石上優はもう戻れない 作:顎髭
皆様全員が納得いくような作品は作れないかもしれません。ですが、これからも何卒宜しくお願いします。
眠いな……。
ようやく放課後になり、石上は真っ先に下校しようとしていた。
「………何で最近こうも眠れないんだ……。」
どう言う訳か、石上は最近、寝ては起きての繰り返しを毎晩続けていた。何か不眠の原因があるのか?いや、考えてもアレくらいしか思い付かないな……。
『ちょっと石上!!何分遅刻してると思ってんの!!』
『服装直しなさいってあれ程言ってるでしょ!!』
『また授業サボったでしょ!!』
………あいつ……。
先程までは何かクヨクヨしてたくせして、何故か急にいつもの調子を取り戻していた伊井野に、僕は苛立ちを覚えていた。その苛立ちこそが、不眠の一番の原因だと思う。
ビービーうるせぇだけなのに……。
「…………!!」
「わっ!!」
余計な事を考え過ぎていたのか、僕は誰かとぶつかってしまった。
「いててて……。ちゃんと前見て歩かないとダメだし!」
「…………………。」
ギャルっぽい感じの女生徒……。多分先輩だな。
「………………すんません………。」
無視したり悪態つくと何か面倒臭くなりそうだ。取り敢えず謝っときゃいいか。
「…………………。」
石上の後ろ姿を、その女生徒はずっと見続けていた。そして、しばらくして、誰かに電話を掛けた。
『……どうだった?石上優を直に見て?』
「ええ、かぐや様や大友京子がおっしゃる通りです。
完全に人を拒むオーラ。ありとあらゆる悪意がこもった目。先程もぶつかっても、仕方なく謝罪の言葉を述べただけ。何も悪くないという感じが凄く伝わってきました。」
『そうですか……。』
「しかし、どうして私を使うんですか?かぐや様が直接会えばいいというのに。」
『私が表に出て行動したら、それこそ警戒されるでしょうに。だから敢えて、早坂に行動させたんですよ。』
「…………まるで、いつかの誰かを見ている感じでしたよ。」
『…………………。』
氷のかぐや姫。
かつて四宮かぐやはそう呼ばれていた。いや、恐れられていたと言った方がいい。
誰にも期待しない眼差し。非情で誰も受け入れないオーラ。かつてのかぐやと今の石上は、どことなく相似していた。
「………彼にも来るんでしょうかね……。氷が溶ける時が……。」
『…………どうでしょうね……。』
「………やはり一度、会ってみませんか?」
『先程も言ったでしょう。私が行動したら、彼の警戒心をさらに上げさせるだけだと……。』
「うまい様に、私が彼を誘導してあげますよ。それに、あなたも彼に興味を抱いているのは分かってるんですよ。」
『………まあ、同じ境遇にいた人間ですからね……。少々気には止めてますよ……。』
「……これで決まりですね。あまり手厳しい事は言わないで下さいよ。」
『自分から会ってみないかと言っといて、それは無いでしょう。
私が言い過ぎたら、あなたが止めて頂戴ね。歯止めが効かないタイプなもので。』
「……全く、いつもそうやって私に頼ってばかり………。会長の事だけではなく、石上優の事も私に頼ってばかりで……。」
『愚痴が思いっ切り聞こえてるわよ。』
「ごめんなさーいごめんなさーい。」
………石上優……ね…。
見た感じ、確かに彼は心から同学年達を恨んでいるかもしれない。でも、彼は同学年に対して特には何もしていない。こちらから何もしなければ、特にこれといった事はしてこないのでは……。
もしそうだとすると、大友京子たちがやろうとしている事は……。
