100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

9 / 221
第八節 旧知の魔術師

 ラビリンシア王国近衛兵3番隊。その部隊は近衛兵と名付けられてはいるが、戦う兵士の集団ではない。

 近衛兵らしい近接戦闘を専門とする1番隊とは打って変わり、3番隊は魔術研究を専門としている。

 ちなみに、魔術戦闘を専門としているのは2番隊であり、物資補給と野戦病院を担っているのが4番隊だ。

 

(1番隊も近衛兵って名前になったのは200年だか300年だか、そんくらい前の話なんだぜ?魔術戦闘団と魔術研究所を国王直轄にするついでに、もともと国王直轄だった騎士団も近衛兵って一纏めにしたらしいな。後、4番隊が創設されたのは50年くらい前。物資の補給とか戦闘時の応急措置とか、今まではそれぞれ部隊が負担してたんだが。1回それで手酷い失敗して、反省のために専門部隊を作ったって話さ)

 

 などとエクスカリバーが自身の知識を披露しているが、残念ながら俺はそんな事すでに知っている。

 父親は日々生きるための知恵だけでなく、世界の歴史や地理学、魔術学など、当時農民だったとは思えない教育を俺に施した。

 

(魔術学を学んだっつっても、肉体強化すらできねぇけどな)

(うるさい。学問と実戦は違うんだよ。それに、魔術学を学んでた事自体は役に立ってる。おかげで、3番隊とも繋がりができたんだからな)

 

 エクスカリバーの野次を避けつつ、3番隊に居る旧知の友へ思いをはせる。

 

 旧知の友は同郷の友、イーストイナッカノ農村に居た魔術師である。

 魔術を学ぶ事ができずに魔術師の才を遊ばせていたそいつを見かね、俺が魔術を教えたのだ。

 もちろん、俺は肉体強化も十全にできない程魔術師の才がないので、実演してやる事はできなかった。

 しかし、実演などしなくともそいつは良く学び、魔術が使えるようになっていたのだ。

 おかげで村の便利屋または魔力石への魔力補充係扱いだったが。

 農村に燻らせておくには勿体ないと、勇者になった際にそいつを近衛兵3番隊に推薦した。

 頭角を現しつつある噂が流れている辺り、俺の観察眼に狂いはなかった。

 そして晴れて、俺は近衛兵3番隊との繋がりを得たのである。

 最先端の魔術研究集団だ。この繋がりは絶対に美味しく利用できる。

 

(やっぱ下衆だな)

 

 何故繋がりを増やしただけで下衆扱いされるのか、全く分からない。

 

(鏡見りゃ分かる)

 

 手鏡なんて持ち合わせていない。

 

 とにかく。俺はその旧知の友を頼るべく、3番隊隊舎へ足を運んだ。

 

 

 

「ああ忙しい忙しい。これから会議だなんてもう面倒臭い。サースイナッカノ農村の魔道具も解析全然進んでないし、個人研究をする時間もない……。就職先間違えたかなぁ……。でも近衛兵隊じゃないと研究費なんて下りないだろうし……。堂々巡り。止めよこの思考」

 

 3番隊隊舎に入ったところで目の前を行ったり来たりする、一見少女に見間違えそうな女性。そう、3番隊隊長マリー・エームリッスだ。

 その名前は魔術研究家として他国にも有名である。

 

「あの、エームリッスさん?」

「あら、テノールくん。ブレンダに用事なら勝手にどうぞ。あの子なら自分の部屋で個人研究してるんじゃない?……自分の研究に打ち込めるなんて、ああ妬ましい。今度ロスの魔術を解析している班に加えてやりましょ」

 

 エームリッスは雑な応対をし、あまりにも理不尽な私怨で仕事の追加を計画しつつ、隊舎から出て行った。

 おお、我が友ブレンダよ。汝に幸あらん事を……。

 

 とりあえず。3番隊で1番偉い人の許しを得たので憂いなく旧知の友、ブレンダの部屋に向かう。

 すれ違う隊員たちからの声援に手振りと笑顔を送りながら、程なくして辿り着いた。

 旧知の友にも礼儀を忘れぬよう、しっかり扉を軽く2度叩く。

 しかし、返事はない。

 人の気配はあるようなので、扉を小さく開けて中を覗く。

 

