ジャン・バールに甘えたいという性癖だけで書いた。

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 ジャン・バールに甘えたいという衝動に駆られ、書いた。
 色々と展開が可笑しい……。
 


パイレーツのmaternel

 碧空を爽風が駆け抜け、青海が波を立て揺れる。

 その波が立つ様を、椅子から重そうな腰を上げ、透明な硝子が填められた窓枠越しに眺めている白い軍服を着た男性がいた。

 男性はこの碧空から感じる平穏を噛み締めるように背を伸ばし、間抜けな声でおもいっきり欠伸をする。

 

「指揮官。こっちの書類、片付いたぞ」

 

 男性──指揮官は背を伸ばすことを止め、自らを呼んだ方向に首を傾け、次に身体も向ける。

 

「お、ありがとう。流石はジャン・バールだ」

 

 黒を基調とし、所々赤銅が入った衣に身を包んでいることと茶髪を一結びに纏め、ポニーテールにしていること、何より、炎が刺し穿つような鋭い深紅の瞳が特徴的な艦船(KAN-SEN)──ヴィシアの巡洋戦艦、ジャン・バールに指揮官は労りの言葉を掛ける。

 指揮官は椅子に座り、ジャン・バールが作成した書類を一通り確認する。

 

「結構チマチマとした字も書けるんだな」

 

 意外そうに指揮官はジャン・バールの方を一瞥し、まあな、とジャン・バールはソファに寝転び言葉を返す。

 そういえば、と指揮官は思い出したかのように続ける。

 

「最近、俺にべったりとくっついてきてる気がするのだが……気のせいか?」

「別に良いだろ。そのくらい」

「……分かった。なるべく気にしないことにする」

 

 ジャン・バールに疑問を一刀両断され、指揮官はこれを不問に付すことにした。

 二人の間を静寂が通り抜ける。

 指揮官は、その静寂が徐々に自分を圧し潰しているようでならないと感受していた。

 一方のジャン・バールは、この静寂を何とも思わないかのようにソファに寝転んでいた。しかし、内心ではジャン・バールは焦っていた。会話にデッドボールを投球してしまったか、と。

 実のところ、ジャン・バールは指揮官を陰ながら愛している。所謂、この母港では「隠れ指揮官LOVE勢」と呼称される者たちの一人だ。隠れといっても、周囲の艦船たちには既に露見してしまっているが。

 愛を向けられている当の指揮官はジャン・バールの好意をよく分かっていない。まさに鈍感極まれりである。余談だが、指揮官は艦船と恋人繋ぎをしている他の指揮官を見かけると、『爆発しろ』と誰にも聞こえない小声でそっと呟く。ブーメランである。

 

 ──なあ、とジャン・バールは壁に掛けられている木製の丸時計を確認した後、意を決し、静寂を打ち破る。

 

「そろそろ昼だし、一緒に何か食事を摂らないか?」

 

 時間帯的にこの話題しかない、と心が焦燥に駆られながらも食事を提案するジャン・バール。

 それを聞いた指揮官も丸時計に眼を向け、「そうだな。そろそろ食事にするか」と返答し、執務室の椅子から再度腰を上げる。

 

「じゃ、食堂に向かうか。この時間だと、混んでるだろうがな」

 

 心の中でホッと安心しながら、軽快なフットワークでソファから立ち上がり、瞬時にジャン・バールは扉の前へと移動する。

 それに指揮官は苦笑を浮かべるも、ジャン・バールに続く。

 

 

 

 

 食堂は様々な艦船たちにより、賑わっていた。

 喧しく騒ぐ者、それを余所目に黙々と食事を続ける者、槍を誤って振り回してしまう者。

 艦船たちはみな、十人十色なのだ。

 指揮官は扉を開き、その十色の賑わいが溢れている中にジャン・バールと共に邪魔にならないように入り込む。

 

「ん? あれは……?」

 

 ひっそりと侵入してきた彼らに気付く重桜駆逐艦が一人、訝しむように凝視する。

 そして、それが指揮官だと認識した刹那──

 

「しきかぁぁぁぁぁん!!」

 

 大声で指揮官と叫び、まるで標的を絞った犬のように駆け寄り、飛びかかる。

 

「おおう!? 夕立か!?」

 

 弾丸の如き速度で飛びかかられた指揮官は、重桜駆逐艦──夕立の突進に耐えきれず、そのまま押し倒される。

 指揮官を押し倒した夕立は、印を付けるかのような勢いで指揮官の胸元に頭部を押し付ける。

 

「最近相手をしてくれなくて寂しかったんだぞ! この女誑しめ!」

「ちょっ、夕立! その語弊だと意味が深くなるからっ!」

 

