彼に同意しかできない。
「えーっと……、君。伝説の鍛冶師を尊敬するのは良いが、名前を
俺は紳士的に、彼女の危険な行為を制そうとした。
身の丈に合わない称号というのは身を滅ぼす。
(なかなか面白い冗談だな。なぁ、勇者が身の丈に合ってない元農民君?)
お前はちょっと黙ってろ。
「あくまでも信じないつもりなんですね」
「信じてほしいなら、せめて何代目かくらい覚えててくれよ」
「仕方ないじゃないですか。先代だって何代目か曖昧だったんですから」
「もう襲名制止めちまえ!」
あまりにも雑な襲名制に、さすがのリカルドも吠えた。
だが、至極もっともな意見である。
代を重ねていくからこそ、名を継ぐ意味があるのだ。
何代重ねたかも分からないなら、まさに形骸化している。
というか、先代がこの子を騙していた可能性があるのではないか。
そうなると、逆に哀れになってくるが。
「あの、貴女の本当の名前は?」
「ムラマサだって言ってるでしょう」
「……襲名する前の名前は?」
「そんなのありませんよ」
……捨て子か何かだったのか。
そしてそんな無知な子供であるのを良い事に、先代と称された奴はこの子を騙したのか。
俺の中ではもう同情心すら湧いてきている。
「……その、先代とか、周りの人からはなんて呼ばれてたんだ?」
「……カジキチとか、呼ばれてましたけど」
『カジキチ』。込められた意味は不明だが、響きからして女性に付けるような名前ではない。
この女性が女性らしいかという議論が始まると、論争になりそうだが。
「じゃあもうお前は『カジキチ』で良いだろ」
リカルドの女性に対する扱いが非常に雑になってきた。
かなり困らされ、鬱憤が溜まっているのか。
「良い訳ないでしょ!不名誉ですよ!」
「男っぽい名前で良く似合ってるじゃないか」
「今どこを見た!いったいどこを見て『良く似合ってる』と言った!」
リカルドの視線は、女性の胸へ向けられていたように窺えた。
そこには、女性らしい主張が一切ないのである。
「どいつもこいつも巨乳巨乳と!胸が小さいだけで何故女性と認められず、不当に
「お前さんが女性と認められないのも、
「女性らしさを学ぶ暇があるなら、鍛冶について学ぶ方が何倍も有意義です!」
女性は典型的な鍛冶神信仰過激派だった。
鍛冶以外を
彼女は間違いなくその者たちの一員であったのだ。
「ボクはもう怒りましたからね。貴方が直してくださいと頭を下げてくるまで、どこまでも追い回してやります!」
「あーはいはい。ご自由にどうぞ、鍛冶師ちゃん」
怒りを露にしている女性に、リカルドは呆れていた。
もう説得も追い払うのも諦め、彼女が諦めるのを待つようだ。
唐突だが、『鍛冶師ちゃん』という呼び名は俺も採用しよう。
いい加減、呼称に困っていたのだ。
「というか聞きそびれてましたが、どうやってその剣を折ったんですか!正直に白状しなさい!」
「俺だって知らないさ。随分前から折れてたらしいしな」
「ずっと折れたまま放置していたと!?」
思い出したように気絶する前の追及を再びすれば、鍛冶師ちゃんにとって驚愕の事実を聞き出してしまった。
壊れた武器がそのまま放置される。鍛冶師としては許しがたいだろう。
「どうしてそんな酷い事を!」
「知らないって。詳しく知りたきゃ、ナンタン領主にでも訊けよ」
何か、聞き捨てならない事がリカルドの口から漏れた気がする。
「どうして、ナンタン領主がその折れた剣について知ってるんですか?」
「……あ」
俺がその聞き捨てならない事を拾い上げてみれば、リカルドは明らかに呆けた。
失言であると自覚したのだ。
「い、いや、まぁその、な?俺はナンタン領主と懇意にしててな?それで、個人的な依頼を受ける事もあるんだよな?」
「ほう。つまりその折れた剣については、ナンタン領主の依頼であると」
「……」
言葉に窮したリカルドの顔に、汗が一筋流れた。
1つの失態で冷静さを欠いた彼は、さらなる失態を演じてしまった訳だ。
「丁度、俺はナンタンに向かう用事があるんですよね?そこで、ナンタン領主に訊ねても構いませんか?後ろめたい事でないなら、構わないと思うのですが……」
「……」
リカルドは俯き、口を閉ざした。
だがその顔は、とても青かったのだった。