石上優はもう戻れない 作:顎髭
私は石上と出会った後、つばめ先輩にその事を相談してみた。
すると、どうやらつばめ先輩は既に石上の事件について知っていたみたいで、既にその為に行動しようとしているみたいだ。
しかし、一体どうしてそんなに詳しく事件の事を……?
「大友ちゃんっていう、つい最近生徒会に入った子、知ってる?」
「……ああ……何か白銀が言ってたな……。」
「その子から全部聞いたんだ。そして、大友ちゃんも石上君の心を開こうとしてるんだよ。」
「……その大友ってのは、石上があんな風になった元凶と言ってもいいんじゃ……?なのに今になってどうこうするって、ただの自己満なんじゃないんすか?」
「………やっぱり、そういう風に手厳しい事を言う人もいるんだね……。まあでも、荻野さえいなければ、あんな惨劇は起きなかった。そう考えれば、大友ちゃんも石上君も、一年生全員が荻野コウの被害者なんだよ。」
「………まー、確かにそうかもしれないかな。」
「……あとー、一つ気になったんだけど………、桃ちゃん、荻野に何かした?」
「…………何かしようとはした。」
「…ってことは、未遂って事でいいんだよね………?」
「つばめ先輩。私の目が信用出来ませんか?」
「………桃ちゃんって、たまに冗談抜きで怖い目するからさ…。あんまり乱暴は良くないよ?」
「いやいやいや!!マジで何もしてませんからね!!」
そんなやり取りを桃ちゃんと数日前にしたのだが、まず私は、石上優という人間を見てすらいない。まずは自分の目で、彼がどういう人間なのかを、しっかり確認するのが先決かと考えた。
「………この廃屋に入ってったけど……。」
その日私は、彼の後をつけて、二人で話そうとしていた。その際に、彼がとある廃屋へと入っていったのが目に見えた。何十年か前に建てられたであろう、とある古びた建物。何の為に建設されたのかは分からない。今となっては完全に立入禁止となっていて、誰も近寄ろうとはしない。そんな廃屋に、彼はいる。
「………うわっ、カビ臭い……。」
もう使用しなくなってから何十年も経つ。カビ臭さはかなり際立っていた。
「こんな所に本当にい…………た……。」
奥深くの部屋に、ソファーの上で横たわっている石上を見つけた。しかもその部屋だけは、やたらと綺麗で、人が住んでいてもおかしくない位、埃がほとんどなかった。
彼が掃除したのだろうか?というか、何でこんな所を掃除したんだ?ここで生活でもしているのか?
幸い、彼は眠りについていて、私には気付いていない。というか、起きてたで起きてたで、それも困る。正直な所、私も怖い。
話で聞いたが、風紀委員会の伊井野ミコちゃんを泣かせたとか……。そんなおっかない子なのか、と内心少しビビっていた。ただ……。
「…………綺麗な寝顔してるなぁ……。」
長くなった前髪に被さって、あまりよく見えなかったが、顔だけ見れば、結構端正な顔付きをしている。
「……本当に……あんな怖い子なのかな……?」
子安つばめは、次第に彼に興味を抱き始めた。
辺りを見渡してみると、乱雑に置かれた教科書の中に、一冊の小説が混じっていた。
何故かは分からない。ただ、つばめはその小説を手に取り、読み始めようとした。
「何やってる?」
突然後ろから声がした。彼が起きた。
「あ……えっと……。君……。」
「……何やってんだって聞いてんだ。」
この子の目………一切の光が無い……。
他人を完全に拒絶し、警戒する様な目。心の底から他人を受け入れない感じが伝わってきた。
「い、いやー、君がここに入っていくのが見えちゃって…つい、気になって………。というか、ここは立入禁止場所だよ?見つかる前に、早く出ないと。」
「……別にどうだっていいでしょ…。」
石上は、ペットボトルに入っていた水を飲み干し、そこら辺に捨てた。
「ポイ捨ては駄目だよー!ちゃんとゴミ箱に捨てなきゃ……!」
「…………あんた、マジで何しに来た?」
石上は少々苛立った。
「冷やかしに来たんだったら、とっとと……!」
「まあまあまあまあ!てかさ、君、名前は?」
知ってはいるが、ここで言ってしまえば、また同情を言いに来たと誤解されてしまうかもしれない。ここは敢えて、知らないフリをするのが得策だ。
「………………………。」
「私は子安つばめ。こう見えても、3年なんだよ?」
「………だったら、何だっていうんですか?」
「私は名前言ったよ?だったら、今度は君が名前を言う番だよ?」
「…………石上です……。」
このままだんまりは、後々めんどくさく絡まれそうだと思い、石上は仕方なく自分の名前を言う事にした。
「石上君かぁー。下の名前は何て言うの?」
「………知ったところで何にもならないでしょ……。とっとと帰ってもらえません?」
「……じゃあ、私が当てて見せるよ!当てるまで帰らない!」
だんだんと調子が狂っていくのが、石上には分かった。
マジで何が目的なんだこの人は?
