100万人目で抜けるつもりだった聖剣の100万人目だった勇者 作:RAINY
「それでは、情報共有を始めましょう」
サースイナッカノ農村の貸し切られたとある宿にて、パースが情報共有の場を仕切った。
隊長だけあって、慣れが感じ取れる。
「むぅ!」
開始早々、声を上げるのはムラマサ。
ちなみに、声は上げているが手は上げていない。
正確には、手を上げられない。
「はい、どうしました?ムラマサさん」
「むぅむむむむむむむむむむむむむんむむぅむ」
「それはですね、ムラマサさん。貴女にはまず皆の情報を共有されてからでないと、場を乱す危険性があるんですよ。だから、縛らせてもらっています」
そう。ムラマサは椅子に縛り付けられた上で、口も布で覆われているのだ。
それにしても、パースはどうやってムラマサの言葉が読み解いたのだろうか。
「む、むぉむむむ。むむむむむむ」
「ご理解いただけて何よりです」
ご理解いただけたのか。こっちは何も理解していないのだが。
「さて、まずは私たちがサースイナッカノ農村へ向かっていた事についてから。私たちは奴隷商の足跡を見つけました。その足跡がサースイナッカノ農村に伸びていたため、奴隷商の跡を追うためにここへ向かった訳ですねぇ」
俺とパースの目的はそもそも奴隷商の追跡。
俺がレオナルドの危機を知って急かしはしたが、パースにはレオナルドの危機であると教えていない。
ニオとユウダチ、ムラマサとリカルド。彼女らとの合流は偶然なのである。
「続いて、ニオ」
「了解しました。私たちはサースイナッカノ農村に付き、森で魔道具を調査する組と、村で情報を収集する組に別れました。調査する組が、マリー隊長、ブレンダ隊員、冒険者レオナルドでした。その組が調査に行って一夜明けても、帰還しておりません。緊急事態であると判断し、救援を願うべくパース隊長の下に向かおうとした次第です」
パースに促されたニオが、冷静に経緯を報告した。
隊内で普段からその手の報告はしているのか、淀みない報告である。
「リカルドさん、お願いできますか?」
「あ、ああ。俺たちって言うか俺はムラマサに駆り出されてな。なんでも、友人の危機だって言うんで聖剣デュランダルを強奪にかかり、姉貴と交渉して、聖剣デュランダルを一時貸与する事になった。後々罰を受けてもらうために、俺が監視役をやってるんだ」
サースイナッカノ農村へ行く意思はリカルドのモノでないためか、少し曖昧なところがある。
推測するに、ムラマサも首飾りによってレオナルドの危機を知ったのだろう。
それで、レオナルドの危機を救う武器として聖剣デュランダルを欲した、という事だろうか。
何故聖剣デュランダルを欲したのか、具体的な理由が曖昧な部分である。
と言っても、強力な武器を必要とする気持ちは分からなくもない。
敵勢力を正確に把握できていないのだから、できるだけ大きな戦力は欲しくなるものだ。
「他の方の情報共有が終わったので、そろそろ良いですかねぇ。皆さんの情報を聞いたところで、ムラマサさんも情報を共有していただきますよぉ」
「ぷはぁ……。女性を縛り付けた事について、出る所に出てもらいたい所存ですが、ボクが冷静さを欠いていたのは事実です。許しましょう。で、情報共有でしたか。実際ボクは何を共有すれば良いので」
パースが口を覆っていた布を解けば、ムラマサはわずかに不機嫌でありながらも、協力的な姿勢を示した。
しかし、何を話せば良いのか、判別できていないようだ。
「そうですね……。どうやってレオナルドさんの危機を知ったか、教えてもらえますか?」
パースは最初に、ムラマサが動いた原因について掘り下げた。
リカルドの口からその辺りは聞けていないのである。
俺はヌエトラのおかげで予想できているが、パースにとっては依然として不明だろう。
「ボクが作った特殊な魔道具、12個1組の首飾りヌエ。その首飾りは所有者が危機に瀕した時、別の所有者にその事を伝えます。親機である首飾りヌエズミを持つボクに、子機である首飾りヌエジャを持つレオナルドの危機が伝えられたんですよ」
「俺もその首飾りを持っててな。俺のはイノヌエだっけ」
「はい。ユウダチが持っているのは子機のイノヌエです。親機より範囲が狭まりますが、同じように別の所有者の危機が伝えられます」
ムラマサの説明に相乗りし、ユウダチが猪の首飾りを取り出した。
今されたムラマサたちの説明と以前されたヌエトラの説明、両者に
「それって、似たようなのテノールさんも貰ってましたよね?」
「そうです。言うのが遅くなって申し訳ありませんが、俺が嫌な予感を覚えたのは、この首飾りが何かに反応していたからなんです。効果は全然存じていませんでしたが」
俺の所持について、パースから言及されたので素直に明かした。
こんなので変に怪しまれたくはない。
ヌエトラと思念をやり取りした事は、不要な話題なので伏せておく。
「なるほど、そうでしたか。……ちなみに、その首飾りってレオナルドさんの位置が特定できたり?」
「レオナルドの奴は絶賛危機に瀕しているので、特定できますね」
そんな効果もあったのか、ヌエトラ。
いや、危機に瀕しているのを知らされて、位置が不明じゃ無駄でしかないか。
「なるほどなるほど。では、何故聖剣デュランダルを欲したので?」
「ボクの知見において、レオナルドは最強の魔術師です。そんな奴が危機に瀕しているんですから、そりゃ聖剣の2本や3本や4本、欲しくなるでしょう」
おおよそそんな事だろうと思っていたが、4本は多い。
そんなに聖剣が1か所に集まってたまるか。現状2本は揃っているけど。
「でも、修理したって使えないんじゃないんですか?聖剣デュランダル。担い手を選びますよね?」
「修理はすでに終わっていますし、製作者権限で最低限の力は振るえます」
質問をしたパースや俺は、ムラマサの答えに顔を引きつらせた。
歴代が作った物だからって、名を継いだ者が使えてしまうのは卑怯ではないか。
もし、歴代ムラマサの作品を、今代ムラマサがかき集めたら。それはそれは恐ろしい事態になり得る。
「今回は担い手候補者が居るので、ボクが振るうまでもないでしょうが」
「担い手候補者って、製作者が候補を絞れるモノなんですかね」
「とりあえず今回は絞れるって事で」
「……」
釈然としない返しだが、とにかく信じるしかない。
パースもそう判断したようで、眉間を歪めた後に溜息を吐く。
「それでは、レオナルドさんの場所も特定できるって事ですし。全員で救出しに行きましょうか」
「……一応ですけど、良いんですか?」
パースが救出の決を下したが、当初の目的は奴隷商の追跡。
レオナルド救出は寄り道となる。
「奴隷商と行方不明、無関係とは考えづらいんですよね」
パースの意見はもっともで、行方不明が誘拐とするなら、奴隷商と繋がりがありそうだ。
誘拐された人が商品に、というのは充分に想像できる。
という事で、パースの決定に異論は唱えられず、救出作戦が開始されるのだった。