100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者   作:RAINY

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第三十三節 この手に限る(数日ぶり、2度目)

「すみません、急がせてしまって。でも、嫌な予感がするんです」

 

 リチョーシから出発して一夜明けた日。

 俺は日が昇って早々、パースに出発を願い、今馬車を走らせていた。

 ヌエトラから危険な状態である事を具体的に聞いているが、パースが知覚できない相手からの情報なので、そういう曖昧な表現をするしかなかったのだ。

 

「ええ、了解ですとも。テノールさんの嫌な予感は、結構当たりますからね」

 

 行いの良さ故か、パースは俺を信頼して馬車を出してくれた。

 ここまで疑われないと、かえって罪悪感が湧いてくる。

 だが、俺の罪悪感より事態の解決だ。

 俺もその腕前を目の当たりにしたレオナルド。

 上級魔術すら使えた彼が危機に瀕しているとなると、前回の巨大スライム以上に危機的状況かもしれないのだ。

 

「……あれは、馬車ですか。いや、でも結構お急ぎのようですねぇ……」

 

 パースは前方からこちらへ走ってくる馬車を注視した。

 その馬車はかなり速度を出しており、怪しさがある。

 だが、そう怪しむ必要はなかった。

 

「あれは、ニオ?」

 

 その馬車の御者を務めているのが、パースが見るにニオのようだ。

 

「パース隊長!」

 

 ニオは大声で自身を証明し、こちらの馬車の近くで速度を緩め、そして停まった。

 もちろん、こちらの馬車も停まる。

 

「隊長、ご報告します!昨日よりサースイナッカノ農村付近の森へ魔道具調査に向かったマリー隊長、ブレンダ隊員、冒険者レオナルド、以上3名が帰還しておりません!」

「ついでに言うが、レオナルドは危険な状態になってるはずだ!今すぐにでも助けに行かねぇと!」

 

 ニオの報告に合わせ、馬車から身を乗り出したユウダチが首飾りを掲げながら補足した。

 その首飾りは(いのしし)の小さな彫像をぶら下げている。

 おそらくは、ヌエトラの首飾りと同種の物。

 ユウダチもレオナルドも、何故ムラマサが作ったはずの首飾りを持っているのか。

 謎ではあるが、詮索している場合ではない。

 よりによって、ブレンダが巻き込まれた事が確定しているのだ。

 

「テノールさんの嫌な予感、当たったようですねぇ……」

 

 パースは報告を聞き届け、苦い顔をした。

 俺はレオナルドが危機に瀕している事前情報があったから、それ程衝撃が大きくなかったのだ。

 その事前情報がなかったパースの衝撃はどの程度のモノだろうか。

 

「一旦サースイナッカノ農村に集合。作戦会議をしてから、森の―――」

「ユウダチいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 パースが指示しようとしたところ、その指示を(さえぎ)る怒声が響いた。

 怒声の発生源へ視線をやれば、異常な光景をその目にする。

 馬車が、浮いていたのだ。

 その飛行馬車は徐々に高度と速度を下げ、俺たちの傍で停まる。

 中から飛び出すのはムラマサの姿。

 訳も分からない混乱に追いやられ、ユウダチ以外は皆固まっている。

 

「お、ムラマサも近くに居たのか。これは上々―――へぶし」

 

 ムラマサがユウダチに駆け寄ったかと思えば、そのユウダチの頬を叩いた。

 ユウダチが混乱する皆に仲間入りしたところで、ムラマサがその胸倉を掴み上げる。

 

「説明しなさい、最強コンビ!どうやればその片割れが危機に瀕する状態に陥るんですか!」

「あ、いやー……。依頼の都合で二手に別れてな?」

「どうせ喧嘩でもして別れる事になったんでしょう!」

「あー、んー、まぁ……。そういう点も、なくはないかなー……。って謝るから金槌は止めろ!」

 

 金槌を振り上げるムラマサに対し、ユウダチは防御の姿勢を取った。

 随分と仲睦まじく争っている。

 やはりと言うべきか、ユウダチとムラマサ、それにレオナルドは浅からぬ仲だったようだ。

 そうでなければ、首飾りは貰っていないだろう。

 

「失礼。ムラマサさんも行方不明者の捜索に協力してくれる、という事でよろしいですか?」

「行方不明?レオナルドの奴が行方不明になったんですか!おいこら詳細を吐け、この近接馬鹿!」

「吐くよ、吐くから揺らすな!」

 

 パースが争いを中断しようと割って入ったのだが、焦りも合わさってか、ムラマサの怒りが増してしまった。

 揺さぶられまくっているユウダチはなんとかムラマサを落ち着けようとしているが、ムラマサに落ち着く兆候はない。

 収拾が付かない。

 そういう時はどうすれば良いだろうか。簡単である。

 

「御免」

「うっ……。きゅう……」

 

 落ち着かない奴を締め落とせば良いのだ。

 こうして、ムラマサは俺の手によって静かになった。

 ……これでムラマサを締め落とすのは2回目か。

 

「えーと。とりあえず、サースイナッカノ農村で情報共有と作戦会議です」

 

 一旦混乱を解消すべく、パースは順序を決めた。

 皆は頷き、パースに従う。

 

「ムラマサさんはどうします?」

「あ、俺、俺が運ぶんで、大丈夫です。俺が付いてきている理由も、情報共有の時に」

 

 俺が横たわっているムラマサをどうするか悩めば、ムラマサの馬車からリカルドが名乗り出た。

 同じ馬車に乗っていながら、ムラマサを抑えられなかった事。

 それについて多少責任追及したくはなった。

 だが、ムラマサを監視してくれるという事で、リカルドは無罪放免となるのだった。

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