「………かぐや様?」
『…あ、ああ、少し考え事を……。』
「会長の事を考え過ぎるのも程々にして頂きたいものですよ。」
『違うわよ!!私がそんな恋愛バカだとでも!?』
「思ってます。」
私は早坂との電話を終えた後、大友京子の元へと向かった。
何故かというと…………。
『お願いします四宮先輩!!勉強を教えて下さい!!』
まだテストでもないのに、彼女は私に勉強を教わりたいみたいだ。というのも、彼女はかなりの成績の悪さで、テストだけでなく、授業の合間にある小テストの段階で、留年の危機がある位だ。高等部進学試験も、ギリギリの点数で合格したのは知っていたが、まさかここまで勉強が苦手とは思っていなかった。
でもまあ、一応同じ生徒会役員ですから、放っておくのは流石に酷過ぎます。今日は生徒会の仕事も部活も無い為、下校時間ギリギリまで教える事が出来ます。
でも大友さん……。私に勉強を教わるという事がどういう事か、よく分かっていないようでしたが……。
「…………………。」チーン
「………はぁ。」
勉強開始から10分も経っていない。にもかかわらず、既に大友の頭はショートしていた。流石のかぐやも、ため息を隠せなかった。
「あなた……まだ基礎中の基礎ですよ……?」
「すいません……さっぱり分かりません……。というか………四宮先輩の教え方が高レベルすぎて………。」
やはり私に教わる事を軽率に見ていたようだ。
放置しなくて良かった。そうしてたら、本当に留年確定してたかもしれない。
「………まあ、それはそれでこちらも腕が更に鳴りますよ。小テストのある来週の火曜日まで、私がきっちり教えてあげますから、ね?」
「目が凄く怖いんですけど!!」
こうして、大友京子の留年を回避する為、かぐやはありとあらゆる手段を使った。
ピロリーン
『京子ー!土曜日駅前の服屋行こー!』
「あ、すいません四宮先輩…すぐ返信しま」
「あらあらあら。勉強の最中にいけませんねぇ。これは、私が管理しておきましょうか。」
かぐやはすぐさま大友のスマートフォンを没収した。
「ちょっと待って下さい!せめて返信だけでも…!」
「その心配は御無用です。ほら。」
『ごめーん!小テストの勉強しなきゃマズい!』
「何勝手に返信してるんですか!!」
「これで土曜日も、私と勉強が出来ますね。」ニコッ
大友京子は早速後悔した。
こんな風になるのだったら、白銀に勉強を教わるべきだったと。
だがしかし!そんな後悔とは裏腹に、大友の勉学に対する集中力及び定着力は、土日の間に、二次関数的に上昇し続けた。
そして月曜日になって、大友京子は気付いた。
四宮かぐやは小テストの為だけでなく、これから先の期末試験や模擬試験の為に勉強を教えているという事に。
「……ふぅ〜………。」
「あらあら。先週とは見違える程の成長ですね。」
その日、大友とかぐやは図書室で勉強をしていた。
「やれば出来るんですから!」
「自分で言う事ではないでしょうに。
では、最後の仕上げと行きましょうか……。」
かぐやが手を動かそうとしたその時、背後から女生徒3人かがヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
「また評価上げようとしてるよ……。」
「嘆かわし〜……。」
「やだやだ……。」
かぐやは動きを止めた。そして、黙って大友の方を見た。
「………高等部に入ってからなんですけど………私……『荻野に加担してたんじゃないか』って噂されてるんです……。」
はぁ?
