Twitterの【桜井優太生誕祭2020】にあてて書き上げた作品です!
もしかしたらこんな会話もあったのでは、という妄想を働かせて書かせていただきました‼

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同じ月を見上げながら【桜井優太生誕祭2020】

 こんな夜更けにいったい誰だろうか。若干のイラつきを感じながら優太は通知のあった携帯を手に取る。そして内容を確認するとぽいっとベッドに投げ捨て、すぐにキーボードに手を添えた。黒い帽子をかぶった男性アバターは、白と青をモチーフにした女性に話しかけていく。

 

ハース「進行止めてしまってすみませんでしたユキさん」

 

ユキ「いえいえ、止めてしまったってほどではありませんし。連絡大丈夫だったんですか?」

 

ハース「はい。昔に登録しっぱなしだったSNSから誕生日の通知が来ただけなので、本当に大したことありませんよ」

 

ユキ「えっ、ハースさん今日誕生日だったんですか‼」

 

 ユキのコメントを見て優太は「あっ」と声を上げ頭を抱えてしまう。

 

「し、しまったー。これじゃあ誕生日をアピールしているみたいじゃないか。ほんと、本当に誕生日なんてどうでもいいのに」

 

 優太にとって誕生日はあまり特別なものではない。いや特別なものでなくなってしまったというほうが正しいだろうか。

 

 子供のころは人並みに誕生日を楽しみにしていたはずだ。だが身内を失いあの広い家を引き払ってから、すぐそばで自分を祝ってくれる人間は誰もいなくなってしまった。

 

 誕生日が来るたびにあの幸せだった日々が思い出される。そしてそのたびに寂しさを感じていた優太は、いつの間にか誕生日というものを心の中から消し去ってしまったのだ。

 

 優太自身誕生日を覚えておらず、特別な感情を持ち合わせていない。それゆえに自然と出てしまった言葉であった。

 

 だがそんな事情をユキが知るわけもない。これでは祝ってくださいアピールをしているうざいやつになってしまうと、優太は急いでチャットを打ち込む。

 

ハース「あ、あの、全然気にしないでください! 誕生日なんて全然普通の日ですし、それよりも早く次の狩場に向かいましょう!」

 

ユキ「普通の日なんてことありませんよ! ハースさん誕生日おめでとうございます!」

 

 ユキは声をあげるとクラッカーのエモートを連打する。そんな真っすぐな祝福を受けて優太は頬が熱くなるのを感じた。

 

「……やっぱり嬉しいものなんだな。誕生日を祝ってもらうのって」

 

 ネットゲームに辛い時期を助けてもらったこともあり、優太はリアルでの友達付き合いがあまり上手なほうではなかった。

 

 もちろん身内を失ってからの間、今日が初めて祝われたわけではない。だがなぜだろうか。今日の祝福は子供の時に感じたように嬉しかった。

 

「……ユキさんが祝ってくれたからかな」

 

ハース「ありがとうございますユキさん。本当に嬉しいです」

 

ユキ「いえいえ。何も用意できてなくて情けない限りですよ」

 

ハース「そんなことありません。俺、本当に嬉しいんですよ」

 

ユキ「……だったら嬉しいです」

 

 本当の本当に心の底から嬉しいのに、その想いをチャットでは伝えられないことが優太には口惜しかった。だがこれが自分たちの距離だ。

 

 ネットはネット、リアルはリアル。あまり踏み込み過ぎてはユキに失礼だろうと、感極まる心を落ち着けた。

 

「あまりこの話題を続けて催促していると思われてもあれだしな」

 

ハース「それじゃあ狩の続きをやりましょうか! ユキさん今日の時間は?」

 

ユキ「明日は日曜日ですのでいくらでもどんとこいです!」

 

ハース「わかりました。じゃあ行きましょうか!」

 

ユキ「はいっ‼」

 

 そこでチャットを終えると二人は次なる狩場へと向かうのだった。

 

 

 

――――ピピピピ! ピピピピ!

 

「……うん、あれ。俺いつの間に寝てたんだ」

 

 携帯の着信でゆっくりと頭が覚醒する。いつの間にか机の上で寝落ちしてしまったようだ。

 

 優太はRandgrid Onlineのゲーム画面とハンガーにかかったスーツを見て、先ほどまで夢を見ていたのだとぼんやり感じた。

 

「でもさっきまで何の夢を――――って盛岡さん⁉」

 

 着信を見るとそこには森子の名前があった。優太は椅子から弾かれるように移動すると携帯を手に取った。

 

「も、もしもし、盛岡さん」

 

『桜井さん起きてくれたんですね。よかったー、メッセージログが凄いことになっていたから心配だったんですよ』

 

「メッセージログって、あっ、ほんとだ」

 

 改めてゲーム画面を見ると優太のアバターであるリリィが、素の顔まま文字にならない字の羅列を永遠と吐き出していた。幸いパーティーチャット設定だったため周りには迷惑をかけていないようだ。

 

 優太はほっと一息つく。森子にも迷惑をかけてしまい本当に申し訳ない。そう謝罪をしようとした。だがその言葉の前に森子は言葉を告げた。

 

『それでえっと、多分今日だと思ったのですが。……桜井さんお誕生日おめでとうございます』

 

「…………えっ」

 

『えっ、あ、あれ、今日じゃありませんでしたっけ! え、えっと明日ですか、それとも昨日でしたか⁉』

 

 慌てふためく森子の声を聞いて、優太はカレンダーを見る。そこには何の印もない。だが今日10月27日は確かに桜井優太の誕生日であった。

 

 あの頃と変わらず自身の生まれた日には無関心だった。だが優太の心の底にはあの頃と同じ温かい思いが浮かび上がっていた。

 

「ありがとうございます盛岡さん。本当に嬉しいです」

 

『いえいえ。本当はゲーム内で何か用意出来たらなーって思ったんですけど、あまりいいものが見つからなくて。……情けない限りです』

 

「そんなことありません。俺、本当に嬉しいんですよ」

 

『……だったら嬉しいです』

 

 そう言葉にする森子にはあまり明るさが見られなかった。きっとあの時の彼女もそうだったのだろう。だが今はユキとハースの時とは違う。

 

 優太は一度大きく深呼吸をすると、真っすぐな思いを彼女にぶつけた。

 

「誰よりも先に盛岡さんに誕生日を祝ってもらえて、俺本当に嬉しいですよ。ありがとうございます盛岡さん」

 

『…………はいっ! 改めておめでとうございます桜井さん』

 

 今度はあの時とは違う。本当の気持ちをしっかりと森子に届けることができた。

 

 優太はリリィを、森子は林を『離席中』にする。

 

 そして二人は同じ月を見上げながらしばらくの間会話を楽しんでいくのだった。

 


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