石上優はもう戻れない   作:顎髭

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ついに石上がかぐや様と対面します。
どんな風になるのやら……。


四宮かぐやと石上優

「……そこまで警戒する必要はありませんよ。私はただ、あなたと話がしたいだけなんですから……。」

「…………………。」

 

まんまと騙された。出来る限り、この人とは関わりたくなかったのに……。

 

 

 

 

 

 

 

遡る事十分前……。

 

「…………ん?」

 

下校しようとしていた矢先、石上は動きを止めた。

生徒会室の前で何かモジモジしている人がいた。

 

「(……何やってんだ………?)」

 

少々気にはなったが、まあ別に自分に何かがある訳ではないから、無視して玄関へと向かおうとした。が………。

 

「あ!ちょっとそこのキミ〜!」

 

そのモジモジしてた人から声をかけられた。どこかで聞いた事がある声だなと思い振り返ると、この間ぶつかったギャルっぽい先輩だった。

 

「(確か………早坂っていう名前だったかな……。てか、面倒なのに見つかったな……。)」

「ねーねー!ちょっと頼みたい事があるんだけどー!オケかな?」

「……………急いでるんで……。」

「嘘はよくないし!私そーゆーのスグ分かるんだからさ!」

「(…はぁ……仕方ない……。)」

 

仕方なく、石上は早坂の頼みを聞く事にした。

 

「……で、何なんですか………。」

「生徒会室に入りたいんだけどさー…。」

「………何か入れない事情でも?」

「ゴキブリがいて入れないんだよねー。

 一緒にいた会長も思わず逃げ出しちゃってさー。だから、代わりに退治してくれないかなー?」

「……………………。」

「あり?もしかしてキミもゴキブリ嫌い?」

「……てか、ゴキブリ得意な人なんてごく少数でしょ。まあ、でもいいですよ……。別にそこまで苦手という訳じゃないので………。」

 

早いところ、事を済まして帰りたい。

渋々早坂の頼みを承諾した石上は、生徒会室へ入室した。

 

「………どこにいんだ………?」

 

石上が更に室内へと入ると、背後の扉が閉まる音と、鍵を閉める音がした。

何だと思い振り返ると、いつからいたのか、一人の女生徒が扉の前に立っていた。

その女生徒の顔を見た途端、石上は全てを悟った。

嵌められた。あの先輩もグルだったのか……。

 

「初めまして、石上君。」

 

かぐやは石上に笑みを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

そして現在………。

 

「ずっと立っているのも何でしょうから、座ってください。」

 

何が目的なんだ?一体なぜあんな回りくどい事をしてまで、僕と……。

 

「………さっきも言いましたが、そんなに警戒する必要はありませんよ。というか、何をそこまで警戒しているのですか?」

「………何が目的なんですか……?」

「ふふっ。先程も言ったじゃないですか。ただあなたとお話がしたいだけですよ。」

「まさかだとは思いますが、あなたも会長や龍珠桃の様に、同情を言うつもりなんですか?」

「まさか。そんなつもりは一切ございませんよ。」

「……………………。」

 

読めない。マジで何が目的だ?

僕を退学にでもさせるのか?僕を一体どうするつもりだ?

 

「まあまあ、紅茶でもどうですか?」

「…………結構です……。」

「……………………。」

 

自分で言うのも何だが、本当にかつての自分を見ている様だった。いや、もしかしたら自分以上に心を閉ざしているかもしれない。

誰にも期待しない、恨みや憎しみといった悪意のこもった眼差し。

流石の私も恨みや憎しみまでは抱いていなかった。

私は、人を傷付けるくらいだったら、最初から関わらないという考えの元、他人を拒絶し続けていた。

だが彼は違う。彼は人に傷付けられたから、もう誰も受け入れないという考えの元、他人を拒絶している。

相違点はあるし、ある意味私よりも闇が濃い。

事件前の石上優が、まるで想像出来ない。

 

「………どんな気分でしたか?」

「え?」

「……真実を校内放送で告発した時は、どんな気分でしたか?」

「…………そりゃあもう、胸糞悪くて吐き気がしましたよ……。」

「では、スカッとはしなかったのですか?自分を騙した荻野コウを追い詰める事が出来て、今まで自分を責めてきた同学年達に罪悪感を持たせる事が出来て…。」

「……多少はしたかもしれません。けれど……それでもあいつらに対する苛立ちや恨みが強くて………。それが全部、スカッとした気分を掻き消したんだと………。」

「………復讐したいですか?」

「………したところで、どうせ反省なんてしないでしょう。あいつらの民度の低さはお墨付きですから………。やるだけ労力の無駄でしょう……。」

「まあ、確かにそうですね。」

「………え?」

「知っていますか?今年の一年生の評判、我々先輩方からすると、あまり良くないみたいですよ?」

「……………………。」

「でも安心して下さい。その中に、あなたは入っていませんので。」

「…………入ってたところで、俺からすればどっちでもいい事ですけど…………。

 てか、いい加減教えてくれませんか?あなたの目的は何なんですか?最初こそ、四宮家の権力を使って、俺みたいな奴をここから追い出す為だと思ってましたが、どうもそんな感じじゃない。ましてや同情を言う訳でもない。一体……何の為に俺を……。」

「………かつて同じ境遇にいた人間として、あなたの事を個人的に知りたいと思った。それだけの事です。」

「同じ……境遇………。」

 

氷のかぐや姫。僕も聞いた事はある。

かつての四宮かぐやはそう呼ばれていて、あの時の自分と僕が……同じ境遇………?

