100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第十八節 神の思し召し

 テノールたちがリチョーシに着いてから一夜明けた日。

 パースやローラが奴隷商の調査に動き始めているとなれば、マリーたちも動く頃合いである。

 

「さぁて、あたしたちも出発するわよぉ!」

「お待ちください、マリー隊長」

 

 マリーがサースイナッカノ農村への出発を意気込んだが、ニオに制されてしまった。

 サースイナッカノ農村にあるロスの魔道具を早く見つけたいマリー。

 マリーの心がそう()いているからこそ、ニオは制したのだ。

 

「護衛依頼を発注しております。定員が最低数を超えるまで、辛抱願います」

「護衛ぃ?何を護衛させるって言うの?」

「マリー隊長含む我々です」

 

 マリーの任務に同行しているのは、ブレンダとニオだけだ。

 この中で戦えるのはニオしか居ない。

 また、ニオではマリーとブレンダを守るには力不足だ。

 それ故の護衛依頼である。

 

「そんなの待っている暇があったら、少しでも前に進みましょう!」

「すでに発注済みですので、破棄にもそれなりの手間がかかります」

「融通が利かないわね。そもそも、何勝手に護衛依頼なんて出してるのかしら。あたしはそんな指示をしていないのだけど?」

 

 マリーは1分1秒でも惜しいのに、この時間浪費だ。

 その要因を作り出したニオに、マリーは睨みつけた。

 

「申し訳ありません。パース隊長より、マリー隊長の安全を重視にするよう、命令を受けておりますので。現在はマリー隊長の指揮下にありますが、命令の優先権は直属の上司であるパース隊長にあります」

「もう!そういうのが融通利かないって言うのよ!」

 

 マリーの睨みなど、パースのそれで耐性が付いているニオにはそよ風の如く。

 そんなニオの一切動じぬ様子に、マリーは怒りの声を上げた。

 これもまた、パースのに比べれば可愛らしいモノで、ニオが動じる事はない。

 

「ま、まぁ、マリー隊長。調査機材に傷を付ける訳にはいきませんから、護衛はそれらを守る必要機材だと……」

「……はぁ、……分かったわよ。4番隊は物資輸送の専門部隊。対して3番隊は研究馬鹿の集い。自身の専門以外の事は、専門家に任せるわよ」

 

 ブレンダが委縮しながらも説得にかかれば、マリーは己の馬鹿さ加減を省みた。

 ブレンダの意見は正しく、ニオは物資輸送の専門家なのだ。

 研究馬鹿であるマリーでも、正しい事は正しいと認識するだけの知性があるし、自身の専門外に口出しする程馬鹿でもない。

 

「ほら!依頼の定員を満たしてるか、さっさと確認に行くわよ!」

 

 それでもマリーはニオを急かし、冒険者組合リチョーシ支部へ向かった。

 

 冒険者組合リチョーシ支部には朝であるのも拘らず、少なくない冒険者が併設の酒場に姿を出している。

 この酒場で朝食をとる冒険者も居るし、朝一番から割の良い依頼を待ち構える冒険者も居るのだ。

 そんな中、マリーとブレンダは疎外感を覚えつつも、酒場で待機していた。

 依頼斡旋窓口の方では、ニオが冒険者組合員とやり取りしている。

 

「ユウダチ様、レオナルド様。いらっしゃいますか?」

 

 幾ばくかの後、組合員が冒険者の名を呼び出した。

 呼ばれた2人が護衛依頼の受注者だろう。

 冒険者が、おそらく呼び出された者たちが組合員の下まで訪れる。

 それからニオと2人の冒険者が話し出し、2人の冒険者が何やら頷いた。

 そうしたところで、マリーたちが居る席の方へと2人はニオに引きつられてくる。

 

「よう!アンタらが護衛対象だよな?」

「なるほど、見るからに研究員だな。なら護衛も必要だろう」

 

 弓に半棒、細剣にショーテルと呼ばれる湾曲剣、斧に大槌と、変わった装備の陽気な男。

 外套と尖った帽子に杖という魔術師らしい、どこか冷たい男。

 ニオたちは知らないが、彼らはトータンの凶兆解決に助力してくれたユウダチとレオナルドである。

 ユウダチの方は装備が以前と少し違うが。

 

「ニオ、この人たちが護衛の?」

「はい。求めた人員の最低数ですが、どちらも3級冒険者なので、道中の安全は確保できるかと」

「へぇー、3級の」

 

 一応、今回の護衛依頼は階級制限を5以上としてある。

 その制限を大幅に上回っている実力者だ。

 野営はしない予定であるし、人数が少なくても実力があるなら充分である。

 

「3級ならもっと良い依頼が受けられるんじゃない?そんなに良い報酬にしたのかしら」

 

 だが、マリーは疑問を抱いた。

 3級冒険者が釣れたという事は、それだけ彼らの実力に見合った報酬であるという事だ。

 そんな報酬が払える程、予算が多く下りた覚えはない。

 マリーが身銭を切った覚えもないとなれば、パースかニオが代わりに身銭を切った事になる。

 

「ああ、報酬の金銭は普通の護衛と変わんないけどな。俺たちはサースイナッカノ農村に向かう用事があるんだ。それで、サースイナッカノ農村まで護衛依頼があったらついでに受けようと思ってて、丁度あったって訳よ」

「賃貸馬車も宿も経費はそちらの負担になっている。報酬より、私たちにはそちらの方が魅力だっただけだ」

 

 ユウダチとレオナルドが惹かれたのは、報酬ではなく付加価値の方だった。

 

 移動費も積み重なれば多額となる。活動場所を転々とする類の冒険者ならなおさらだ。

 なら、その移動費を節約したい。もしくはせめて道中で稼ぎたい。

 そう考えるのが人間の精神である。

 ユウダチもレオナルドも漏れなくそう考えた。

 そんな彼らに舞い込んだのが、馬車も宿も依頼主負担の護衛依頼。

 目的地も自身らと合致している。

 幸運すぎる巡り合わせだが、その幸運を逃す手はない。

 依頼に明記されてない危険性があったとしても、自身らなら押し通れる。

 ユウダチとレオナルドはそういう結論に至ったのだ。

 

「なるほど、納得したわ。とにかく、そっちに文句がないならこっちにも文句はなし。さっさと出発しましょ」

「依頼の開始時刻が早まった事については、多少文句あるがな」

「まぁまぁ、レオナルド。こういう事も考慮して、早めに準備を済ませといたんだろ?その準備が無駄にならないで良かったじゃねぇか」

「……ふん」

 

 レオナルドが少し不機嫌ではあるが、契約は成立。護衛は開始となる。

 そうしてニオがレオナルドたちの分である馬車を借りてきて、運転はユウダチが務める形で乗り込む。

 ニオの運転する馬車が先を行き、ユウダチの運転する馬車が後を追うのだった。

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