 指揮官は夕立の語弊を指摘し、疾しいことは一切していないと否定しようとする。

 しかし、夕立はその指摘に全く耳を傾けておらず、指揮官に甘えようと頭部を擦り付け続ける。

 しばらくし、ようやく夕立が指揮官から離れた頃には、指揮官の息は絶え絶えとしていた。

 その光景を傍らに、不機嫌さを滲み出し、ギリギリと歯軋りをするジャン・バール。

 

「……早く行こうぜ。指揮官」

 

 憤怒を抑えようとするも、それが表れてしまい、怒りを混ぜたような低声で催促する。

 

「あ、ああ……すまん……」

 

 指揮官は夕立に「じゃあ、俺は行くな」と告げ、ジャン・バールと共に料理の受け渡しに向かった。

 

 

 

 

 指揮官はハンバーグ定食をトレイに載せ、二人分の空席を探し回っていた。

 勿論、ジャン・バールを侍らせているような状態で、だ。

 指揮官が左に向かえばジャン・バールも左に、指揮官が右に向かえばジャン・バールも右に、という状況だ。

 突き穿つような周囲の視線が指揮官の胃を痛めつける。

 二人分の空席があってくれ、と指揮官は切実に願っていた。これ以上は己の精神的にも胃的にも限界が来ると感じ取ったからだ。

 

「指揮官、空席、あったぞ」

 

 指揮官が冷や汗をひたひたと流し始めたとき、ジャン・バールが救いの手を差し出したかのように空席を見つけたと告げた。

 

「あ、ありがとう……」

 

 息を切らしながらも、流れ出る冷や汗が零れないようにゆったりと着席する指揮官。

 

「おい、大丈夫か? 顔色が少し悪いぞ」

 

 ジャン・バールに不意の心配をされ、更に焦燥感が背を撫でる。

 冷や汗はぶわりと湧き出て止まらない。

 

「そ、そうか……? 気のせいだよ……」

 

 艦船たちの視線のせいだなんて、たとえ口が裂けたとしても指揮官には言えなかった。

 

「……嘘つけ」

 

 ジャン・バールは見透かした瞳で指揮官を見つめる。

 そして、指揮官に寄りかかり、耳元で囁いた。

 

「本当は人のことが大の苦手な人間──要するに、人間不信ってことくらい、俺が分からないとでも思ったか?」

 

 核心を、穿たれた。指揮官は、今まで隠していた面をこの刹那で、暴かれた。

 

「良いんだ。嫌なら嫌で場所を移そう」

 

 

 

 

 場所は戻り、執務室。そこで指揮官とジャン・バールは共にハンバーグ定食を食していた。

 

「……いつから、知ってたんだ?」

 

 指揮官は眉を顰め、訝しげに訊ねる。

 

「俺が着任してから十日後くらいからだ」

「そうか。その頃から既にバレてしまっていたか……」

 

 指揮官はガクリと両肩を落とす。

 

「このことは他言無用で頼むよ」

 

 指揮官の表情は更に険しくなる。

 

「ああ、分かってるって」

 

 ハンバーグを一口含み、同意するジャン・バール。

 指揮官はそれに安堵し、肩の力を抜き、椅子に背を寄りかける。

 それと、とジャン・バールは言葉を紡ぎ出す。

 

「自分を偽るのはやめろ。せめて俺の前では甘えてもいいし、本来の自分でいろ」

 

 今まで出したことがないような穏やかな声色だった。指揮官の脳髄に稲妻が迸り、ジャン・バールが懐かしい“誰か”に重なるように空目した。

 

(何だ……これ。懐かしいような、聞いたことがあるような、まるで、自分に“姉”がいたような……)

 

 指揮官の脳にフラッシュバックが掛かる。

 優しく、幼い頃にいじめられていたらしい自分を救ってくれた姉。しかし、その顔は絵の具で黒く塗り潰されたように思い出せなくて。

 自分が十三歳のとき、戦火が故郷とおぼしき地を燃やし、呑み込んだ際、姿形が全く違うものとなった姉と思わしき女性が命懸けで自分を助け出してくれて──

 

 だが、この光景が誰のものか、指揮官自身にも分からない。

 けれど、気付いたときには、涙を流し、ジャン・バールに抱きついていた。

 

「良いんだ、指揮官。お前はよく頑張ったさ」

 

 まるでジャン・バールは、弟を見るかのような眼差しを向け、優しく指揮官の頭を撫で、慰める。

 

 

 

 

「姉ちゃんが、一緒にいてやるからな」

 

 眼を瞑りながら、ジャン・バールは呟いた。




 ジャン・バールママァァァァァァァァァァッ!!(違う)
 自分の性癖をふんだんに詰め込んだ結果がこの二次創作。

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