 

「……私だってそうでしたよ。あなたの様に、誰にも期待せず、誰も受け入れない。というか、受け入れたところで、勝手にその人が離れていくだけなので………。だったら、はなから受け入れなければいい。最初から拒めばいい。かつての私はそんな感じでしたよ……。」

 

まさかだとは思うが、次に「でも、今は違う」とか言わないだろうな。結局あなたも周りの連中と同じ……!!

 

「………『でも、今は違う』と言いたいところですが、あなたの場合、それは通用しない……。」

「………えっ…?」

「……あなたの心の壁は、突き破ることも、上からも下からも突破する事が出来ない位、高くて深くて厚い。今となっては、荻野コウを殴った事すら悪いと思っていない位、あなたの心はドス黒く染まり、決して晴れる事のない闇に覆われている……。」

「………待ってくださいよ……。荻野を殴った事すら悪いと思ってない?何で俺が悪いような言い方するんですか?あいつのせいで……あいつのせいで俺は……!!」

「……確かに全ては荻野コウが原因です。ですが、殴る以外にも他に方法があったのでは?」

「悪人を殴って何が悪い?俺があの時ああしてなかったら、更に被害者が出るところだったんだぞ!!なのにあいつらは……!まんまと荻野の嘘に騙されて、俺を……!!」

「………あなたの心は、隅から隅まで黒く染まり過ぎです。私の様な非情で冷徹な人間は勿論、会長や藤原さんの様な思慮深くて思いやりのある人間でさえも、あなたの傷の深さや痛さを理解する事は出来ません。

 ですが………自分は全部何も悪くないと思うのは、少々お門違いなのでは?」

「何だと……!!」

「どんな理由があっても、暴力は許されません。れっきとした犯罪の一種です。

 そういった意味では、あなたも荻野や一年生と同じく、犯罪者なんですよ。」

 

そのときの僕は、この人に対して何をしているのか、自覚していなかった。

何を言ってるのかも分からないくらいの怒声を出して、四宮さんの胸ぐらを掴んでいたことに……。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。」

 

生まれて初めて、こんなに怒り狂った。

あの時感情的になったら負けだと、あれ程自分に言い聞かせていたのに………。

本当に僕は、未熟だ。

 

「……溜まってた膿を出せましたか?」

「…………はぁ……。マジで何なんだよ…あんた………。」

「……私で良ければ、あなたのその溜まった黒い膿を出させてあげますよ?いつでも掴みかかっていいですよ?」

 

不敵な笑みを浮かべて、かぐやは崩された襟を正した。

 

「……追放でもするのか……?別にそれでも構いませんよ……。」

「心外ですね。私はそこまで心の狭い人間ではありませんよ。

 私も、少々言い過ぎた部分はありますし、今回の件は全部水に流しますよ。」

「……だったらまず、そのおっかない目を何とかしてくれます?全然信用出来ないんですが……。」

「……まあ処罰を下すにしても、少なくとも荻野みたいな末路にはならないので、御安心を。」

「………やっぱあなたとは関わりたくなかった……。どうせ荻野の事も、再起不能になるまでに潰したんでしょう?そんな恐ろしい人と相手なんかしたくないですよ……。もう帰っていいですか?」

「ええ。時間を取らせて悪かったわ。」

「……あなたの目的が何なのかは分からない。けど、もう二度とあなたとは話したくないという事は分かりましたよ。」

「ふふっ。そうですか………。」

 

石上は荷物を持ち、生徒会室を出ようとした。

 

「………最後に、一つ質問してもいいですか?」

「…………………。」

 

石上は立ち止まった。

 

「あなた………この先を生きる気がありますか?」

「…………………あろうがなかろうが、あなたには関係無い事でしょう。」

 

そう答えて、石上は退室した。

 

「…………………。」

 

かぐやは黙って、石上の後ろ姿を見続けていた。

 

「(私の胸ぐらを掴む様な人間など、初めて見ましたよ……。後悔して、許しを請うのかと思ったら……。

 彼はもう、自分の人生にすら期待していないのでは……。)」

 

大きくため息をつくと、かぐやは時計を見た。石上が入室してから、まだ10分程度しか経っていなかった。かれこれ2時間はいたのではと思う位、中身の濃いやり取りだった。

 

「………無理難題とは、まさにこの事を言うのですね………。」

 

かぐやは、夕日に照らされ不気味さが漂う生徒会室の中で一人、そう呟いた。




次回は大友が、"とある人" と衝突してしまいます。
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