「うーん、どうして上手くいかないんだろう……。魔力は誰にでも流れてるんだから、誰からだって魔力を吸収できるはずなのに……。魔術師にだけ、特別な接続器があるのかなぁ……」

 

 研究に集中してて、叩く音が聞こえなかっただけみたいだ。

 順調に研究者の道を歩んでいるらしい。

 ある意味で頼もしいんだが、反応がないのは困る。

 再度扉を叩くが、駄目だ。

 これはもう仕方ない。

 

「ブレンダ」

 

 仕方ないので、すぐ傍から声をかけた。

 

「え?テノールさ―――わ、わっ!」

「おっと!」

 

 驚きのあまり転びそうになるブレンダ。俺は優しい男らしく手を引いてやった。

 ちなみに、同郷の友ではあるが、俺は彼女に本性を晒した事はない。近所の優しいお兄さんで通している。

 

(お前は故郷に居た時から下衆だったのか。同郷を騙し続けて恥ずかしくねぇか?)

 

 優しさを振りまく事は何も恥ずかしい事ではない。

 

「大丈夫かい?ブレンダ」

「だ、だだ大丈夫でふ!!」

「そうか、それは良かった」

 

 あわてんぼうでおっちょこちょいなのは昔から。相変わらず、可愛らしい妹分だ。

 

「久しぶり、ブレンダ」

「は、はい!お久しぶりです、テノールさん!」

 

 俺に向ける尊敬の態度と羨望の眼差し。実に素晴らしい。ベアウと違って女の子なのも点数高い。

 

(騙して利用してるか弱い女の子から憧れられてどんな気分だ、なぁおい下衆野郎)

 

 嬉しいね、とっても嬉しい。

 

「そ、それで、何かご用事ですか?3番隊への用事というと、エームリッス隊長への支援要請あたりでしょうか。私じゃまだまだ力不足ですし……」

 

 目を右往左往させたり俯いたりと、感情が忙しそうだ。

 見ているだけでも楽しい。

 このまま眺めているのも良いが、目的を忘れてしまいそうだからさっさと済ませよう。

 

「ブレンダの力を借りに来たんだ。照明魔道具の修理を頼みたくてね」

「照明魔道具、ですか?」

「これ、俺に宛がわれている王宮の一室に備えられてる備品なんだが。どうにも燃費が悪いんだ」

「燃費が悪い?高級品だからでしょうか」

「いや、同じ物がいくつかあるんだが、これだけがすぐに魔力切れしちゃうんだよ」

「うーん……」

 

 ブレンダは照明魔道具を受け取り、折り畳み式机を広げた。

 工具も持ってきて手際よく解体していく。

 性格に反して手先は器用なんだから謎だ。

 

「うん?何これ」

「何かあったか?」

「魔術石が2つ付いてます。しかも、1つは解体しないと分からないような場所に付けられてました」

 

 基本、普及している魔道具は魔術石1つ。複数の魔術石が付いているのは聞いた覚えがない。

 

「ちょっと待って……。わぁ、これ凄い!小型化してるんだぁ」

「小型化?」

「はい。この魔道具、実は2種類の魔道具みたいです。1種類の魔道具に見えるよう、それぞれの機関が小型化されてます。魔力経路は共有、魔力石1個でどっちも動くようにしてるんだぁ」

 

 1個の魔術石で2種類の魔道具を動かしていたため、この魔道具は魔力切れが早いのだろう。

 まさかの技術にブレンダは感動しているみたいだが、俺は悪寒を覚えた。

 

「ブレンダ、その2種類の魔道具はどんな効果なんだ」

「片方は、照明ですね。もう片方は、何でしょう。この魔術式は、Sound(サウンド)……集音?違う……。音を、どうしようとしてるんだろう……。ごめんなさい、テノールさん。ちょっと時間を貰えますか?」

 

 ブレンダは魔術石に描かれた魔術式を読み解こうとするも、どうやら難解な物らしい。今すぐには無理そうだ。

 

「構わない。けど、頼んで良いか?」

「任せてください!これも恩返しです!」

 

 俺は研究の邪魔になる事を危惧したが、ブレンダは何の迷いもなく二つ返事で請け負った。

 

「ありがとう、頼んだよ」

「はい!」

 

 悪寒は消えないが、心強い友のおかげでだいぶ拭えた。

 

 そうして俺は、ブレンダの解読結果を待つのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告