100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「ようやくサースイナッカノ農村に着いたわよ!」
マリーは清々しい気持ちで声を上げた。
最初からこの村を目的地として出発したのだから、その喜びも一層大きいだろう。
ドラクルからリチョーシまで8日かけ、そのリチョーシから出発して3日目でサースイナッカノ農村に着いたのだ。
北の都から南の端へとは言え、今日も入れて約11日を費やしている。
これがこの世界の交通事情である。
「さぁさぁさぁ、森に行くわよ!森!」
そんな待ちに待ったマリーは、少年のように目を輝かせていた。
農村付近の森にあるだろうロスの魔道具を探す事。それはマリーにとって宝探しも同然であるからそうもなる。
「お待ちください、マリー隊長。安全を重視し、念のため件の森について聞き込みすべきでしょう」
「ニオ、あたしはもう充分すぎる程待ったわ。論文が書けてしまう程に待ったわ、実証実験してないから発表はできないけど。これ以上待つのは、あたしには無理よ!!」
慎重で落ち着きのある姿勢を示すニオ。
対し、マリーは大人げなく、己の忍耐力のなさを誇示した。
その発言には無駄に迫力がある。
「あの、マリー隊長……。さすがにニオさんに従うべきでは……。私たちだけでは安全の確保なんてできませんし」
「安全なんてぬるま湯に
ブレンダの意見にも、マリーは全く耳を貸さない。
これではどちらが隊長なのか分からない。
ある意味で、マリーは研究者集団の長らしくあるのだが。
とにかく、手に負えない状態となりつつある。
「なら、手分けしよう。私がブレンダたちの護衛、ユウダチがニオの護衛をすれば良い」
その状態で一筋の光となったのはレオナルド。
安全の確保が必要なら、護衛がしっかり付けば良いという、単純な結論である。
そして、より危険な方に、レオナルドは立候補した。
提案した責任として、負担の大きい方を背負おうとしているのだ。
「ふーん、そうかそうか。つまりそういう事なんだな、レオナル―――冷たい!?」
気味の悪い笑みを浮かべていたユウダチに、氷塊が襲い掛かった。
本来は
威力はあまりないが、邪推を防ぐには適当である。
「いきなり何すんだ!?」
「お前がくだらん事を抜かしかけていたのでな、親切にも止めてやっただけだ」
そんな魔術を急に撃ってきたレオナルドへ、ユウダチはもちろん抗議した。
しかし、レオナルドは当然の行いをしたまでと、平静に返したのだ。
「ご機嫌な雰囲気まとっておいて、なぁにが『くだらん事』だ。ブレンダ嬢ちゃんとの距離が近くなってるの、俺分かってんだからな!」
「護衛対象と良好な関係は望ましい事だろう」
「今までそんな気遣いした事ないじゃん。あれだろ、昨夜はお楽しみ―――冷たいって!2度も氷ぶつけたな!カジキチにもぶつけられた事ないのに!」
「ぶつけて何故悪い!一言余計なお前の悪癖を矯正してやろうとしているんだ!それと、あいつからは金槌をよくぶつけられてるだろ!」
ユウダチの抗議とレオナルドの反論は勢いを増し、いつの間にか喧嘩へと発展していた。
と言っても、レオナルドは魔術を加減しているし、ユウダチは胸倉を掴む程度に抑えている。
「じゃあ良いよ、お前となんか絶交だ!好きに嬢ちゃんの尻でも追っかけ―――冷たいから
「しばらくお別れだ。その内に、お前は頭を冷やしてこい」
「お前こそその偏屈を直し―――氷は卑怯!」
「ふん」
ユウダチが4度目の『アイシクル』を馬鹿正直に頭で受けた。
そうして氷塗れになったユウダチへと鼻を鳴らし、レオナルドはブレンダの傍に寄る。
「……そうですね。では、二手に別れましょう」
勝手に作戦を決定されたが、もはや口出しできそうにない。
仕方なく、ニオはレオナルドの提案を採用した。
ここからはマリー、ブレンダ、レオナルドの組と、ニオ、ユウダチの組で別行動となる。
「行くわよ、ブレンダ!森があたしを待ちわびているわ!」
「え、あ、はい」
マリーはレオナルドとユウダチの喧嘩など全く気にせず、己の目的に邁進する。
勢いに逆らえず、ブレンダは勇み足のマリーに付いていった。
レオナルドはその後ろに続く。
そこで、ブレンダはあえてレオナルドに歩調を合わせ、横に並んだのだ。
「あ、あの……。ごめんなさい……」
「……何がだ?」
「わ、私が仲良くなったから、喧嘩させちゃったみたいで……」
「卑屈か、貴様」
どう解釈すればあの喧嘩の原因がブレンダになるのか。
そんな意味不明な解釈をしているブレンダに、レオナルドはつい眉間に
ブレンダの精神が、レオナルドは割と心配になってきている。
「喧嘩はいつもの事だ。あいつの頭がお花畑だから、私とよく意見が擦れ違う」
「『頭がお花畑』……」
珍妙な例えであるが、かえってしっくり来ていた。
あの底抜けの明るさは、確かに『お花畑』という例えが正しいかもしれない。
「多少すればすぐに戻る。それに……」
「『それに』?」
「……この程度で喧嘩別れするなら、あいつとの旅は今日まで続いていない」
ユウダチを信頼しているレオナルド。
しかし、そう明かすレオナルドの頬に赤みが差しており、ブレンダはその頬を見逃さないのだった。