「荻野と一緒に石上君を嵌めて……真実が暴露されて、荻野の事を切り捨てた……と………。」
何だその馬鹿みたいなデマは………。
かぐやは呆れを隠せなかった。
「でもいいんです……。今度はこっちが言われる側ですから………。」
浮かない顔をして、大友は勉強を開始した。
今も同学年からの陰口は続いているが、大友はそれを無視した。
……石上君の傷に比べれば………安い物だ……。
見かねたかぐやは、席から立ち上がり、彼女達の元へ向かおうとした………が………。
「ずる賢い女だよねー……。」
「てか、何で生徒会に入った訳?」
「自分はいい人ですアピールの為?」
「何それww」
「馬鹿みたいww」
「評価上げのに必死す」
「ねぇ。」
突然誰かが後ろから声を掛けてきた。
振り返ってみると、そこには小野寺がいた。
「さっきからコソコソうるさいんだけど。静かにしてくんない?」
「お、小野寺さん………。」
「周りの迷惑になってんのに、気付いてないの?」
辺りを見渡すと、陰口を言っていたグループの事を先輩達がじっと見ていた。
「さっきからずっと喋ってばっかじゃない?」
「用ないんだったら出てってくれないなぁ…。」
「マジで気が散るわ……。」
「あ……いや、だってそれは………。」
「てか、大友に何か言いたそうな感じだけどさ、何で直接言わない訳?」
「いや………それは……。」
「何か言えない事情でもあんの?」
「……………………。」
3人は黙り込んだ。
「………出てってくんない?はっきり言って、邪魔。」
ばつが悪そうな感じを出して、3人は図書室から退室した。
3人の後ろ姿を別の物を見るかのような目で小野寺は見ていた。
「………………………。」
「お、小野寺さん……。」
大友が駆け寄ってきた。
「ん?」
「その………ありがとう……。」
「……別に。図書室は静かにしなきゃいけない場所でしょ?
それにさ………散々噂を鵜呑みにするのが駄目だって、あん時思い知ったはずなのに………。マジで腹立ったよ。
てか、大友も大友だよ。何で言われっぱなしでいるのさ?何で何も言い返さない訳?」
「それは…………。」
「『石上優の傷に比べれば安い物』ですか?」
かぐやも来た。
「四宮さん………。」
「いい事を教えてあげましょう。
人間には、何種類もの弱さがあります。先程の彼女達の様な、群れる事でしか他者を攻撃出来ない弱さ。他にも沢山あります。
そして、あなたの弱さは………いつまでも過去を引き摺ってばかりいる弱さです。」
「過去を……引き摺ってばかり……。」
「確かに石上優が受けた傷に比べれば安い物です。ですが、それをいちいち気にしていては、いつまで経っても成長など出来ません。ましてや、石上優を元に戻す事など、不可能に等しいです。」
「………………。」
「何度も聞きますが、あなたは彼を戻す為に、高等部に進学したのでしょう?
だったら、いい加減過去の過ちを引き摺るのではなく、それを未来の動力へと変えるべきなのでは?」
「未来の……動力………。」
「……あなたなら出来ると判断したから、会長や私はあなたを生徒会に招待したのですよ?
なら、それなりの事はしなければ……。もう、口だけではないのでしょう?」
そうだよ。何で私はすぐ忘れるんだ。
確かに生徒会に入会してから、石上君を見ても、震えはしなくなったし、気が動転する事はなくなった。
しかし、やはりまだ拭い切れていない部分がある。とある事で、石上君に対する罪悪感がぶり返してきてしまう。
それじゃ駄目だ。ぶり返してくる罪悪感に、しっかりと蓋をしなければ。もう、引き摺ってはならない……。それを動力に変えるんだ。
「………すみません四宮さん。危うく、また口だけの私になってしまいそうでした。」
「………大友……。」
「……なら、まずは小テストを乗り越えなければなりませんね。」
「は、はい!」
まあまずは、小テストを乗り越えなきゃなんだけど。
「それと、あなた………。」
「はい。1年B組小野寺麗です。」
「………先程はありがとうね。」
「いえ……そんな……。友達の悪口言われるのが嫌だっただけで……。」
「………今後とも、彼女の事をよろしくね。」
「はい。」
翌日の小テスト終了後………。
「……………………。」
「………あれだけやっといて、名前記入忘れってどういう事ですか?」
「そ、それに関してはぁ……!」
「言い訳など通用するとでも?名前を書いていなかったのがあなただけってので担当教員は済ましましたが、私からすれば0点同然ですよ。」
「そんな手厳しい事言わなくても……!」
「どうやらあなたには、勉強以外の事もきっちり教えておく必要があるようですね。
お覚悟はよろしくて?」
「ごめんなさいいい……。」
大友京子、ギリギリ留年回避。
ちなみに、小テストそのものは満点。
大友の陰口言ってた子達は、原作でも出てた石上の陰口を言ってたあの子達を連想させて下さい。
次回、ついにかぐや様と石上が初対面します。