「そうだなー………圭人?」
「………………。」
「違うかー!じゃあ意外にも、健次郎?」
「………………。」
この人は一体、何を一人で楽しんでいるんだ?
というか、マジで何が目的だ?現に僕の事は知らなさそうな感じがするし、同情を言いに来たとは思えない。
だとしてもだ。この無駄に明るい感じ。誰でもウェルカムなノリ。本当にウゼェ。
「…あの………。」
「?」
「……俺がどういう奴か知ってて、こんな調子出してるんすか?」
「そ、それってどういう……。」
「本当はあんただって知ってんじゃないんですか?俺が中等部の頃に起こした事件の事……。」
「な、何の事……?良かったら、私にその事話してくれないかな…?」
「……話したところで別に………。」
想像以上に手強いな、こりゃ。
しっかりと心の扉を閉ざしてしまっている。
こんな言い方をするのも何だが、私は何人もの一人ぼっちを助けて来た。大仏ちゃんや、桃ちゃん。今まで色々あって周囲から孤立した人間達に手を差し伸べた。
そういや、桃ちゃんも最初はこんな感じだったかな。私に対して結構傷付く事言ってきたな……。それでも私はめげなかった。桃ちゃんの笑顔が見たかった。桃ちゃんから私に話しかけて欲しかった。
そんな希望を抱き続け、桃ちゃんの心を開こうとした。結果は成功だ。今まで見た事ない笑顔を、私に見せてくれた。心の底から嬉しかった。
彼もそんな風にしたい。彼の笑顔を見たい。
だが………。
「…マジでどっか行ってくれません?ただでさえ寝起きだから、イライラしてんのに……。」
理由は定かではない。直感でそう感じた。
大友ちゃんがやろうとしてる事は、無理難題だ。
「……石上君ってさぁ……。」
「?」
「……もしかして、家族の事嫌い?」
「………何ですか急に?」
「いやね……ここの部屋だけ凄く綺麗だからさ、もしかしてここで生活でもしてるんじゃないのかなーって……。何日か家に帰ってないよね?」
「………あんたって、随分勘の良い人なんすね……。
はっきり言って、家族も俺にとっちゃ敵ですよ。今更になって頭下げられても、イラつくだけだってのに……。」
「………敵……か………。」
「……誰も信じない。誰にも期待しない。誰も受け付けない。どいつもこいつも本当に腹立たしい……。」
悪態をつく石上を見て、つばめは彼からの悪意を猛烈に感じた。
彼の心は一体どこまでドス黒くなっているのだろうか。
子安つばめは早くも諦め気味だった。彼を元に戻す事など、本当に出来るのか?もう、その手段は無いのでは?
「………さっき、家族の事も敵って言ってたよね…?」
「……それが何か?」
「……ひょっとして、私の事も、敵なのかな?」
「………当たり前でしょ。だからとっとと消えて欲しいって思ってんすよ…。」
「…………そっか…………。」
自然と私の中にあった石上君に対する恐怖は、消え失せていた。
あったのは、悲しさだった。
私の事を敵だと言った事もそうだが、何より、誰より優しくて正義感に溢れた人間が、こんなにまで心が黒くなってしまった事に、私は悲しさを覚えた。
もしこのまま野放しにしたら、彼はこの先どうなってしまうのだろうか。というか、彼はこの先を生きる気があるのか?
「……私の事を敵だと思ってもいいよ。でも、私は君の事を、敵だとは思わないよ?直感なんだけどさ、君の事を良い人だとは思ってるんだ。
また会ったらこうやって話そうね。」
これ以上下手に刺激するのはよそう。そう考え、つばめはここから去る事にした。
「じゃあねー!また話そうねー!」
早く出てってくれと言わんばかりの目で彼は私を見ていた。明るく振る舞ってはいるが、やっぱりどこか悲しくなりそうな部分がある。
彼は……優くんは………。
「(………まだ諦めるのは早いかな……。焦る必要なんてないし、じっくり時間をかけて考えよう。)」
つばめの去る姿を見て、石上は大きくため息をついた。
そして、再びソファーの上で横になり、眠りにつこうとした。
「………チッ。マジでどういうつもりだよ………。面倒なのに目ぇつけられたな………。」
子安つばめ。
名前だけは聞いた事があるが、まさかここまで面倒な人だとは……。
無駄に明るい感じが、まぁ腹立たしい……。あの時のアイツみたいだ。
『石上君、消しゴム落ちてたよ』
「…………………。」
やめだやめ。何で自分から胸糞悪い思いしなきゃいけないんだ。
それに、悪いのは全部、荻野やアイツらだろ。
そう………僕は何も悪くない。
中等部の事件は、確かに荻野を殴った石上にも悪い点はあります。
ですが、それすらも悪くないと主張する程、石上の心は黒くなってしまいました。
次回は、久々に小野寺さんを出そうと思います。